気候変動問題への取り組み加速、さらに今回のロシア・ウクライナ戦争による原油・天然ガス市場の混乱を受け、原子力発電とその燃料に使われるウランが注目を浴びている。
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ここ数十年、原子力発電にとって暗黒時代が続いたことは間違いない。
1986年に旧ソ連(現在のウクライナ)で起きたチョルノービル(当時の呼称はチェルノブイリ)原発事故、2011年に発生した福島第一原発事故、いずれも世界各国が原子力発電との向き合い方を再考する決定的な転換点となった。
しかしいま、急浮上した地政学的リスクと気候変動問題が相まって、原子力発電の重要性に再び脚光が集まっている。
そして、イギリスが「国際価格の変動にさらされる電源への依存度を下げる」(ジョンソン首相)ことを目的に、2030年までに最大8基の原発を新設する計画を発表したことを受け、脚光はいまや実態の伴う動きに変わろうとしている。
近年、気候変動の引き起こす影響について懸念が高まり、国際石油メジャーはじめ資源開発企業の行動に世界からの厳しい視線が注がれてきた。
そこに、ロシアのウクライナ軍事侵攻とそれに続く経済制裁措置により原油や天然ガスの供給に深刻な不安が生じたこともあり、化石燃料脱却の動きに拍車がかかる形になっている。
西側の民主主義諸国は、人道上の理由から一部の石油輸出国に対する融資が難しい状況になってきており(=例えば、仏銀大手BNPパリバは2021年春、採掘地周辺の生活や環境への悪影響を理由に、エクアドルの石油取引関連企業への融資を停止している)、折からの気候変動に対する懸念と相まって、化石燃料離れを加速させている。
そうしたなかで、原子力発電は化石燃料と非化石燃料の良いところを組み合わせたような存在と言える。化石燃料に匹敵するエネルギー量を生み出すスケールアップが可能なうえに、風力や太陽光発電のように二酸化炭素(CO2)をほとんど排出しないからだ。
そして、原子力セクターには投資家にとってのチャンスもある。
運用残高410億ドル(約5兆円、2022年3月時点)の上場投資信託運営大手Global X ETFs(グローバル・エックス・イーティーエフ)調査部門責任者ローハン・レディは次のように語る。
「気候変動問題と温室効果ガスを排出しない他のエネルギー源への移行を目指す流れは、原子力発電が最有力の選択肢のひとつとして脚光を浴びる主な要因となってきました。
そしてもう一つの要因と考えられるのが、欧州における最近の問題、いままさに問題となっているロシア産天然ガスへの依存(が孕む問題)に関する認識です。
過去20年間における地政学的な緊張度は、それより以前に比べて高かったと言えるでしょう。ロシアはおそらくその最たる例です」
レディによれば、原子力発電は運転中に温室効果ガスを排出しないため、化石燃料の使用量削減を目指す国々が大きな初期費用を投じてでも必要な電力をある程度まで原発で賄おうとするのにはやむを得ない面がある。
風力などの再生可能エネルギーだけですべてを賄うのはきわめて難しいからだ。
「再生可能エネルギーが有効な解決策になると考えている人も多いのですが、発電コストは相当に高く、補助金頼みで運営しているケースも少なくありません。現状のコストと信頼性を考えると、再生可能エネルギーだけでいますぐ(気候変動対策や地政学的緊張の緩和などの)変化を起こすハードルはきわめて高いのです。
原子力発電の良いところは、ひとたび発電所を稼働させれば、基本的には運用に手間をかけることなく長期にわたって安定的にエネルギーを得られることです。
太陽光や風力だとそういうわけにはいきません。理由は明らかで、太陽光発電なら太陽がいつも出ていなくてはいけないし、風力発電なら風が吹いていなくてはいけないからです」
原子力発電の重要性について語るとき、もちろんウランに触れないわけにはいかない。ウランは原子力発電に必要な核分裂反応を起こすための燃料で、投資対象としてもきわめて良好とレディは強調する。
ウラン(=不純物を除去して純度を高めた精鉱。価格は含有する八三酸化ウランに換算して表示される)のスポット価格は現在1ポンド60ドル台で推移。需要の急増が想定されるこれから2023年にかけて30〜40%上昇する可能性があるという。
ウラン価格やウラン開発企業へのエクスポージャー(=資産を特定リスクにさらす割合)をとれる上場投資信託(ETF)はいくつかあって、レディのグローバルXが組成した「グローバルXウラニウムETF」もそのひとつだ。
「ウランそのものは資産としての流動性が非常に低く、エクスポージャーを取るのが難しいので、開発企業の個別銘柄かETFを購入するケースがほとんど。したがって、ETFの資金フローと各銘柄の値動きをもとにすれば、投資家のセンチメント(心理)がどこに向かっているのか、市場の方向性を把握することができます」
レディはそれに加えて、ウラン生産および原子力発電所のインフラと密接に関連した銘柄を投資対象として推奨する。
生産については、世界2大生産会社であるカザフスタンのカザトムプロムとカナダのカメコ、カナダ資産管理大手傘下のスプロット・フィジカル・ウラニウム・トラスト、ロンドン証券取引所上場のイエロー・ケーキ(後者2社はウラン精鉱関連資産の投資・管理会社)。
インフラ関連では、韓国の大宇建設と現代建設、斗山重工業、さらに中国広核電力(CGNパワー)も選択肢という。
(翻訳・編集:川村力)