「従業員募集」の張り紙を掲げたニューヨークのレストラン。2021年7月15日撮影。
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- アメリカの退職者数は、9カ月間にわたって過去最高水準で推移しているが、新たな研究によると、それは珍しいことではないという。
- サンフランシスコ連邦準備銀行によると、50年代、60年代、70年代に景気が急速に回復した際にも、現在のように多くの労働者が退職した。
- この研究では、雇用の回復が先細りするにつれて、2022年の後半には退職者数は減少するだろうと示唆している。
サンフランシスコ連邦準備銀行の新たな研究によると、「大退職(Great Resignation)」は結局のところ、それほど大きなものではないという。
過去1年間のアメリカでの雇用の復活により、労働市場は逼迫してきている。求人数は過去最高に近い水準を保っているが、労働力が不足しているのだ。2021年6月以降、毎月400万人以上のアメリカ人が仕事を辞めており、雇用主は労働者を集めるのに苦労しているため、賃金が急騰している。これを表すのに「労働力不足」あるいは「大退職」という言葉が使われているが、いずれにせよ現在の状況は異常だ。
だがこの状況に前例がないわけではないと、サンフランシスコ連銀のエコノミストであるバート・ホービン(Bart Hobijn)は、2022年4月4日に発表された研究報告で述べている。雇用成長率が高く、景気が急速に回復する時期に退職者数の増加と労働市場の混乱が起こるのはよくあることだとホービンは述べている。現在の状況は異常なことではなく、比較的ありがちな現象の最新事例だというのだ。
退職者数の増加は賃金の高い上昇率と密接な関係があるとホービンは言う。その理由はシンプルで、アメリカ人は次の仕事がすぐに見つかると確信したときだけ、仕事を辞める傾向があるということだ。パンデミックの回復期には雇用と退職者の両方の増加が見られた。特にパンデミックによって最も大きな打撃を受けたサービス業でそれが顕著だった。
退職者数の増加と雇用の創出に関連性があるということは、どの産業にも当てはまるだけでなく、異なる時代においても当てはまる。1948年、1951年、1953年、1966年、1969年、1973年の製造業において、現在と同じような退職者数増加の大きな波が発生していたことをホービンは明らかにした。これらの年は、アメリカで急速に雇用が創出された時期と一致している。
大退職が異常事態だと思われる理由の1つは、よく知られた退職率のデータに表れてこないからだ。アメリカ労働統計局は「Job Openings and Labor Turnover Survey:JOLTS(求人労働異動調査)」で退職者数の統計データを取っているが、現在の形式で調査が始まった2000年以降のデータしかない。
2000年と2008年は、不景気からの回復が比較的ゆっくりと進んだため、過去1年のように多くの退職者数が出ることはなかったとホービンは言う。そのため、現在の2.9%という退職率は異常に思えるが、実は1950年代、60年代、70年代の不景気からの回復期に見られた退職率とほぼ同じだ。なおこの分析は、過去数十年にわたって製造業の退職者数を調査した類似のデータに基づいている。
この現象は「大退職」ではなく、「大交渉(Great Renegotiation)」と呼ぶ方が適切であるとホービンは述べている。JOLTSでは、退職者の転職状況や完全に離職したのかということも調査している。過去最高に近い退職者数とほぼ同じ数の求人数が組み合わさることで、労働者が単に集団で退職しているのではなく、より高い賃金、より良い労働条件、より良いマッチングを求めて転職していることが示唆されている。
雇用の回復が鈍化するとともに、転職する人も減り、求人倍率と退職率も低下していくと思われるとホービンは言う。そうなると、賃金上昇の圧力も弱まるだろう。
しかし、このような緩和は2022年後半まで起こらないと彼は言う。4月1日にアメリカ労働統計局が発表したデータによると、依然としてすさまじい勢いで雇用が拡大しており、3月まで賃金も上昇を続けている。圧倒的な雇用の拡大が永遠に続くことはないだろうが、それが落ち着くまで、大退職(あるいは大交渉)は続くと予想される。
[原文:The Great Resignation is much more normal than you think, according to the San Francisco Fed]
(翻訳:仲田文子、編集:Toshihiko Inoue)