撮影:山﨑拓実
道端からオフィスまで、日本では日常の風景となっている自動販売機。そんな自動販売機に、新しい活用方法が誕生している。
2人同時に社員証をかざすことで、自動販売機から飲み物を無料で手に入れることができる。飲料代は設置先の企業、言わば「社長」がおごってくれるわけだ。
このサービスは、サントリー食品インターナショナルが2021年10月に発表した「社長のおごり自販機」だ。
3月30日、コロナ禍における社内のコミュニケーション不足を補う狙いで首都圏で展開されたこのサービスのリニューアルと、2022年5月からの全国展開が発表された。
自販機はコミュニケーションの「接点」
社員証を2人でかざすと、無料のドリンクが出てくる。
撮影:山﨑拓実
コロナ禍も3年目を迎えて、テレワークが板についてきた一方で、デメリットとしてコミュニケーション不足が顕著になっている。
2022年の2月4日~8日にかけて実施された帝国データバンクの調査によると、テレワークのデメリットとして「社内コミュニケーションが減少する、意思疎通が困難」が最も多く挙げられていた。
筆者も就活の面接から入社式までがほぼ全てオンラインだったコロナ禍で就職した世代として、「仕事」におけるコミュニケーション、特に雑談の重要性は身に染みて感じていた。
入社をしてからもその日のタスクを終わらせるだけで、上司や同期との会話は必要最低限。「他愛のない会話」というものはほとんどなかった。
「社長のおごり自販機」はそんな状況を打破しようと開発されたものだ。
提供:サントリー食品インターナショナル
「首都圏先行にも関わらず、早く全国展開してくれないかと、本社に導入をして好評なので全国展開してほしいという声があった」(サントリー食品インターナショナル ジャパンVM事業本部マーケティング部長 須野原剛氏)
こうした声を受けて、今回、2022年5月に全国展開が決定。
それに伴い、さらに社内のコミュニケーションを加速するためにリニューアルも加えられた。
社員証がなくとも、専用のカードを用意すれば社長に「おごってもらえる」ようになるばかりか、新入社員など、よりコミュニケーションを図ってほしい特定の社員に対して、購入回数の上限設定を変更したり、購入できる時間帯を設定したりとカスタマイズも可能になった。
サントリーは、2022年には200社に200台。2023年には500社に1000台の導入を目指すとしている。
今回新しく発表された社長のおごり専用カード
撮影:山﨑拓実
多機能自販機が続々登場
今回の発表では、社長のおごり自販機の機能拡充とともに、自動販売機の新たな使い方の提案もあった。
自販機の隣などの余剰スペースにお菓子やカップ麺などの軽食を設置し、自販機に飲み物以外の商品の「決済機能」を持たせる新サービス「ボスマート」の展開を発表。2021年段階で、すでに8000台のテスト導入の実績がある。
社員は外出せずに手軽に軽食を手にできるメリットがあり、企業からすれば出入業者を増やすことなくお金を管理可能。
補充・在庫・代金管理は全てサントリー食品インターナショナルの担当者が行う。機能自体は無人販売所とほぼ同じであるものの、必要スペースが自販機分と軽食を販売するスペースだけで済むのも魅力的だ。
撮影:山﨑拓実
また、カードで決済する仕組みを活用して、熱中症対策などにも生かす新サービス「DAKARA給水所 自販機」も発表した。
カード別に利用状況の確認はもちろん、購入対象商品の指定や購入可能な曜日、時間の指定といったカスタマイズが可能だ。
このサービスは、特に夏場、工場などの高温環境で作業をする従業員に対して、「従業員に飲料が行き届いているか確認したい」「冷えた温度で配布したい」などといった声を受けて開発されたサービスだ。熱中症対策のみならず、スポーツドリンクによる糖分の取りすぎのケアなど、自販機を通じた従業員の健康管理が可能だとしている。
撮影:山崎拓実
機能拡充で自販機市場は回復するのか?
今回の発表では、自販機を通した「コミュニーケーション」「生産性向上」など、企業の悩みを解決するソリューションベースでの提案がなされた。
コロナ禍ではオフィスの稼働が減少し、それ以前から徐々に減退していた自販機市場の縮小も顕著になっている。その中でシェアを広げていくためには、単に飲み物を販売するだけのビジネスモデルには、限界があると言えるのかもしれない。
これから先、ビジネスとして自動販売機市場をどう考えていくべきなのか、サントリー食品インターナショナルVM事業本部マーケティング部長の須野原剛氏は次のように答えた。
「自販機の台数を過去のようにどんどん増やしていくという市場環境でもないので、やはりSDGsのことも考えると1台あたりの効率をいかに上げていくことができるのか、ということが一番貢献できることかなと考えています」(須野原剛氏)
須野原剛氏
提供:サントリー食品インターナショナル株式会社
元々縮小傾向だった自動販売機業界に追い討ちをかけるように現れたコロナ禍、そしてSDGsの潮流。量よりも質で、個人ではなく法人でというビジネスモデルは自販機以外にも今後増えていくのだろうか。
(文・山崎拓実)