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PFP NFT(プロファイル画像非代替性トークン)について語るとき、クリプト・ドットコム(Crypto.com)のNFTグローバル責任者ジョー・コニャーズ3世(Joe Conyers III)の言葉には情熱がほとばしる。PFP NFTとは、ソーシャルメディア上のプロフィール写真としてよく使われる、ランダムに生成されたユニークな特徴を持つデジタルアート作品のことだ。
過去1年、「ボアード・エイプ・ヨット・クラブ(Bored Ape Yacht Club)」や「クリプトパンクス(Crypto Punks)シリーズ」などのPFP NFTが天文学的な価格で取引されてきた。2022年2月には、ある珍しいクリプトパンクスが2370万ドル(約29億円、1ドル=124円換算)相当で落札されている。
クリプト・ドットコムのNFTグローバル責任者ジョー・コニャーズ3世。
Crypto.com
しかしコニャーズは、PFP NFTにはもっと未開拓の可能性があると信じている。
「私たちは、PFP NFTの黎明期から次の時代へと移行している最中なのだと思っています」
音楽業界で10年の経験を持つコニャーズは、2021年3月に仮想通貨取引所クリプト・ドットコムにNFTのグローバル責任者として加わった。現在は承認ユーザーがNFTを作成、販売、購入できる招待制のNFTプラットフォームの開発を主導しており、NonFungible.comの記事によると、その間の2021年には141億ドル(約1.7兆円)の売上を記録したNFTの人気爆発も見てきたという。
ビープル(Beeple)の名で知られるデジタルアーティストのマイク・ウィンケルマン(Mike Winkelmann)らの作品は、これまで手厚く報われてきた。ウィンケルマンは2021年3月、オークションハウス「クリスティーズ」で、自身の作品の1つを6900万ドル(約86億円)で売却した。IT業界にも熱心なコレクターや売り手は多く、Twitterの創業者であるジャック・ドーシーは、Twitterを立ち上げた際の最初のツイートをNFTとして290万ドル(約3億6000万円)で売却した。
ハリウッドは歴史的に見ても最先端技術の導入が立ち遅れている業界だが、ワーナー・ブラザース、『マトリックス レザレクションズ』から『ロー&オーダー』を手掛けたプロデューサーのディック・ウルフ(Dick Wolf)まで、各スタジオやスターが自らのNFTを発行したり、販売を推進したりしている。
しかし、このところNFT市場は冷え込んでいる。NonFungible.comによると、NFTの平均販売価格は、2022年1月上旬の過去最高値6900ドル(約86万円)から、3月末には2000ドル(約25万円)まで下落しているという。また、成功したNFTクリエイターの作品には注意すべき点もある。ローガン・ポール(Logan Paul)、グライムス(Grimes)、A$APロッキー(A$AP Rocky)などのNFTは、発行以来、その評価額が下がっている。
完全に失敗したプロジェクトもある。例えば、NBA選手でサクラメント・キングスのポイントガード、ディアロン・フォックス(De'Aaron Fox)は、2022年1月に発行したNFTコレクション「スワイパ・ザ・フォックス(Swipa The Fox)」をわずか1カ月で廃止した。フォックスがNFTの運営を委任したパートナーのやり方に不満があったことが一因だ。
また2022年3月29日には、NFTゲーム「アクシー・インフィニティ(Axie Infinity)」を動かしていたブロックチェーンがハッキングされ、6億ドル(約744億円)以上の仮想通貨が盗まれる事件が発生したと運営会社が発表した。
アクシー・インフィニティのハッキングに触れたコニャーズは、「NFTはまだリスクが高い」と言い、次のように指摘する。
「変化が起こる狭間で何かをするときは、リスクを伴うことがあります。この新しい空間に、ストレスを感じる人もいるでしょう。それに、新しいがゆえに確立されたルールもありません。ルールは今決まりつつある最中なのです」
とはいえコニャーズは、NFT市場はまだ初期段階であり、これからもっと伸びると考えている。
コニャースが見るところ、NFTは近い将来、次の3つの変化を伴って進化するという。
1. ストーリー性がより重要に
「NFTは、ただ『かっこいいアートを作りました』というストーリー性のない作品では駄目です。昨年の第2四半期ぐらいまではそれでもよかったのですが、現在のNFTには、確かな実績と確かなストーリー、そして確かなアーティストが求められています」とコニャーズは言う。
例えばCrypto.comで販売しているNFTコレクションは、ストーリー性に重きを置いているという。最近発売されたNFTコレクション「アルファボット・ソサエティ(AlphaBot Society)」は未来的でSF的な物語を押し出しているし、4月22日から販売される「ザ・トリップ(The Trip)」というアニメーションのNFTコレクションは、NFT購入者が「一生に一度の旅に参加できる」ことを約束している。
2. ユーティリティ系のNFTはより洗練されたものになる
ユーティリティ系のNFT(デジタル特典や物理的な特典を提供するタイプのNFT)も、今後はもっと一般に浸透して洗練されたものになるだろうとコニャーズは考えている。
一例としてコニャーズが挙げたのは、NFTのコレクターでミュージシャンのスティーブ・アオキ(Steve Aoki)だ。
アオキがNFTに関する活動を活発化させるようになったのはここ1年半ほどのことだ。2021年に「hairy(毛深い)」と題したNFTを88万8888ドル(約1億1000万円)で売却したほか、サザビーズを通じてNFTのコラボレーション作品をオークションに出品したり、新しいNFTメンバーシップとメタバースのプラットフォーム「アオキバース(A0K1VERSE)」を立ち上げたりしている。アオキバースでは、NFT保有者がプライベートイベントやコンサートチケット、NFTの早期リリース、無料のアパレルなどにアクセスできる。
ユーティリティNFTは将来的にもっと便利になる可能性もある、とコニャーズは言う。
「市場全体がより洗練されたトークノミクスに移行しています。NFTと一緒にユーティリティ・トークンを提供する……つまり、ゲームで使ったり、ゲームでより多くのものを手に入れられるように稼ぐために遊べる、といった大きな効用があるのです」
3. 新しいタイプのNFTコレクターの出現
コニャーズは今後、新しいタイプのNFTコレクターが出現すると予想する。それは、従来の美術品コレクターと同じように、NFTをつぶさに研究し、購入し、保有するコレクターである。
「美術作品をクリスティーズですぐに売らずに保有し続け、良き美術品コレクターとして評価されるのと同じように、NFT作品を持ち続け、最終的には美術館を通して寄贈する人も出てくるでしょう」とコニャーズは言う。
「コレクターの中には、その人間性、振る舞い、行動によって高い評価を得ている人たちがいます。彼らは、NFT作品のあり方をより良いものにするために時間を費やしたいと思っているのかもしれません。
お金持ちだという理由からだけでなく、NFT作品のあり方に影響を与え、NFTの真の機会を引き出す手助けをする能力においても評価される、そんな新しいタイプのコレクターが出てきているのだと思います」
(翻訳・住本時久、編集・大門小百合)