ロシア・ウクライナ戦争の勃発によって、投資家の視線は株式市場から一転コモディティ(商品)市場に向けられている。世界中で飲用されるコーヒーもそのひとつ。
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株式市場の投資家はこの2年間、記録的なリターンを手にしてきた。ロシア・ウクライナ戦争の勃発によって、スポットライトが照らし出す先は一転、別の資産クラスに移っている。
ロシアとウクライナは世界を代表するコモディティ輸出国だ。
米先物ブローカーADMインベスター・サービシズによれば、ロシアは世界の原油、金、プラチナ(白金)のおよそ1割、パラジウムの5割弱を産出する。一方、ウクライナは小麦の生産量で世界8位、トウモロコシ生産量でも世界5位(いずれも2020年)、「欧州の穀倉地帯」と呼ばれる。
ロシアのウクライナ軍事侵攻が始まったあと、原油価格は1バレル140ドルに近づく勢いで急上昇したものの、国際エネルギー機関(IEA)が供給不足懸念に対応して加盟国による石油備蓄の協調放出に合意し、さらに追加放出の可能性を示唆したことで、100ドル台前半まで下落している(3月末時点)。
また、この1カ月ほどの株式や債券のボラティリティ(価格変動性)拡大を受け、投資家の資金は安全資産とされる金(ゴールド)に流れ込み、相場は2020年夏以来およそ1年半ぶりの高値を記録している。
資産残高15億ドル超の上場投資信託(ETF)運用会社グラナイトシェアーズのウィル・リンド最高経営責任者(CEO)は、コモディティ価格の上昇はすぐには終わらないと指摘する。
「コモディティ価格がさらに値上がりすることは間違いありません。足もとで起きている問題はどれもこれもすぐに解決するようなものではないのです」
ETFが追跡するのは特定の資産クラスやセクター、テーマで、グラナイトシェアーズが組成した「ゴールド・トラスト」「プラチナ・トラスト」はそれぞれ、金とプラチナへのエクスポージャー(=資産を特定のリスクにさらす比率)を提供する。
ETFはコモディティへのエクスポージャーをとる方法のひとつで、それ以外にも、現物を購入したり、石油・天然ガス開発や貴金属・レアメタル採掘などコモディティ関連の銘柄を購入したりする方法もある。
いまロシア・ウクライナ戦争の影響を受けてボラティリティの高まっている8種類のコモディティについて、グラナイトシェアーズのリンドCEOに見通しを聞いた(以下は同氏のコメント)。
原油
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ロシアがウクライナ軍事侵攻を決行すると、原油価格は間もなく1バレル100ドルを超え、一時130ドルを突破しました。今後さらに上昇することは間違いありません。
こうした価格上昇や高止まりがいつまで続くかが問題で、西側諸国による増産がロシアの抜けた穴を埋められるかどうかがカギを握ります。
私たちは気候変動枠組条約締約国会議(COP)などを通じて、化石燃料からより持続可能なエネルギーへの移行を目指すことで合意に達しました。
しかし、世界の関心はもはやそうした合意目標を達成できるか否かではなく、いままさに直面している原油や天然ガスなど化石燃料の供給減がもたらす影響の甚大さに向けられているのです。
金
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投資家は金をコモディティではなく、貨幣の一種と考える必要があります。人々がいま欲しがっているのは、供給が安定的で、高インフレ時も価値の貯蔵手段として機能する貨幣なのです。
金は2020年8月に史上最高値を記録しました。金の相場サイクルは10年あるいはそれ以上にわたるのが普通ですが、今回はすでに史上最高値まであと少しの水準で推移しています。そのことが示す事実は、金相場は前回のピークに達したあと、短期間で大量に売られて調整局面入りし、すでに新たな上昇局面(強気サイクル)に入ったということです。
金は今後さらに値上がりするでしょう。投資家はインフレ懸念で神経質になっており、これから金市場には大きな資本が一挙に流れ込むものと思われます。
パラジウム
Reuters
ロシアは世界最大のパラジウム生産国で、(同国からの供給が市場から抜け落ちれば)排ガス浄化触媒としてパラジウムが欠かせない自動車メーカーにとっては大きな問題です。そのため、パラジウムからプラチナへの移行が進む可能性があります。
プラチナ(白金)
Russia Beyond
短期的に最も興味深い投資シナリオが想定されるのはプラチナだと思っています。
プラチナはガソリン車の排ガス浄化触媒に使われるパラジウムの安価な代用品です。足もとではパラジウムに比べると相当なディスカウント価格で取引されており、遠からず劇的な需要増が期待されます。
ニッケル
Neil Chatterjee/Reuters
ニッケルは電気自動車(EV)向けの電池材料として、いまや絶対に必要不可欠のコモディティです。
ロンドン金属取引所(LME)の歴史においても類を見ない出来事がこの3月に起きたのは記憶に新しいところ(=3月8日に1時間あまりで250%の価格上昇が発生、LMEは取引停止措置を発動)。
もしこのままショートスクイズ(=空売り筋による損失覚悟の買い戻し)が続けば、EVメーカーによる新車販売価格の引き上げなど波及的な影響が広がることが予測されます。
小麦
Faisal Mahmood/Reuters
ロシアとウクライナは世界最大規模の小麦生産国ですが、2022年の播種は終えたものの、収穫と流通販売までたどり着けるか大きな不安を抱えています。
農産物の価格上昇は世界経済にとって大きな問題の種。ロシア・ウクライナ戦争が続き、各国政府が食料品に対する補助金などの支援に着手しなければ、暴動や社会不安につながる可能性すらあります。
肥料
肥料や殺虫剤、除草剤が並ぶ陳列棚。
Charles Platiau/Reuters
新興国はロシアやウクライナ、ベラルーシから肥料を輸入する必要がありますが、その量は当面大幅に抑制されるとみられ、その影響で作物の収量も落ち込むことが想定されます。その甚大な影響をまともに受けるコモディティとして、コーヒーが挙げられます。
コーヒー
コスタリカのコーヒー農場。生豆の乾燥作業の様子。
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ブラジルはじめ中南米諸国では、コーヒー栽培に肥料が不可欠です。収量は確実に落ちるでしょう。しかし、コーヒーは世界中で飲用され、その需要は減りません。したがって、価格上昇は避けられないところです。
(こうした事態に直面すると)コモディティ市場における変化が私たちの生活のあらゆる面に影響をおよぼすことをあらためて思い知らされます。価格上昇は何もかもに波及していくのです。
(翻訳・編集:川村力)