画像:MASHING UP
ダイバーシティ&インクルージョンの推進は、組織のパフォーマンスや成長のカギであるという社会の認識は、年々高まっている。にも関わらず、NPO Catalystが2021に行った調査によると、アメリカの株価指数「S&P500」の500社のうち女性が率いる企業はわずか6%。また男女共同参画局が公表した日本の管理職に占める女性の割合はたった14.9%と、諸外国と比べて低い水準にとどまっている。
こうしたジェンダーギャップを解消すべくグローバルに活動を展開するのが、若き女性リーダーの育成をミッションとするカナダを拠点とする団体『FORA』を率いるヘザー・バーナビーさんだ。
2021年11月19日のMASHING UPカンファレンスvol.5では、FORAのCEOであるバーナビーさんが「真のジェンダーイクオリティに向けて。 今、リーダーにこそ多様性が必要な理由」と題し、キーノートスピーチを行った。
重要な意思決定の場にもっと若い女性リーダーを
数々のデータから、女性リーダーが増えることが生む経済的メリットは明らかになっている。しかし世界全体で見ても、まだまだ少ないのが現状だ。
撮影:俵和彦
ビジネスや政治の重要な意思決定の場においては、まだまだ男性が占める割合の方が多い。そこでバーナビーさんは、意思決定層における若い女性リーダーを増やすための活動に従事している。それが、女性リーダーのためのネットワーキングコミュニティ「FORA」である。
「経済界や政界に女性の代表者がいないことで生じる問題とは何か。ある調査によると、女性が政策に影響を与える立場にいる場合、介護、育児やセクシャルハラスメントなど、女性に関連する法律に実質的な好影響があるという結果が出ています。女性が政治に参加することは、社会で手厚くサポートされ、守られ、そして力を得ることにつながるのです」(バーナビーさん)
女性リーダーが増えることで、より豊かで安全な、誰にとっても暮らしやすい社会になっていく。これこそが、女性リーダーの社会的意義だと彼女は語った。
また、ジェンダーの多様性がもたらすメリットはこれだけではない。バーナビーさんは、マッキンゼー・アンド・カンパニーが実施した調査データを引用しつつ「経営者レベルでジェンダーダイバーシティを実現している組織は収益性が高い傾向がある。またフォーチュン500社のうちシニアマネジメントチームに女性が最も多く参加している企業では、自己資本利益率が35%高い」と述べた。
なぜ女性は意思決定に参加できない?
FORAの前身団体「G(irls)20」の創設者であるファラー・ムハンマドは、2009年に開催されたG20首脳会議に出席したリーダーが、ほぼ男性で占められている現状に疑問を抱いたという。「全世界の約半分は女性なのに、依然として意思決定の場から排斥されたままなのはなぜか」。このような思いがムハンマドをG(irls)20創設へと駆り立てた。
「そこでムハンマドは、若い女性の声を政策決定の場に届けるため、G(irls)20を立ち上げました。G20を構成する国から集まった若い女性リーダー志望者は、1週間のリーダーシップ育成と、政策開発のトレーニングに参加します。毎年トレーニング終了後は、一連の政策提言をまとめた声明書を、G20首脳陣に提出しています」(バーナビーさん)
2009年のG20首脳会議をきっかけに発足したG(irls)20は以降毎年、G20首脳会議に先立って各国でサミットを主催してきた。2021年8月には、より多様性のある組織へと変容し続けるべく「FORA:Network For Change」にリブランディングを行った。FORAの活動は、大きく分けて以下の3つだ。
「『Global Summit』というプログラムでは、世界中から集まった若い女性が、リーダーシップ育成・アドボカシー(政府に対する提言など)・政策立案などについての研修を受けます。そして参加者は、獲得したスキルを活用し、それぞれの地域・国・国際的な意思決定の場で、アドボカシーを行う準備をします。
そして『Girls on Boards』は、カナダで唯一のトレーニング・プログラム。参加者はリーダーシップとガバナンスの研修を受講し、実際に非営利団体の理事会の一員として活動します。運営方法やガバナンスの重要性を理解し、応用力のあるリーダーシップ・スキルを習得できるというプログラムです」(バーナビーさん)
このように、FORAのプログラムは革新的かつ実践的でスケールも大きい。しかし、各プログラムに参加できる人数は数十名程度に限られているため、より多くのリーダー志望者が学び、交流する機会を得られるよう新たな取り組みを模索中だ。
「2022年1月にはオンライン学習プラットフォームの『Learn Worlds』を立ち上げました。さらに2022年3月にローンチ予定の『Next Level』と呼ばれるプログラムでは、COVID-19の影響により職を失った飲食業・小売業の若年女性やマイノリティの若者たちを対象に、トレーニングの場を提供します。さらに、リーダーシップや起業のためのスキルを身につけ、将来を自力で切り開くための支援も行います」(バーナビーさん)
最後に彼女は今後、若い女性リーダーにとって障壁となりうる社会構造と規範の撤廃に注力していきたいと語った。
「世界、そして日本においても、ジェンダー意識の向上と多様性の推進は、経済や企業の成長に欠かせません。またこれらは全ての女性の健康、安全と幸福のためにも必要です。私のスピーチを通じて、女性リーダーが世界的に必要とされていること、FORAやMASHING UP、そして世界中の多くの組織が女性リーダー支援のために行っている活動の重要性について、よりよく理解していただけることを願っています」(バーナビーさん)
英国企業はジェンダーギャップのデータを開示、消費活動にも影響
バーナビーさんのポジティブかつ力強いスピーチに刺激を受けながら、英国や日本の現状について対談が行われた。
撮影:俵和彦
キーノートスピーチの後は、フィナンシャル・タイムズ在日代表 星野裕子さんとMASHING UPの遠藤編集長が、ジェンダーギャップをテーマに対談を行った。
(フィナンシャル・タイムズの本国でもある)イギリスでのジェンダーギャップ是正の取り組み状況について星野さんは、「2018年頃から、上場企業はジェンダーギャップとペイギャップの開示が義務づけられています。そして国民全員が、それらに関する各企業のデータを閲覧できます。消費者である国民は、そのデータを踏まえてブランドを評価する。強い立場に消費者を置くことが素晴らしい」と解説した。
「日本の若い世代も、彼女らが物心ついた時から平等が当たり前になっている。しかし、これまでは社会的に高い地位にいる人や、投資家が世界を牛耳ってきた。今後は日本の若い女性たちも、経済知識や金融知識を身につけて、より高い地位を目指してほしい」(星野さん)
女性がリーダーになるということは、個人レベルでの自己実現やキャリアアップのみだけでなく、女性全体の発言権を強め、権利を守っていくために欠かせないこと。FORAの活動は、きっとこれからの社会に明るい変化をもたらすに違いない。
MASHING UPより転載(2022年1月12日公開)
(文・吉野潤子)
吉野潤子:ライター・英語翻訳者。社内資料やニュースなどの翻訳者を経て、最近はWebライターとしても活動中。歴史、読書が好きです。