ロシアのプーチン大統領(2022年3月11日、モスクワ)。
Mikhail Klimentyev/Getty Images
- ロシアのプーチン大統領がウクライナを支配するという自らの目標を諦めることはないだろうと、ロシア外交に詳しい専門家はInsiderに語った。
- 「これが彼を長年突き動かしてきたものであり、彼が取りつかれてきたものです」と専門家は話している。
- 専門家は、ロシアはウクライナとの和平交渉に「真剣に取り組んではいません」とも指摘している。
ウクライナとロシアの交渉が停戦につながる合意に達することができたとしても、ロシアのプーチン大統領がウクライナを支配するという自らの目標を捨てることはないだろうと、ロシア外交に詳しい専門家は警鐘を鳴らしている。
「プーチン大統領がクレムリン(大統領府)にいる限り、ウクライナを諦めることはないでしょう」とジョージタウン大学の教授で、ブルッキングス研究所のシニアフェローでもあるアンジェラ・ステント(Angela Stent)氏はInsiderに語った。ステント氏は1999年から2001年までアメリカの国務省政策企画本部に勤務し、2004年から2006年まで国家情報会議でロシア・ユーラシア担当を務めていた。
「(プーチン大統領が)ウクライナを従属させるという自らの目標を諦めることはなく」「親ロシア政府を作るでしょう」とステント氏は話している。
「それが彼の目標です。現時点で目標を達成していないことは明らかで、恐らく、近いうちに達成することもないでしょう。ただ、彼は諦めないでしょう」
「これが彼を長年突き動かしてきたものであり、彼が取りつかれてきたものです… ウクライナを従属させると心に決めているのです」とステント氏は続けた。
約20年にわたって国を支配してきたプーチン大統領の下、ロシアはウクライナに対して攻撃的な行動を取って来た。2014年にはウクライナに侵攻し、クリミア半島を併合した。また、同じ年にウクライナ東部ドンバス地域では反政府組織を支援し始めた。
プーチン大統領はウクライナを独立した国家とは考えておらず、「独立したウクライナというアイデンティティーは存在しない」と捉えているとステント氏は指摘した。プーチン大統領はウクライナ人とロシア人を「1つの国民」と呼び、かつてソ連の一部だったウクライナは、実質的な国家ではないと繰り返し主張してきた。
「現時点で真剣な交渉とは見ていません」
黒焦げになったロシア軍の戦車のそばに立つウクライナ兵(2022年3月31日、キーウ郊外)。
Ronaldo Schemidt/Getty Images
トルコで行われたロシアとウクライナの和平交渉は先週、進展の兆候を示しているように見えたが、ステント氏はロシアが交渉に誠実に取り組んでいるとは見ていない。
同氏は、停戦交渉でロシア側の交渉責任者を務めるメジンスキー大統領補佐官が元文化大臣で、プーチン大統領や大統領府と直接のつながりがないことから「彼らは真剣に取り組んではいません」と指摘し、ロシア側は「時間を稼ぎ」「レバレッジ」を見つけようとしているだけだと話している。実際、和平交渉の評価をめぐっては、メジンスキー大統領補佐官と大統領府の間にズレも見られる。
メジンスキー大統領補佐官はロシアのテレビ番組で、中立化を受け入れ、NATO(北大西洋条約機構)加盟を断念するというウクライナ側の姿勢に触れ、「ウクライナはロシアが過去何年にもわたって主張してきた基本的な要件を満たす用意があると宣言した」とコメントした一方で、ロシア大統領府のペスコフ報道官は「期待できるようなもの、突破口となるようなものはない」と報道陣に語った。
ステント氏は「現時点で、わたしは真剣な交渉とは見ていません」と話している。
ロシア国防省は3月30日、ウクライナにおける「特別軍事作戦」の第一段階を終了し、首都キーウ(キエフ)近郊での軍事活動を大幅に縮小して、東部ドンバス地域の「解放」に注力すると発表した。ただ、NATOは否定的な見方を示している。「わたしたちの情報によると、ロシアの部隊は撤退しているのではなく、再配置しています」とストルテンベルグ事務総長は3月31日の記者会見で語った。
「ロシアは編成や補給をし直して、ドンバス地域での攻撃を強化しようとしています」
クレムリンが支援する反政府組織は、プーチン大統領が2月下旬に本格的な軍事侵攻を始める前からドンバス地域の約3分の1をすでに支配していた。これまでに多くの戦死者(驚くべき数の将官を含め)を出している、ロシア軍にとって悲惨なこの戦いで、ドンバス地域の完全支配に集中するのは、ロシアにとって理にかなった次のステップなのかもしれない。
ただ、ロシア軍がドンバス地域の制圧を今後の主要目的にすると判断するのはまだ早い。ウクライナ側は4月1日、ロシア軍の一部はキーウから退却しているものの、付近ではまだ戦闘が続いていると述べた。
ロシア軍について、ステント氏は「彼らウクライナの数多くの都市でまだ攻撃を続けています」と話した。
「今はドンバスに集中しているかもしれませんが、彼らがキーウを手に入れることを完全に諦めたと信じている人はいないでしょう」
ロシア軍がチェチェンやシリアでの戦争でも見せた、都市を包囲したり、民間人が多く住む地域を容赦なく標的にするといった残虐な作戦に触れ、ステント氏はウクライナでは今後、「長い消耗戦」が続く可能性もあると指摘している。
[原文:Putin will never 'give up on Ukraine' as long as he's in the Kremlin, top Russia expert warns]
(翻訳、編集:山口佳美)