ハノイの街角には、「ニャオン」と呼ばれる間口の狭い住宅が並んでいる。
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- ベトナム、ハノイの街角には、「ニャオン」と呼ばれる間口の狭い「チューブハウス」が建ち並んでいる。
- 間口の幅は平均して3〜4メートルほどだ。
- ニャオンでは、複数の世帯が同じ屋根の下で暮らすことができる。
ベトナムのハノイの街角には、「チューブハウス」と呼ばれる独特な様式の住宅が並んでいる。これらのカラフルな高層住宅の間口は狭く、中には2メートルほどしかないものもある
ハノイの旧市街で見られるチューブハウス。
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これらの住宅は、チューブのような家という意味の「ニャオン(nhà ống)」と呼ばれ、ベトナムで最も人気のあるタイプの建物の1つだと、スインバン工科大学インテリア建築プログラムのコースディレクターであるディン・クォック・フォン(Dinh Quoc Phuong)はInsiderに語っている。
「1954年以前に建てられた古いチューブハウスは、通常2階建てで、間口2〜5メートルの細長い設計になっている」と彼は言う。
「新しいチューブハウスは、古いチューブハウスと同じ敷地面積でも、ずっと高いものが多く、最大で12階建てとなっている」
伝統的なチューブハウスは、ハノイの旧市街と関連がある
1926年、ハノイ旧市街のハンダオ(シルクロード)通り沿いに建つ2階建てのショップハウス。
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ハノイの旧市街は、かつて貿易や商業の中心地だった。各通りは、「ハンバック(銀製品)通り」、「ハンガイ(シルク製品)通り」など、その通り沿いで売られていた品物の名前にちなんで名付けられた。
新しいチューブハウスは住宅用となっているが、旧市街の古いチューブハウスの多くは、商業的な機能を持ち続けている。
古いチューブハウスは、1階が店舗、2階が家族のための居住スペースとなっている場合が多い
チューブハウスの間口は狭い。
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階層ごとに居住スペースがあるため、複数の世代が同じ屋根の下で暮らすことができる。
ハノイの都市景観を研究する「ハノイ・アドホック(Hanoi Ad Hoc)」を立ち上げた建築家のマイ・ハン・チュン(Mai Hung Trung)は、「かつての伝統的なチューブハウスは、多くの家族で共有されていた」とInsiderに語っている。
「最大5、6世帯が同居できる。そして現在も旧市街では、1つの住宅に複数の世帯が同居しているのが見られる」
その中には、血縁関係のない世帯も含まれているという。
これらの古いチューブハウスの間口は狭いが、それを補えるほどの奥行きがあり、中には100メートルに及ぶ奥行きのものもある
さまざまなチューブハウスの間取り図。奥行きが100mに及ぶものもある。
Courtesy of Hanoi Ad Hoc
チューブハウスの起源については諸説あるが、その1つとして、土地の値段が高かったために、この建築様式が発展した可能性が挙げられている。
都市の密度が高くなると、政府は道路に面した間口に課税するようになり、そのため住民は間口を小さくするようになった。しかし、家族が増えるほど、スペースが必要になり、建物を内側や上向きに広げるようになったとマイは述べている。
「街中では、土地は金のようなものだ」とマイは言う。「価格の指標として、通りに面した間口は、土地の広さと同様に重要視されていた」
古い住宅には、採光や通風を考慮して中庭があることが多い
チューブハウスの中庭。
Courtesy of Hanoi Ad Hoc
中庭は、家族が集う共同生活の場としても機能している。
enCityの共同創業者兼CEOのグェン・ズン・ドー(Nguyen Dzung Do)は「中庭には小さな木が植えられていることもあり、座ってお茶を飲むための席もある」とInsiderに述べた。
中庭には小さな井戸が掘られていることもあるという。
「外の騒音や生活から遮断されているので、家の中はとても穏やかだ」とグェンは付け加えた。
近年、新しいチューブハウスでは、フランス風の建築様式が復活している
新しいフランス風の建築様式のチューブハウス。
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ディンによると、このコロニアルスタイルは、さまざまな方法で取り入れられてきたという。
「鋳鉄製の手すりやルーバー窓など、フランス人の別荘にあったファサードのディテールを、新しいチューブハウスのデザインに取り入れる人もいる」と彼は言う。
「また、ハノイのオペラハウスなど、植民地時代の公共建築に見られるアーチ状の屋根のデザインを取り入れ、高層のチューブハウスを建設した例もある」
チューブハウスとは、その起源はともかく、ベトナムの都市景観を形成してきた街並みの特徴となっている
上空からとらえたチューブハウスの景観。
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「チューブハウスとバイクは、ベトナムの都市景観の中でも突出した特徴だと言える」とマイは言う。
「小さなバイクは狭いチューブハウスにぴったりと収まるということもあり、これらは長年にわたって結び付けられてきた。そして、バイクがあれば、街中の狭い道の隅々まで移動することができる」
(翻訳:仲田文子、編集:Toshihiko Inoue)