ロシアのビッグダイオミード島(左)とアラスカのリトルダイオミード島(右)。
Orbital Horizon/Copernicus Sentinel Data 2018/Gallo Images/Getty Images
- アラスカ州リトルダイオミード島での暮らしは、アメリカの他のどの地域とも異なっている。
- ロシアのビッグダイオミード島からわずか3.8キロメートル、人口83人のこの集落では、海岸から国境を臨むことができる。
- 「夜、ぐっすり眠ることができている限り、我々は安全だ」と、ある住民はInsiderに語った。「我々は『目と耳』を守っている」
ロシアとアメリカの地政学的な関係は、しばしば地理というレンズを通して見ることができる。両国は、互いに地球の反対側にある複数のタイムゾーンを越えて力を誇示している。
ロシアがウクライナ侵攻後の西側諸国の制裁に対抗して、軍事基地を厳戒態勢に置く中、アメリカとロシアという世界の二大核保有国にとって、武力衝突の恐れとは、長距離ミサイル攻撃や、遠く離れた地域での代理戦争、またベビーブーマーにとっては学校で行われた「Duck and Cover(身を伏せて、被る)」という訓練を思い起こさせるものだ。
しかし、ベーリング海峡の真ん中には、文字通り自宅からロシアを見ることができるアメリカ人がいる。
「ここは国の裏口、いやむしろ玄関口だ」と、長年リトルダイオミード島に住むエドワード・スールック(Edward Soolook)(55歳)はInsiderの電話インタビューに答えた。
アラスカ州リトルダイオミード島から3.8キロメートル先にあるロシアのビッグダイオミード島に駐留するロシア軍は、海岸線に近づきすぎたどんな船に対しても、英語で怒鳴るという。時折、威嚇射撃さえすることもあるとされているが、スールック自身はそれを聞いたことはないという。
「夜、ぐっすり眠ることができている限り、我々は安全だ」と、スールックはInsiderに語り、ロシアがウクライナに侵攻した後も、島の生活が劇的に変化したということはないと指摘した。
「我々は(アメリカの)『目と耳』を守っている」
2020年の国勢調査によると、リトルダイオミード島の唯一の集落であるダイオミードには、83人の住民が暮らしている。
ロシアのビッグダイオミード島には、リトルダイオミード島と同様に荒涼とした風景が広がっているが、小さなロシア軍基地があり、1972年に墜落したソ連のリスノフLi-2型機が今も残されている。
ビッグダイオミード島は、リトルダイオミード島より21時間進んだタイムゾーンにあるが、両島からは、互いの姿がよく見える。アラスカ側のダイオミードの集落は、ビッグダイオミード島の断崖に面している。
最前線中の最前線
リトルダイオミード島の存在を知っているアメリカ人はほとんどいない。しかし、この数週間でそれが少し変わってきた。
TikTokでは、Googleマップをテーマにしたサブジャンルが急成長している。そこにMap_nerdというユーザーが両島に関する動画を投稿したところ、160万以上の「いいね!」を獲得したのだ。
リトルダイオミード島への旅は、今はまだバーチャルで行くのが最適な方法だ。海が凍結していないときに船をチャーターするかハイジャックでもしない限り、ヘリコプターでしか行くことはできない。
LCCのPathfinder Aviationは、アラスカ西海岸のノームからダイオミードへのヘリコプターツアーを提供しており、24時間体制の緊急フライトにも対応している。Insiderは同社の代表者にコメントを求めたが拒否された。
同じくコメントを拒否したBering Airは、2018年の嵐で凍結した着陸場が破損したため、ダイオミードへのフライトを中断している。同社のウェブサイトには「将来的にはサービスを再開させたい」と記載されている。
Alaska Magazineによると、2018年は島の歴史上、これまでにない年となったが、その状況は今も続いているという。
ダイオミードの環境コーディネーターであるオピック・オキンガ(Opik Okinga)は、「気候変動は現実であり、我々は新しい季節、天候、氷の状態、さらには文化の喪失の中での生き方を学ぶことが求められている」とAlaska Magazineで語っている。
「やがて、我々が実践している生活様式、生き残る事ができるよう先祖が授けてくれた生活様式も見られなくなるだろう」
3000年以上も前からインガリクミウト族は、島や周辺の氷床を航行し、気象条件や岩だらけの土地を克服して、ベーリング海峡の魚その他の天然資源を利用して生活してきたのだ。
(翻訳:仲田文子、編集:Toshihiko Inoue)