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イーロン・マスク(Elon Musk)はTwitter社の筆頭株主として同社の戦略に関与するようになり、新CEOパラグ・アグラワル(Parag Agrawal)との衝突もありうる——ウォール街のアナリストらはそう予想している。
マスクは長年にわたるTwitterのヘビーユーザーで、ここ数カ月はTwitter社とその決定についてもツイートしている。つい先日も、Twitterが「言論の自由」の原則を守っているかどうかを問う投票を投稿したばかりだ。
昨年12月、ジャック・ドーシー(Jack Dorsey)の後任としてアグラワルがTwitter社のCEOに就任した直後には、ヨシフ・スターリン(Joseph Stalin)と旧ソ連高官ニコライ・イェジョフ(Nikolai Yezhov)の加工画像(アグラワルの頭をスターリンに、ドーシーの頭をイェジョフに加工したもの)を投稿した。プロパガンダのためにイェジョフを画像から消したという「ジョーク」だ。
モーニングスター(Morningstar)のアナリストであるアリ・モガラビ(Ali Mogharabi)は、このようなツイートは、マスクが、新たに9.2%の株式を取得したことでTwitter社に影響を与え、変化を促そうという意欲の表れだと見ており、次のように言う。
「Twitter社とその株主、そして2億1700万人にのぼるTwitterのデイリーアクティブユーザーに対してマスクがどうコミュニケーションをとるかが、Twitter社の長期戦略に影響するでしょう」
株式取得が公表された4月4日深夜(現地時間)の時点では、マスクはすでにTwitterユーザーに編集ボタンが欲しいかどうかを尋ねるという形で同社の方針に関わっていたことになる。アグラワルはこれをリツイートし、このアンケートの結果は「重要なものになる」ので「慎重に投票」してほしいと述べている。
ちなみにこの言葉は、Twitter上での「言論の自由」に関してマスクが以前のアンケートの説明に使ったのと同じ言葉だ。
マスクの「口出し」には前例が
2003年にテスラが設立されると、マスクははほどなくして同社のメイン投資家兼会長になった。だが、2008年に経営権を掌握するまでの約4年間は、経営戦略をめぐって複数のCEOと争っていた。
電気自動車メーカーのCEOになりたいと思ったことはないと言っているマスクだが、彼は取り組むプロジェクトの大半で自ら細かく指示を出すことで有名だ。おそらくTwitter社も例外ではないだろう。
アナリストらは、マスクは手始めにTwitter社の言論の自由とコンテンツモデレーション(投稿監視)のあり方に手を付けるのではないかと予想している。
マスクはかねてより、Twitter社は「言論の自由を制限している」と公言しているが、このことはコンテンツモデレーションを推進しようとしてきた「アグラワルの任命にマスクは賛成でない」ことを示している、とモーニングスターのモガラビは指摘する。
「マスクにとっては“スタート地点”」
マスクが米証券取引委員会(SEC)に提出した資料によると、マスクのTwitter社でのポジションは、公式には「パッシブ」となっている。つまり、この投資は「株式発行者の支配に変更・影響を及ぼす」ことを意図するものではない、ということだが、ウェドブッシュ・セキュリティーズ(Wedbush Securities)のアナリスト、ダン・アイブス(Dan Ives)は、マスクにとってこれは「スタート地点」にすぎず、今後は株主としてさらにアグレッシブな役割を果たしていくだろう、と述べている。
アグラワルは、3月にTwitterスペース上でテレビ司会者ジョン・スチュワート(Jon Stewart)と話した際、Twitterを「健全な開かれた会話」を提供するプラットフォームにしていく考えがあることを明らかにし、次のように話している。
「Twitterは声を上げる人のためのプラットフォームですが、同時にただ肩をすくめていろいろなことをやり過ごすこともできません。
私たちは、ユーザーがTwitterを利用したときに起こることに対して責任を取ります。Twitterに時間を費やした挙げ句に嫌な思いをした人がTwitterを使い続けるとは思えませんから。そうすれば私たちの成長は止まってしまうでしょう。ここはうまくやらなければなりません」
マネタイズに影響が及ぶ可能性
ウェルズ・ファーゴ(Wells Fargo)のアナリスト、ブライアン・フィッツジェラルド(Brian Fitzgerald)は、アグラワルの方針は「ソーシャル分野の仕組みとしてはともかく、ビジネスとしてのTwitterにはプラスになりそう」だと言う。
フィッツジェラルドは、広告収入増と新規ユーザー獲得を目指すTwitter社の取り組みに触れ、「我々はTwitter社が物言う株主とどう折り合いをつけてきたかに注目していますが、マスクが関与することで同社の現在の戦略がストップするなら、収益化にも影響が及ぶおそれがあります」と述べる。
バーンスタイン(Bernstein)のアナリスト、マーク・シュムリック(Mark Shmulik)は、マスクが実際にTwitter社を変革するとなれば、おそらくコンテンツモデレーション軽減に関する要望が中心になるだろう、と見ている。もちろん他の可能性もある。
「このプラットフォームに対してマスクがどんな意図を持っているのか——水面下でやるのか、自らリーダーシップを発揮するのか、もしくは何もしないのか、正確なところはまだ分かりません。目下あらゆる選択肢を検討中でしょうが、それについてはいずれマスクのツイートで明らかになっていくでしょう」とシュムリックは述べる。
社員は株価上昇が続くことを願うだけ
2021年11月にアグラワルがCEOに就任した際、Twitterの株価は52週間ぶりの安値を付けた。これに対し、マスクの出資が公になると株価はここ数カ月来の最高値となった。
Insiderの取材に応じたTwitter社の社員2人は、現在従業員持株の売買はできなくなっているが、年次株主総会後の5月にはまた売買できるようになる。それまではとにかく株価上昇が続いてほしい、と語る。
テクノロジー業界で働く人がよく使うソーシャルアプリ「Blind(ブラインド)」には、別のTwitter社員が「少なくとも四半期の間はこの過剰な期待が続くといいが」と書き込んでいる。
もう1人の社員はInsiderの取材に対し、Twitterの株価はここしばらくかなり低調だったので、譲渡制限株式ユニットの価値が下落し報酬総額がかなり減少したと話す。そのため退職も考えていたが、この株価上昇が続くなら考え直すかもしれないという。
(編集・常盤亜由子)