出典:マイクロソフト
マイクロソフトは、2022年に公開するWindows 11とWindows 365(クラウド経由で提供されるWindows)のアップデート方針について情報を公開した。それぞれの機能の提供時期はまちまちで「近日中」とだけコメントされている。
マイクロソフトの狙いはシンプルだ。オフィスとリモートワークが混在するこれらの世界で、使い勝手とセキュリティを同時に高めていくことだ。
マイクロソフトは3月、「2022 Work Trend Index」と題したレポートを公開している。これは、2021年から2022年にかけて、3万1000人への調査に基づき、これからの働き方の傾向を分析したものだ。
その中では、73%の人々が、「オフィスとリモートをフレキシブルに選べること(ハイブリッドワーク)、もしくはリモートでの働き方」を希望している。
リモートワークが働き方の選択肢の1つであることはもう不可逆的な変化であり、それを支えるOS(Windows)にも、リモートワークの併用=ハイブリッドワークを前提とした機能が必要になる……という主張だ。
ビデオ会議・オンラインのイライラを新機能で改善
どんな機能が搭載されるのか? まずは分かりやすいところからスタートしよう。
まずは、AIを使ったビデオ会議の改善だ。アップデートによって、自分の声と顔に「フォーカスする」機能が追加される。
一つ目は、周囲のノイズをAIで除去し、声だけを目立たせる機能。次に、下を見てしまいがちな「視線」を、AIの画像処理で常に「カメラの方向を向いている」ように加工する機能が搭載される。
音声からのノイズ除去、背景ぼかしのほか、視線を自動的にカメラのほうに向ける機能が追加される。
出典:マイクロソフト
視線をカメラの方に向ける機能がオフの場合。カメラと目線が合わない。
出典:マイクロソフト
機能がオンの場合。多少の不自然さはあるのだが、視線が気になる人には有効だ。
出典:マイクロソフト
また、自分がカメラの画角内で移動したとき、顔に注目し、自動的に顔が映像の中心になるように「自動フレーミング」する機能も追加される。これは、アップルがiPad ProなどやStudio Displayで「センターフレーム」として搭載している機能に近い。
映像の中で移動した場合でも、自動的に顔の場所を画面中央に揃える「自動フレーミング」を新搭載する。
出典:マイクロソフトの配信映像からの切り出しを編集部で加工
ビデオなどに音声認識で自動的に「キャプション」が付くことが増えたが、Windows 11ではアクセシビリティ強化の一環として、「OS上で起きる全ての音声について、画面上にキャプションを出す機能」も搭載される。声や音を出せない中でコミュニケーションを取りたい際にも有効だろう。
「Live captions」をオンにすると自動キャプション機能が使えるようになる。
出典:マイクロソフト
OS内で流れる音声について、このようにすべてに自動でキャプションをつける機能だ。
出典:マイクロソフト
「フォーカス」機能は、他社が取り入れている機能へのキャッチアップ、と言える。メールやメッセージなどに煩わされたくないとき、時間を指定して「フォーカス(集中)モード」に入ることで、通知やアイコン上の「未読数」などが表示されなくなる。アップルが「集中モード」として搭載した機能を、もう少し自由度が高い形で実装したもの、という印象を持つ。
時間を決めて、通知などに惑わされず集中するための「フォーカス」機能が使えるようになる。その間は、アイコンなどに「メールの未読」の数字も表示されなくなる。設定した時間が過ぎると自動的に元に戻る。
出典:マイクロソフト
エクスプローラーに「タブ」を導入、基本的な使い勝手も向上
基本的な作業の効率アップに役立つ機能もある。
例えば「スタートメニューの改善」。カスタマイズがしやすくなり、アプリをフォルダーに入れて分類できるようになっている。
スタートメニューのカスタマイズの幅が少し広がり、アイコンの並び替えやフォルダーでの分類に対応。
出典:マイクロソフト
また、ファイル管理に使う「エクスプローラー」は、ブラウザーと同じように「タブ」が使えるようになった。ファイルには「最後に誰が扱ったか」などの情報も表示されるようになる。
ブラウザーなどと同じように、ファイル管理用の「エクスプローラー」でもタブが使えるようになる。
出典:マイクロソフト
Windows 11はウィンドウの並べ替えが楽になるのが特徴だった。その機能がさらに強化され、「どのアプリを画面のどの位置に配置するのか」をドラッグ&ドロップで指定できるようにもなった。
ウィンドウの並べ替え機能は、操作がさらに直感的になった。
出典:マイクロソフト
フィッシング詐欺対策を強化、どこでもセキュリティを重視する「ゼロトラスト」へ
ただ、こうした機能は比較的表面的な改善だ。マイクロソフトが狙うところはもう少し深い。まず重要になるのは「セキュリティ」だ。
現在もWindowsには「Microsoft Defender」がセキュリティ対策機能として搭載されているが、それがさらに強化される。
現在、フィッシングによってPCのアクセス情報が抜き取られ、マルウェアが侵入したことによる「ランサムウェア被害」が広がっている。これに対処するため、マイクロソフトは二つの機能強化を行った。
一つは「フィッシング対策」。「Microsoft Defender SmartScreen」により、Windowsを含めたマイクロソフト製品の認証を監視し、フィッシングによって認証情報を盗むサイトへのアクセスと情報の入力を未然に防ぐ。
フィッシング詐欺を防止するため、認証に関してのサイトアクセスを監視し、怪しいサイトでは入力前に警告が出る。
出典:マイクロソフト
もう一つはアプリケーションの動作監視。マルウェアに特徴的な動きを監視し、未知の動作をするなどの不穏な挙動が見られた場合、警告を発して動作を止める。
マルウェアなどの怪しい動作のアプリが見つかった場合には、その動作を自動的にブロックする。
出典:マイクロソフト
これまでも進めてきた対策の継続強化、とも言えるのだが、重要度はより高まってきている。
現在、セキュリティの分野では「ゼロトラスト」と呼ばれる考え方が浸透しつつある。
従来は「企業内は安全」といったように、使う場所などを区切り、安全性とアクセスの柔軟性を評価する形が多かった。だが、リモートワークによって仕事は社内だけで行うものではなくなったし、安全と信じられていた企業内でも、集中的なマルウェアの攻撃にさらされると安心はできない、ということが分かってきている。
そこで、すべてのユーザーやデバイス、接続場所を「自動的に信頼すべきでない」とした上で、確実な認証と暗号化で守る、という考え方が出てきた。それが「ゼロトラスト」だ。
Windowsもゼロトラストの考え方に基づき、特に企業向けでは、ハードウェアからアプリ、経路まで、それぞれの要素が安全であるかを認証しながら動作することを前提とする。Windows 11はその基盤となるOS、と位置付けられている。
クラウドの「Windows 365」との統合を加速、OSも「ハイブリッド」へ向かう
そして、Windows 11との連携動作が強化されるのが「Windows 365」だ。
Windows 365は2021年に導入された企業向けサービスで、マイクロソフトのサーバー経由でWindowsを利用する「サービスベースのWindows」だ。いわゆるリモート端末に近いが、企業としては、データの流出を防ぎつつ、PCのセットアップをクラウド側で一気に行い、配送や設定の人員とコストを削減する効果をもつ。
ただ、結局Windowsを使うならPCの上で使うことが多いわけで、「PCの上でリモートのPCを使う」という二重性が、使い勝手の面で問題でもあった。
そこでこれから、Windows 11とWindows 365は統合に向かう。
Windows 11のPCにログインするとき、同時にクラウド上のWindows 365に接続し、まるで一体になったように動かせる。個人のPCのワークスペースを切り替えるのと同じ操作で、クラウド上のWindows 365 PCへとワンタッチで切り替えられるようになる。
ローカルの「Windows 11」とリモートの「Windows 365」を、ワンクリックで行き来が可能になる。
出典:マイクロソフト
また、「通信がないと使えない」のがWindows 365の欠点だったが、「オフラインモード」を用意することで、一時的に通信なしでWindows 365を使い、次に接続した際に作業内容を同期する……といった使い方も可能になる。
リモート環境のWindows 365に「オフラインモード」がより一般的なPCの使い勝手に近づく。
出典:マイクロソフト
ハイブリッドワークが「オフィスでもリモートでも働き方を選べる」ことなら、OSもそうならないといけない。ローカルなOSであるWindows 11と、リモートなOSであるWindows 365の間を近くしていくことで、文字通り「ハイブリッド」な使い勝手を目指すのが目的なのだ。
(文・西田宗千佳)