自動運転技術の開発競争は、長距離トラック運送が主戦場になりつつあるという。
Waymo Via
近年、自動運転車への投資と関心は、コスト面と安全面の高いハードルに阻まれ、市場の急拡大が進む電気自動車(EV)の影に隠れる低迷期が続いてきた。
しかしいま、ドライバー不足とサプライチェーン危機からの脱却を目指すトラック運送業界が、あらためて自動運転技術の有効性に興味を示しているようだ。
電気自動車は一般消費者に普及するより先に商用車としての導入拡大が予想されているが、自動運転技術も同じように、まずは商業・物流業界での採用が進むと専門家らはみている。
空港や職場まで乗客を運ぶ自動運転(ロボット)タクシーが未来志向の提案として投資家の関心を集めた当初に比べれば、相当異質なユースケースと言える。
ドライバー不足とサプライチェーン問題が背景に
グーグルの兄弟会社で自動運転技術開発の先頭をひた走るウェイモも、当初はロボットタクシーに照準を合わせていたが、現在ではセミトレーラーを優先する方針に舵を切っている。
一方、ナイト・スイフト・トランスポーテーション、C・H・ロビンソン、アマゾンなどトラック運送・物流関連の大手企業も、自動運転スタートアップとの協業や提携を相次いで発表。ナイト・スイフトはエンバークと(2022年2月発表)、C・H・ロビンソンはウェイモと(同2022年2月)、アマゾンはプラスと(同2021年6月)それぞれ組む。
また、画像処理半導体大手エヌビディアが出資するトゥーシンプルや、仏物流大手シーバロジスティクスと提携(同2022年3月)するコディアックは、すでに自動運転車専用レーンを使った貨物輸送に着手している。
現時点では、アメリカにおいて自動運転トラックの試験走行が可能なレーンは西海岸に集中している。東海岸に比べて、交通量が少ない長距離のトラック輸送ルートを確保できるからだ。
物流業界の専門家は、自動運転スタートアップがタクシーからトラックへのシフトを進める理由は、突き詰めればコストにたどり着くと指摘する。
物流大手には、業務の簡素化・効率化を促進する新たなテクノロジーに先行投資できる体力がある。パンデミックによるサプライチェーンの混乱とトラックドライバー不足に苦しめられたこの2年間を経て、業務の簡素化・効率化は特に重要な課題となっている。
全米トラック協会(ATA)の報告書によれば、アメリカでは2021年末時点でトラックドライバーが8万人不足するという史上最悪の事態に陥っている。
バイデン米大統領も4月4日、ホワイトハウスにトラックドライバーやその家族を招き、「投資銀行に勤める全員が辞めても大して何かが変わるわけではないが、あなたたち全員が辞めたらすべてが止まる」と危機感を伝えている(朝日新聞デジタル、4月5日付)。
専門家によれば、自動運転技術はそうしたドライバー不足を補うだけでなく、既存の長距離ドライバーのサポートにも役立つという。
米調査会社ガイドハウス・インサイツが行った最近の調査では、自動運転トラック運送を実現するために必要な研究開発コストは、ロボットタクシーのそれより少なくて済むことが明らかになっている。
一般的に言って、予測可能な運送ルートを走る技術のほうが、予測不可能な事態への対応が必要になるルートを走る技術より開発コストが低く、それゆえ「より自動化に向いている」とガイドハウスの調査レポートは指摘する。
米金融大手モルガン・スタンレーのアナリスト、ラビ・シャンカーは最近の顧客向けレポートで次のように強調している。
「過去2年間に経験したサプライチェーンにおけるキャパシティ(生産能力)まわりの障害を考えると、企業がテクノロジーによるソリューションにより大きな関心を寄せるようになることには何の違和感もありません。
また、(流通大手など)既存企業が自動運転技術により目を向けるようになることは、それが(テック業界の流行りではなく)『現実のものになる』技術であるという当社の見方が正しいことの証左にもなります」
以下では、最も有望な自動運転トラック開発5社を紹介しよう。
コディアック・ロボティクス(Kodiak Robotics)
コディアックは仏物流大手シーバ・ロジスティクスと提携。
Kodiak
グーグルの自動運転プロジェクト創設メンバーのひとり、ドン・バーネットが2018年に創業。長距離トラック運送に特化して自動運転技術の開発を進めてきた。米カリフォルニア州マウンテンビューに本拠を置く未上場企業。
仏物流大手(同海運大手CMA CGM傘下)シーバ・ロジスティクスと2022年3月に提携。米テキサス州のダラス・フォートワース〜オースチン間およびダラス・フォートワース〜オクラホマシティ間に自動運転トラックを投入し、貨物輸送を行っている。
トゥーシンプル(TuSimple、図森未来)
TuSimple Holdings
2015年創業。米物流大手ユナイテッド・パーセル・サービス(UPS)や米画像処理半導体大手エヌビディアが出資。長距離運送セミトレーラー向けに自動運転「レベル4」(=高度自動運転化、特定の条件のもとで緊急時含めてシステムが主体として対応)の開発に注力。
2021年4月に米ナスダック市場に上場。公開価格40ドルで3380万株を売り出し、13億5000万ドル(約1650億円)を調達。
ここ数カ月、投資家も驚くほどの経営陣交代劇があり、共同創業者兼最高技術責任者(CTO)として同社躍進の原動力となってきたホウ・シャオディ(侯暁迪)が会長兼最高経営責任者(CEO)に就任している。
株価は年初来60%以上下落して、4月に入ってからは12ドル前後で取引されている。
ウェイモ・ヴィア(Waymo Via)
Waymo Via
2020年、米アルファベット(グーグルの親会社)の自動運転子会社ウェイモは開発チームを二分割。「ウェイモ・ワン」はロボットタクシー部門、「ウェイモ・ヴィア」はセミトレーラー含む自動運転配送部門とした。
自動運転セミトレーラーの開発に着手したのは2017年。ロボットタクシー向けのクライスラー・パシフィカに組み込んだのと同じセンサーおよび技術を使ってスタートした。
独ダイムラー・トラックと2020年10月に戦略的パートナーシップを締結し、長距離トラック「フレイトライナー・カスケイディア」向けレベル4(=高度自動運転化)自動運転システムの商用化を目指している。
また、トラック運送大手C・H・ロビンソンとも2022年2月に提携し、米テキサス州での試験走行を始めることを発表している。
プラス(Plus)
スタンフォード大学の同級生3人が2016年に共同創業。米カリフォルニア州クパチーノに本拠を置き、商用車および貨物トラック向け自動運転技術の開発にあたっている。
2021年6月、アマゾンは同社に自動運転システム1000ユニットを発注。最大20%の株式を購入できるオプションも取得している。
2021年第3四半期(7〜9月)に特別買収目的会社(SPAC)との合併を通じて上場する計画を発表していたが、その後断念。ブルームバーグ報道(4月1日付)によれば、中国事業を切り離して欧米事業のみでの新規株式公開を検討しているという。
エンバーク(Embark)
Embark
自動運転トラックの投入を目指す運送会社向けのソフトウェアを開発。2016年の創業以来、米ワーナー・エンタープライジズ、カナダのバイソン・トランスポート、米メシラ・バレー・トランスポーテーションのようなトラック運送大手との提携を実現。
2021年10月に独物流最大手ドイツポストDHLの北米部門DHLサプライチェーンとも提携(上記3社と同様の「パートナー・ディべロプメント・プログラム」への参加)。事前予約が1万4200ユニットを超えたことを明らかにしている。
2021年11月に特別買収目的会社(SPAC)との合併を通じて上場。6置1400万ドル(約750億円)を調達し、時価総額は52億ドル(約6400億円)に達した。
しかし、上場企業として初めての四半期決算発表(2021年第4四半期分)は7640万ドルの純損失を計上。年初来の株式市場の大幅下落も影響して、現在の株価は売り出し価格(10ドル)のおよそ半額、5〜6ドルで取引されている。
なお、2022年2月にはトラック物流大手ナイト・スイフト・トランスポーテーションとの提携も発表。運送会社側が自動運転システム搭載車両を直接保有・管理する初めての取り組み(「トラック・トランスファー・プログラム」)となる。
2022年末までにエンバークの自動運転システムを搭載した長距離トラックを運送ルートに投入し、データ取得やフィードバックプロセスを開始するという。
(翻訳・編集・情報補足:川村力)