2021年9月にTinder CEOに就任した、レナータ・ナイボーグ氏。自身も30歳になった年明け、Tinderのアプリを「試しに」使ってみて、その初日に今の夫となる人とマッチングした、というストーリーの持ち主だ。
撮影:西山里緒
マッチングアプリ「Tinder」がコロナ禍で躍進を続けている。
2021年の全世界での課金収益は前年比22%増となる約16.5億ドル(約2000億円)を記録し、その中でも日本はアメリカに次ぐ世界で2番目に大きな市場だという。
ローンチ10年目にして、なぜTinderは好調なのか。その理由と次の成長戦略について、Tinder CEOのレナータ・ナイボーグ氏を直撃した。
「デートはゆっくりと」が主流に
「アメリカを除けば、日本は私がCEOとして訪れる初めての国」と意気込むナイボーグ氏。
撮影:西山里緒
「今までの10年の成長の鍵は、マッチングのシンプルさにありました。次の10年でTinderは、単なる『マッチング』を超えたサービスになろうとしています」
雨が桜を打つ4月上旬、東京・港区のエウレカ社オフィスで対面したナイボーグ氏は、Tinderの変化についてそう力強く語った。
Tinderは2012年にスタートした。人気の火付け役となったのは、人差し指一本で「スワイプ」し、誰とでもカジュアルに出会えるというユニークなユーザー体験だ。
10年が経つ今、オンラインデートの現状は様変わりした。
「10年前と比較して、Tinder上の出会いはゆっくりとしたもの(スロー・デート)になってきています」
今まで、ほとんどのTinderユーザーはマッチをしたらすぐに会う約束を取り付け、デートに繰り出していた。この2年で人に「会いづらく」なったこともあり、1カ月や2カ月の期間をかけて、互いに相手をよく知ってから会いたいユーザーが多くなっていると同氏は指摘する。
実際に2021年2月には、前年同月比でメッセージの総数が約2割多くなり、交わされる会話の長さは約3割長くなったともいう。
課金収益も大きく成長した。
Tinderの課金収益は4年前と比較して約4倍の規模に伸長している。なお、2021年第4四半期の時点で、課金ユーザーは約1000万人となった。
出典:Match Group Business Overview(2022年2月)
2021年の全世界での課金収益は、前年比で22%増となる約16.5億ドル(約2000億円)を記録した。これは、TikTokとYouTubeに次いで課金額の多い非ゲーム系にあたる規模感だ(モバイル市場調査の「data.ai」より)。
課金ユーザー数も、2021年の第4四半期時点で1060万人(前年同期比で18%増)と右肩上がりの成長を続けている。
たとえ「実際に会えなくても」、人はつながりを求めてインターネットを行き来する ── こうした手応えを得てTinderは、この1年ほどオンライン上のデートを活性化させようと取り組む。2021年10月に追加された「Explore(エクスプロア、探索)」機能もその一つだ。
「Explore」機能では、自分の興味関心に合った相手を表示させられる。
撮影:西山里緒
これは「恋人募集中」「カフェに行きたい」「ゲーム好き」など、自分の興味・関心に基づいて、異なる相手が表示されるというもの。今まではマッチする相手を絞る方法は主に距離、年齢、相手の性別だったが、より「パーソナライズ」された出会いが可能になった。
今後は感染拡大状況なども考慮しながら、同じイベントやフェスに参加している人とマッチできるようにするなど、リアルとの接点を増やしていきたい、とナイボーグ氏は語る。
夏頃から「Tinder通貨」もスタート
国内のオンラインマッチングサービス市場は、768億円の規模にまで伸びている。
画像:©Tapple, Inc.
Tinderの国内ユーザー数については明らかにされていないものの、日本は世界でアメリカに次いで2番目に大きな市場だ、とナイボーグ氏は明かす。
実際に日本のマッチングサービス市場の伸びは堅調だ。マッチングアプリ「タップル」とデジタルインファクトの共同調査によると、2021年の国内オンラインマッチングサービス市場は、前年比23%の増加で768億円になったという。
「日本から学ぶことはとても多い。特にゲームや仮想アイテムの領域では、日本はアメリカに先行するイノベーションの先駆者だと考えています」
筆者が2020年に取材した時も、Tinder広報担当者から「あつまれ どうぶつの森」を意識している、というコメントがあった。
こうしたゲームの要素を取り入れた機能として、2022年夏頃のローンチを予定しているTinder内通貨「Tinderコイン」をナイボーグ氏は挙げる。
「Tinderコイン」のイメージ画像。まずは「ブースト」などの機能をコインで買いやすくするという構想だ。
出典:Match Group Letter to Shareholders(2021年11月)
現在Tinderには、月額のサブスクリプションと、「ブースト」や「スーパーライク」など機能を単体(アラカルト)で購入できる二つの課金の方法があるが、Tinderコインを使って、こうしたアラカルトの機能をより簡単に決済できるようにしたい、とナイボーグ氏はいう。
「特に少額決済(マイクロペイメント)が浸透しているアジア市場では、こうしたアプリ内コインは適していると思っています」
世界で2番目に「マッチしたい」都市
「カジュアルに人と出会える」本来の機能も健在だ。
撮影:西山里緒
なお、Tinderには、自分の居場所をオンライン上で変更して、現地の人とマッチできる「パスポート」と呼ばれる機能がある。
2021年、東京はロンドンに次いでアプリ内で2番目に「旅行」された都市となった(この背景には、オリンピックでアスリートが東京に集結したことも影響していそうだ)。
リアルでもバーチャルでも、気の合う誰かに出会える場所 ── Tinderは「一夜限りの恋愛」的なアプリからの脱却をしつつあるようだ。
実際、Tinderコインを足がかりとした「メタバース」構想についてもにナイボーグ氏は言及した。詳細は未定だが、例えば、プロフィールに表示できる絵をNFTにするというアイデアや、VRやARを使った「マッチング」なども考えられるという。
「Z世代(18歳〜25歳)は、当たり前のようにインターネット上で“生活”しています。彼らにとって、オンライン上で数カ月“デート”することは、カフェやフェスでデートすることとなんら変わらないこと。そしてこの傾向は、パンデミックが終わったとしても続くでしょう」
(取材、文・西山里緒)