作成:Business Insider Japan
プラスチック資源循環促進法(プラ新法)が4月1日に施行された。
アパレル業界でも環境負荷の低減による気候変動の抑止や、マイクロプラスチック問題の解決に向けて、脱プラへの取り組みが本格化している。
「進む、脱プラスチック」特集のアパレル業界編として、良品計画の「無印良品」、ファーストリテイリングの「ユニクロ」、そしてグローバルに展開するアパレル大手「H&M」が、どんな姿勢や施策で脱プラスチックに取り組んでいるのかを追っていく。
アパレル業界を支える合成繊維
実のところ、日本で販売される衣服の6~7割を占める素材はポリエステルやナイロン、ポリウレタン、アクリルなどの合成繊維だ。丈夫で軽くて安価という、便利で優れた素材で広く人々の生活を支えてきた。
しかし、石油が原料というプラスチックの仲間であり、しかも生産時に温室効果ガスの一種である亜酸化窒素が発生し、温暖化の要因になるという一面も抱えている。
また、洗濯や着用時などにこすれることで、マイクロプラスチックとして川や海、空気中に流出してしまう。海洋生物の生態系の破壊を引き起こしたり、人体への影響なども懸念されている。
アパレルにおける脱プラの方法は大きく4つある。
- 合繊繊維を天然繊維に切り替えること
- 植物由来などの代替プラスチック素材を使用すること
- 再生ポリエステルや再生ナイロンなどを使用すること。完全解決ではないものの、廃棄物を削減し循環型にして環境負荷を低減する
- プラスチック製の包装材や付属品などをやめ、紙をはじめとした代替素材に切り替えること
無印良品は包装材、衣料品で「ほぼ脱プラ」へ
撮影:Business Insider Japan
「無印良品」は1980年に誕生したときから、「素材の選択」「工程の点検」「包装の簡略化」という3つの視点で、地球環境や生産者に配慮したモノ作りを続けてきた。2021年に社長に就任した堂前宣夫社長も、「すべての商品をサーキュラー・デザインにし、誰もが手に取りやすい価格で提供することで、ESGを民主化」するとし、「ESGの思想が世の中に広く浸透することや、社会インパクトのあるESGの実現に貢献していく」と、就任時に抱負を語っている。
4月1日から施行されたプラ新法へのアクションについて、良品計画では次のように説明する。
「今回の新法施行に先駆け、(1)商品パッケージや売場陳列資材の再生紙等への切替えによる省・脱プラスチック、(2)プラスチック製ショッピングバッグの廃止とシェアバッグ利用の促進、(3)プラスチックボトルの回収・リサイクル、(4)使い捨てプラスチック資材(スプーン、フォーク、ストローなど)の代替素材への順次切替などを進めています。
新法施行により回収、再資源化が進めやすくなることは、資源循環型の持続可能な社会への貢献を目指す当社にとっても、推進の追い風になると考えます」(良品計画広報)
岡崎令取締役(兼)執行役員 衣服・雑貨部長は本記事の取材時の3月に、担当領域に関して次のように発言している。
「衣料品はほぼ脱プラに向かっている。包材パッケージも紙化が進んでおり、(2022)年内を目処にほぼプラスチックを使わない状態になる。今までよりもコストはかかるが徹底して行っていく」
「もともと『消費社会のアンチテーゼ』として生まれ、『わけあって安い』から始まっている『無印良品』では、生活者にESGを民主化したいと思っている。サステナブルな商品でも、手に届く価格を重視して提供していく」(岡崎氏)
無印良品では、既に店頭売り商品においても、包装資材を紙中心に切り替え始めている。
撮影:松下久美
無印良品は、従来から天然素材をメインに使用し、合繊の使用は最小限にとどめてきた背景もある。特にコットンは1999年からオーガニックコットンを取り入れ、2018年には全量オーガニックへと切り替えた。
例えば天然素材の使用にこだわる象徴的なアイテムが、あったか肌着シリーズだ。機能性インナーと言えば合繊のイメージが強いが、オーガニックコットンに衣服内の湿気や汗を吸って発熱する機能を持たせることに成功した。この脱プラ商品を最初に開発したのも岡崎氏だ。
「『ぬくもりインナー・オーガニック綿入り温調シリーズ』として2009年秋に発売した。外気温により温度調節を行う機能糸をオーガニックコットンで包み込んだもの。いわゆるあったかインナーや機能性肌着が世の中に多く出てくる中で『あったかインナー』に改称した。が、作り方は変わらず、機能性を高めたり、厚手のものや、ウールをオーガニックコットンで包み込んだものなどを追加投入してきた」(岡崎氏)
「世界で最も軽い天然素材」の商品も開発
天然素材の開発に力を入れる良品計画が今、実験的に挑戦しているのがカポックだ。
カポックとは、マレー語で「繊維」を意味するアオイ科セイバ属の落葉高木。インドネシアを中心に、インド、タイ、フィリピン島に植生している。病害虫に強いため農薬が要らず、育てる上で環境負荷の少ない植物だ。
無印良品がヘンプのほかに、実験的素材として商品開発している「カポック」。救命胴衣などの中材としても利用されている。
撮影:松下久美
カポックの木の実から、綿のような天然繊維が収穫できる。世界で最も軽い天然素材と言われ、重さはコットンの8分の1だ。ふわふわとした風合いで、空気を含んでいるため吸湿性、保温性が高い。耐久性や弾力性、撥水性も備えている。
昔から枕やぬいぐるみなどの詰めものとして親しまれてきた。救命胴衣や救難用の浮き輪の中材としても利用され、油が溶けやすい性質を生かして、オイルキャッチャーやオイルフェンスとしても活用の幅が広がっている。一方、繊維長が短く紡績するのが難しい側面もある。
「石油由来のポリエステルなどの合繊素材がまだなかった時代、当たり前のように使われていたのが天然の素材のカポック。地球の環境負荷低減が求められる時代に、無印良品は改めてカポックに注目している。
石油由来のポリエステルの代替としてだけではなく、栽培に大量の水を使う綿の代替として、開発を進めている」(岡崎氏)。
日本では「カポックノット」というブランドが、ダウンの代替品となる中綿として開発。リサイクルポリエステル60%、植物繊維(カポック)40%で混紡したものをシート状にしてダウンやコートのインナーに使用している。表地はポリエステル100%やナイロン100%のものが多い。
撮影:松下久美
無印良品では、オーガニックコットン57~60%、植物繊維(カポック)40~43%を混紡糸にして、シャツやパンツなどを作った。繊維のやわらかさや、なめらかな風合いを生かして、おおらかなシルエットで着心地の良いジェンダーレスな服に仕上がっている。2021年に青山店などでテスト販売し、2022年3月18日から銀座店で実験的に販売を始めている。
「今はまだモノとして作れるかどうかの実験段階だ。我々はグローバル企業であり、どんな商品をどこでどのように製品化するのか、しっかりと仕組みを作り、産業化しなければならない。
コロナ禍で海外に自由に渡航できないということも含めてハードルは高いが、実現できればインドネシアなど現地で暮らしている方々を雇用することもできる。環境問題だけでなく、いろいろな使命を果たしていきたい」(岡崎氏)
また、脱プラスチックの注目素材とされているヘンプ(大麻)の採用にも取り組む。
10年前に挑戦した際には、イメージの問題もあり一度は諦めた素材だ。しかし環境のことを考えると、コットンよりも格段に、そしてリネン(麻)よりも水使用量や生育による環境負荷が少ないとされるヘンプに再挑戦すべきだと判断した。
2022年4月中旬から春夏の商品として、ヘンプ素材へのトライアルとしてシャツなどをネットストア(5月中旬より一部店舗)で発売予定だ。秋冬シーズンにはアイテムを拡大していく予定という。
合繊はすべて再生素材に。製造工程で出る残りかすも活用へ
天然繊維主義ではあるものの、
「これだけグローバルに合繊の快適さや便利さに慣れてしまった世の中で、環境には天然素材が良いのだから全部変えてください、とお客さまに押し付けるのは傲慢だ。
防寒のダウンジャケットや防雨のウインドブレーカー、そして傘など、合繊の方がお役に立つようなものには合繊を使わざるを得ない。その場合は、再生ポリエステルや再生ナイロンを使うことを基本としている」(岡崎氏)
原材料は外部で使用されたペットボトルなどではなく、「無印のモノを作る工程で工場から出たナイロンやポリエステルなどの残渣(ざんさ)で作る再生素材を使用することが、サーキュラー・デザインにつながる」と岡崎氏は言う。
ただし、再生の合繊を使っている限りは、マイクロプラスチックによる海洋汚染問題などは解決しない。生分解性があったとしても、適切な環境でなければ分解が遅く、目に見えないくらい細かくなっただけで、逆に空気中に浮遊させてしまうことにもなりかねない。焼却処分されれば、CO2も排出してしまう。
「問題の本質的な解決策を考え続けていきたい。最近では、植物性やタンパク質由来のバイオマテリアルなども注目を集めているが、そういったことも含めて、脱プラ・脱炭素に向けて問題の本質的な解決策を考え続けていきたい」(岡崎氏)
徹底して進める「陳列・パッケージ」の脱プラ
シューズの陳列はアルミ素材のハンガーとする方針に既にシフトしている。
撮影:松下久美
衣服の素材以外でも、脱プラは着々と進んでいる。
2019年から、下着などを包んでいたプラスチックのパッケージを紙パッケージを中心とメインにしたものに変更。色やサイズが分かるように透明のプラスチック部分は一部残したが、最小限のサイズにした。
靴下やアンダーウエアなどを陳列するためのフックや、下げ札を吊るすヒモも再生紙に切り替え、靴のハンガーはプラスチックからアルミにした。
細かい部分では、靴下のタグピン(左右バラバラにならないように留める)も糸に変更している。特に靴下や下着は販売点数も多いため、一つひとつは小さな変更でも全体のインパクトは大きい。1年間で衣服・雑貨で約52トンのプラスチック削減につなげた。売上高3兆円構想がある中で、プラスチックの削減効果はさらに大きなものになりそうだ。
他にも、飲料の容器をペットボトルからアルミ缶にシフトもしている。
アルミ缶はリサイクル率が約98%と高いことに加え、光を遮ることで賞味期限が長くなり、食品ロスの削減につなげている。
2021年4月22日に発表した、飲料の容器変更の発表イベントより。
出典:良品計画
また、ペットボトルを削減するため、お茶の粉末スティックを販売。無料の給水サービスを提供し、マイボトルでも使用可能とした。カフェ店舗で使用していた年間約50万本のストローも、竹ストローに変更している。
こうした取り組みで、食品分野だけで1年間に213トンのプラスチックを削減した。アルミ缶への切り替えは期中に行っているため、削減量はさらに増える見通しだ
2020年7月からは、使用済みのPET素材ボトルの回収・リサイクルを推進。化粧水や乳液などのボトルに使われているペットボトル製の空き容器を回収し、ポリエステル原料にリサイクル。9月からは、ブランドや他店でもらったものも含め、冷凍食品を扱う国内限定店舗で保冷剤を回収。洗浄、殺菌、凍結して冷凍食品の持ち帰り時に再利用している。
容器削減のため、詰め替え販売もスタートさせた。
良品計画の統合レポート「MUJI REPORT 2021」をもとに編集部作成
2020年11月オープンの東京有明店を皮切りに、洗剤の量り売りを実施している。さらに、今年4月22日にオープンする世界最大の大型店となる広島アルパーク店からは、シャンプー・コンディショナーの量り売りもスタートする。
一方、包材で唯一プラスチックを使わざるを得ないのはベビー服だ。法規制によるもので、ホルマリン(ホルムアルデヒド)の空気移染を防ぐためにもなくすことはできない。
ちなみに脱プラの象徴であるショッパー(買い物袋)は、プラスチック製から紙バッグへと切り替えたが、有料化はせず。一方で、マイバッグを推進し、インド製のジュートバッグは数百円とリーズナブル、かつ環境負荷の低い素材で、エコバッグの範疇を超えた良品としてヒットしている。
最近では「MUJI Labo(ムジラボ)」を皮切りに、マネキンを樹脂製のものから古紙100%のものへと変更している。軽量化することで運搬時のCO2排出を削減。生分解性があり、環境負荷も削減できる。課題は耐久性だ。すぐに壊れてしまっては意味がない。従来型の樹脂製のマネキンも塗り直しをしながら繰り返し使用してきたが、環境負荷を減らしマネキン職人の健康を守るため、無塗装のものを順次導入している。
素材を替え、どうしても石油由来のプラスチックを使わなければならない部分は再生素材などで工夫する —— しかしそれでも、どうやって循環型のサイクルを構築すべきか、答えは簡単に出せない。
環境負荷問題は複雑で、本当に何が正解かは誰にも分からないが、思考停止に陥らずに正しさを追求し続けることが重要だ。
「『本当の環境負荷軽減とは何か』を考えている会社は、実はそれほど多くはないのではないか。本質的に考え、一緒に知恵を出しあい、一緒に考えていけるパートナー企業と取り組みを進めたい」(岡崎氏)
(文・松下久美)
松下久美:ファッションビジネス・ジャーナリスト、クミコム代表。「日本繊維新聞」の小売り・流通記者、「WWDジャパン」の編集記者、デスク、シニアエディターとして、20年以上ファッション企業の経営や戦略などを取材・執筆。2017年に独立。著書に『ユニクロ進化論』。