「人事データこそ経営力に直結」グローバル企業を変えた人事戦略の要諦

1932年に創業し「『医・食・住』に関する社会的課題を解決し、豊かな社会づくりに貢献します」を経営理念にグローバルに成長戦略を加速するトプコン(TOPCON)。「医(ヘルスケア)」「食(農業)」「住(建設)」の事業3分野でDXを推進し、経産省と東証が選定するDX銘柄にも2年連続で選ばれている。1990年代以降、海外技術ベンチャー企業の積極的なM&Aにより、建機の制御技術、精密GNSS(全球測位衛星システム)やIT農業といったソリューションを獲得して事業を拡大。現在、世界31の国と地域に販売65拠点、開発28拠点、生産13拠点を構えるグローバル企業に成長。売上高の80%を海外市場、従業員の70%をノンジャパニーズが占めている。

2015年からは、国内本社においてグローバル企業としての改革を積極的に進めてきた。トプコンは自社の状況にどのような課題を感じ、何をしたのか。その改革を支えた取り組みの一つが、クラウド型財務・人事管理ソフト「Workday(ワークデイ)」の導入だ。海外の有名企業では多く採用されているWorkday。トプコンの組織改革やWorkday活用の背景について、トプコン総務・法務統括部 人事部部長の山田和人氏、人事課課長の矢野敦士氏、そしてワークデイ日本法人社長の正井拓己氏が語り合った。

海外進出を進めるなかで「人事制度のグローバル対応が急務に」

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トプコン本社のホール壁面にずらりと並ぶ特許は圧巻だ。写真左から、トプコン総務・法務統括部 人事部部長の山田和人氏、人事課課長の矢野敦士氏。

「1932年創業の“ベンチャー”企業」と自称するトプコンは、技術力においてはグローバルで弛まぬチャレンジを続けてきた。高い技術力を背景に、測量機やICT自動化施工、3次元眼底像撮影装置といった主力製品にはグローバルシェアNo.1の製品が並ぶ。

「当社の強みは、『TM-1(Time to Market No.1)』。創業以来、培った高い技術力をもって『世界初』『世界No.1』の製品を数多く世の中に送り出すべくチャレンジし続けています。社長の平野(聡)は『チャレンジせよ』と常に語り、それが社内に浸透している。社員はとにかくチャレンジしますね」(山田氏)

チャレンジ精神旺盛な社員が海外進出を牽引し、ビジネスを広げてきた。そうした気概のある社員が今、同社の役員になっている。平野社長も技術者のバックグラウンドを持ち海外事業畑を歩んだ一人。半面、その企業風土や人事制度において大きな改革に乗り出したのは、意外にも2015年からだという。

「当社は1960年から2015年まで、東芝グループに所属していました。当時の組織は、日本的企業の基本原則と仕組みを精度高く実践して運営していました。伝統的な日本企業のマネジメントとしてはうまくいっていたのかもしれませんが、海外のグループ会社が急激な成長を遂げていくなかで、“取り残された感”が出てきた。特にマネジメントを支えるバックオフィス機能の課題が明るみになってきました。

そこで2015年、東芝から離れたタイミングで外部から改革のプロを招聘し、事業やバックオフィスの改革に乗り出したのです。社員がより高いパフォーマンスを出すための企業風土や、個を生かすための人事制度に変え、人財投資を行ってきました」(矢野氏)

“日本的経営”で蓄積された「細かいルール」は削ぎ落とした

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トプコン総務・法務統括部 人事部部長の山田和人氏。

「グローバルに事業の成長を推進できる人事システムを導入し、かつ社員がより高いパフォーマンスを創出できる環境を構築したい」

そのために山田氏がこだわったのが「Workday」の導入だった。なかでも代表的なソリューションである「Workday HCM(Human Capital Management)」は、採用・人事・就業、給与などHR領域におけるあらゆる情報を一元管理できるプラットフォーム。業務ごとに分散されたシステムと違い、迅速な意思決定を行うことができる。

「国内のグループ会社だけを見たら、実はかゆいところに手が届く日系ベンダーによるシステムのほうが便利。ただ、事業をグローバル化していこうとすると、日本の旧来型のシステムではとても対応できません。私が経験した海外の子会社では、他の海外の子会社とのつながりが強く、かつマトリクスな組織でした。法人の垣根を飛び越え、機能軸でもグローバルに人財のマネジメントを行うことができるプラットフォームが必要だと思いました」(山田氏)

グローバルな人材マネジメントだけではない。Workdayの導入は、組織風土を変える推進力になった。

組織改革の中で削ぎ落としたものの一つが、日本的経営の中で蓄積された「細かいルール」。トプコンはシステムのフローに合わせる形で社内手続きを簡素化し、本来の仕事に集中できる環境を整えていった。

「Workdayは余計なものが取り除かれている。それが従来の日本企業にありがちな細かいルールを諦める理由になりました。細かな申請書を含めて『このシステムではできないのでもうやめましょう』と。削ぎ落としたものはたくさんあります」(矢野氏)

管理職はジョブ型に変え、役員制度も総見直し。さまざまなものを切り捨てたことが組織改革にとってプラスになった。

これまでのERPシステムは、導入企業固有の業務要件を実装することに柔軟だった反面、刻々と変化するビジネス環境に対応するスピードや柔軟性を犠牲にしがちだった。これからの不確実性の増す時代においては市場やビジネスの変化に合わせてアジリティの高いシステムが重要になってくる。Workdayは「Fit to Standard」つまり「グローバル・スタンダードなベストプラクティス」が実装されているソリューションであり、企業はWorkdayの導入プロセスを通じて社内のプロセスや制度を変えていくことができる。ここで重要なのは、Workdayを導入したら何かが変わるのではなく、Workdayの導入を通じて改革への挑戦や痛みを伴いながら組織や人事制度が変わって初めてWorkdayのようなソリューションがその価値を発揮する点だ。

ワークデイ日本法人社長の正井氏は指摘する。

「従来の日本企業の人事システムは既存の人事制度やガイドラインに対応することに重点が置かれており、経営戦略とアラインしたスピーディな組織改革などの対応の優先順位は低かったように思います。それがニューノーマルの時代になって働き方も多様化し、ジョブ型の雇用制度など人事制度改革の波も押し寄せ、企業における人事戦略そのものの課題感が変わってきました」(正井氏)

「コミュニケーションは増えた」

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トプコン総務・法務統括部 人事部 人事課課長の矢野敦士氏。

煩雑な手続きを廃止し、無駄な工数を減らす。こうして削ぎ落としたものがある一方で「社員間の会話が非常に増えた」と話すのは、矢野氏だ。人事施策の計画や実行、分析といった作業自体は一つのシステムで完結できるが、そのプロセスでは社員間の会話が必要だからだ。

「目標設定や業績評価もWorkdayの導入で大きく変更したため、地道に説明会を繰り返し行いました。どんな目標を立てれば、個人と会社の業績向上に繋がるのか?課題を抱える社員はどう改善していけばいいのか?より高いパフォーマンスを出すためには?あらゆる場面で上司と部下が話し合うようになり、コミュニケーションが充実したことで、施策が深化、進化するようになりました」(矢野氏)

社員のスキルや能力をオープンにして、社員同士が把握できるようになっている点もWorkdayの特徴だ。適切な組織変更や、個々の社員にパーソナライズした人材育成が可能になる。

「Workdayは人事データの“見える化”が一つのキーワード。もちろん誰にどこまで見せるかは厳格に定義できますが、これまで人事部門で中央集権的に管理・活用していたデータを、経営者やピープルマネージャー、従業員一人ひとりにオープンにすることで、組織内に透明性が加わります。その結果として人事データの一層の活用が組織のあらゆる階層で進み、その先の全社規模での人事制度改革がもっと速く前に進むようになるでしょう」(正井氏)

細分化、高度化する専門性を個別に高めて、より高いパフォーマンスを出せるようにするために。人材開発という観点からも上司と部下のきめ細やかなコミュニケーションが求められている。

給与明細は紙で⋯⋯トプコンらしさを維持しながらの改革に成功

事業を拡大し、グローバル化する一方で、創業以来脈々と受け継がれてきた守り続けたい企業文化がある。デジタル化や効率化と、伝統や人材を大切にすることは、トレードオフの関係ではなく両立させようという意志があれば可能だ。

「グローバル化しても、社長の平野は『日本の良いところは残していきたい』と言います。例えば当社は、社員が定年退職を迎える都度、毎月定年慰労式を行っています。感謝状や楯など準備に手間がかかっても、平野は『感謝の意を直接伝えたい』と続けている。また、給与明細はシステム上で確認できるのですが『上司が感謝の思いを伝えるためにあえて紙で渡したい』という考えです。効率的ではないけれども、社員もそこを受け入れられる土壌がある。現在はコロナ禍でデジタル明細に変わりましたが、根底にはそういう思いがありますね」(山田氏)

デジタル化を推進しながらも、給与明細は紙にこだわる。企業理念が行き届いているからこそ、トップダウン的なアプローチに対しても社員が思いを一つにできるのだろう。

ワークデイ日本法人社長の正井拓己氏

ワークデイ日本法人社長の正井拓己氏。

トプコンは、経営陣がリーダーシップを持ち、リスクを恐れずにチャレンジしていく気概に満ちている。だからこそ改革の方向性を明確に示して、制度やプロセス、それを支えるテクノロジーも変えていけたのだろう。

「人財を中心とした経営戦略の見直しや、海外展開も視野に入れた新たな事業分野への参入、急速な組織の拡大を経験されている企業は、人事業務ごとに細分化された製品を組み合わせるよりも、Workdayのようなベストプラクティスベースのソリューションを活用して全社横断的なプラットフォームをつくり、そこに関連部門やグループ会社、展開地域ごとの差異を実装していくアプローチが向いています」(正井氏)

グローバルの激しい競争の中で、今どの方向に進んでいくべきか悩んでいる日本企業は多い。先んじて進めてきたトプコンの例に学ぶところは大きいと言えそうだ。


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