ブラジル・アマゾナス州マナウス郊外のベモル・ソーラー発電所で作業する従業員。2021年8月23日撮影。
Bruno Kelly/Reuters
- 世界が気候危機を緩和できるかどうかは、この10年間にかかっていると、何百人もの科学者がまとめた国連の主要報告書が結論づけている。
- 気候破局という最悪の事態を回避するには、世界の温室効果ガス排出量を、3年以内に減少に転じさせる必要があるという。
- 各国政府や企業は、より多くの資金を投じ、政治的な意思を示す必要がある、と報告書は示している。
世界の政府や企業は、今後10年間で気候危機を緩和するためのツールをすでに手にしている。2022年4月4日に公表された気候変動に関する報告書において、数百人の科学者たちがそう結論づけている。
人類は現在、かつてないほど多くの二酸化炭素やその他の温室効果ガスを大気中に充満させている。しかし報告書によれば、地球の温暖化を、産業革命前から摂氏1.5度以内に抑える時間はまだ残されている。
気温上昇を1.5度以内に抑えれば、動植物のさらなる大量絶滅、熱波や干ばつの頻度と強度の大幅な増加、さらに、深刻な温暖化のロックイン(固定化)を招く転換点への到達など、最も破滅的な気候変動を回避することができるという。
地球温暖化が1.5度を超えないためには、温室効果ガスの世界排出量を2025年までに減少に転じさせ、2030年までに現在の半分に削減し、2050年までにゼロにしなくてはならない。
インドネシア・ジャカルタ北部のカリ・アデム港で、海面上昇と地盤沈下による高潮の中、椅子に座る2歳の子ども。2020年11月20日撮影。
Willy Kurniawan/Reuters
国連の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」が公表した3000ページに及ぶ最新報告書は、この挑戦的なタイムラインを達成するための行動指針を示している。
そこでは、化石燃料から太陽光や風力といった再生可能エネルギーへ転換することのほか、都市における交通システムの電化、エネルギー効率の高い建物の建設、大気中の二酸化炭素を吸収する技術の導入などが提言されている。
報告書の主執筆者の1人で、世界自然保護基金(WWF)の気候科学者であるステファニー・ロー(Stephanie Roe)はInsiderに対して、「我々が気候危機に取り組むためのツールを手にしていることは明白であり、それがこの報告書の示すところだ。しかし、1.5度を達成可能とするには、それらのツールをより迅速に、より大規模に展開する必要がある」と語っている。
フランス・カンブレー近郊ノレイユ村にあるウインドパーク。夕焼けを背に、教会の横に建つ風力発電用の風車。2022年3月18日撮影。
Pascal Rossignol/Reuters
問題は、それを実行するための政治的な意思と財源を結集させることだ。報告書では、過去10年間に一貫して排出量を削減した国は18カ国にとどまることが明らかにされている。気温上昇を1.5度に抑えるためには、対策に投じる資金を、全世界で3~6倍に増やす必要があると報告書は指摘している。
また、石炭火力発電所や油井といった既存の化石燃料事業は、それだけで、1.5度を超える気温上昇を固定化するのに十分な影響をもつことを報告書は示している。
国連のアントニオ・グテーレス(António Guterres)事務総長は4月4日の記者会見で、「一部の政府や企業のリーダーは、言葉と行動が一致していない。分かりやすく言うと彼らは嘘をついており、その結果は破滅的なものになるだろう」と述べた。
さらに事務総長は、「気候変動の活動家は、時に危険な過激派として描かれるが、本当に危険な過激派は、化石燃料を増産している国々だ」とも語っている。
2025年のタイムリミットを前にした、最後のIPCC評価報告書
ロシア・イルクーツク州にあるイルクーツク石油所有のヤラクタ油田で、原油を手ですくう従業員。2019年3月11日撮影。
Vasily Fedosenko/Reuters
今回の報告書は、IPCC第6次評価報告書の第3作業部会報告書だ。2021年に公表された第1作業部会報告書は、地球の物理的な変化に焦点を当てた内容だった。2月に公表された第2作業部会報告書では、それらの変化が人類や生態系にどのような影響を与えるかが評価された。
IPCCは、こうした3部構成の評価プロセスを、およそ6~7年ごとに実施している。今回の評価プロセスでは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックの影響により、作業に数カ月の遅れが生じた。IPCCが前回、解決策を重視した報告書を公表したのは、2014年の第5次評価報告書だった。
今回は、2025年という世界的な排出量削減への転換期限が差し迫るタイミングとはいえ、報告書が提言する解決策は、実行へのハードルが以前より下がっている可能性がある。先のIPCC第5次評価報告書の公表以降、太陽光や風力エネルギーのコストは大きく下がり、また新たなイノベーションによって、再生可能エネルギーやエネルギー効率の関連技術の効率が大きく向上したからだ。
報告書のエネルギーシステムに関する章の執筆に参加したジョン・ビストライン(John Bistline)はInsiderに、「我々は、リスクをある程度理解し、それに対して何かをする時間があるという、歴史上のこのわずかなタイミングに生きている。これは実際、とても幸運なことだと思う」と述べている。
今回の報告書は、2025年という節目を前にした最後のIPCC評価報告書となる。国連が次に科学者を招集して評価を実施するまでに、気温上昇を1.5度に抑えることが手遅れになっている可能性も高い。
(翻訳:高橋朋子/ガリレオ、編集:Toshihiko Inoue)