アメリカを代表するメディア、ニューヨーク・タイムズ(NYT)が所属記者にツイッター運用の見直しを求めているという。
REUTERS/Shannon Stapleton
米ニューヨーク・タイムズ(NYT)は編集部門のスタッフに対し、ツイッターの「リセット(見直し)」を要請している。
Insiderが独自に入手した同メディアのエグゼクティブエディター、ディーン・バケットの社内向けメッセージから明らかになった。
メッセージによれば、ニュースルーム(編集部門)に所属するジャーナリスト(報道記者)が今後ツイッター上でプレゼンスを発揮、維持していくかどうかは「完全に任意の選択」だという。
NYTの広報担当はInsiderの取材に対し、メッセージの意味するところは「全面禁止とはまったく異なり」、編集部門で持ち上がった懸念に対応した動きだと説明している。
「もし使い続ける選択をするにしても、ツイートしたり、タイムラインをスクロールしたり、(記事執筆など)他業務との関連でツイッターに費やしている時間を有意に減らすことを推奨します」(バケットのメッセージより)
バケットはまた、ソーシャルメディアを介したハラスメントを「業界全体の問題」と位置づけ、被害を受けたジャーナリストを支援する取り組みを強化していくことをメッセージで明らかにした。
ここ数カ月、オンラインで絶え間なく続くハラスメント被害に声をあげるジャーナリストが(とくに女性と有色人種で)増えている。
多くのニュースルームがそうしたように、NYTもかつては自社報道をできる限り多くの読者に届ける手段として、ツイッターを使うよう記者たちに促した過去がある。
同社に所属する名の知られたジャーナリストの多くがたくさんのフォロワーを集め、ツイートを通じてそれぞれの個人ブランドを強化した。それは同時に、NYTというメディアブランドにとってのリスクを高めることにもなった。
バケットは今回のメッセージで、編集基準に違反するソーシャルメディア上の行為については、経営幹部クラスのエディターによる取り締まりを行うとの警告を発している。
「ニュースルームの同僚たちの仕事を攻撃したり、批判したり、貶めたりするツイートもしくはサブツイート(=匿名アカウントによる批判ツイート)は認められません」
NYTの編集方針を批判してきた元テクノロジー担当記者のテイラー・ロレンツは、バケットが示したソーシャルメディアに関する新たなルールは「時代に逆行」しており、若い世代のインターネットの使い方にそぐわないとツイートしている(現在は不可視あるいは削除済み)。
NYTの広報担当はInsiderの取材に対し、次のように説明する。
「バケットがニュースルームに求めているのは、ツイッターやその他のソーシャルメディアプラットフォームに対するアプローチの見直しです。ジャーナリストが個別にソーシャルメディアのアカウントを運用しても良い見通しは得られないと説いているのです。
数多くの同僚たちから変化が必要との声が上がるなか、バケットはその懸念に応じる形でメッセージを発信したまでで、全面禁止とはまったく異なります。
ニューヨーク・タイムズは、ツイッターや他のプラットフォームを含め、あらゆる読者に対して最高水準のジャーナリズムをお届けすることに全力を注いでいます」
ニュースルームのソーシャルメディアガイドラインについて紹介するNYT記事(初出は2017年10月13日付)によれば、最後にガイドラインがアップデートされたのは2020年11月3日とされている。
以下に、バケットのメッセージ全文を掲載する。
ニュースルームの皆さま
ここしばらく、ツイッターにまつわるさまざまの問題について、ニュースルームの皆さんから深刻な懸念の声が上がっています。
報道やフィードバックのツールとしてツイッターに頼ろうと思えばいくらでもできますが、そうなるとフィードがエコーチェンバー化し(=価値観の似通った者同士の交流や共感の場となり、特定の意見や情報が増幅されてその影響に絡めとられるようになる)、とくに私たちのジャーナリズムにとっては害悪となります。
ツイッターユーザーがどう反応するかを気にしすぎると、ミッション(=果たすべき使命)を見失ったり、独立性が損なわれたりしかねません。深い思慮を欠いた場当たり的な反応によって、私たちのジャーナリズムが築いてきた評価を傷つけるおそれもあります。
そして何より、ツイッターでハラスメントや攻撃に苦しんだ経験を持つ人たちが、皆さんのなかにあまりに多すぎるのです。
ニュースルームのツイッターに対するスタンスを見直す(リセットする)必要があるのは明らかです。そこで、(ガイドラインを)一部変更したいと思います。
第一に、ツイッターやその他のソーシャルメディアでプレゼンスを発揮、維持することはニューヨーク・タイムズのジャーナリストにとって完全に任意の選択とします。
ニュースルームの皆さんの少なからずと直接話して、ソーシャルメディアと距離をおきたい理由がいくつもあることが分かりました。
実際に離れると決めた方々に対しては、会社がサポートします。
もし使い続ける選択をするにしても、ツイートしたり、タイムラインをスクロールしたり、(記事執筆など)業務との関連でツイッターに費やしている時間を有意に減らすことを推奨したいと思います。
いずれしても、ツイッターなどソーシャルメディア上の情報については、私たち全員があらゆる情報源、ストーリー、批判者や評論家に対していつもそうしているように、ジャーナリストとして真実を探求する姿勢を失うことなく、より強い責任感を持って取り扱う必要があります。
ソーシャルメディア上の情報は、さまざまなストーリーや問題について報道し、フィードバックに耳を傾け、より深く理解するためにインプットする多くの情報のひとつにすぎないはずです。
第二に、オンラインでの脅迫やハラスメントを体験したジャーナリストの皆さんをサポートする新たな取り組みを発表します。
私たちはジャーナリストに対する攻撃をきわめて深刻なものと受けとめています。そうした嫌がらせは、皆さんの心身の健全や安全・安心感、職務遂行能力にまで大きな影響をおよぼすことが分かっています。
ニュースルームに所属するジャーナリストをサポートする専門チームを新設し、オンラインを通じた嫌がらせを未然に防止し、あるいは発生した場合に対処するためのトレーニングやツール導入を進めていきます。
これは業界全体の問題ですが、まずは私たちニューヨーク・タイムズが行動を起こすつもりです。本日中により詳細な情報をお伝えします。
第三に、ジャーナリストによるソーシャルメディア上での表現活動は、ニューヨーク・タイムズの価値観を反映し、編集基準やソーシャルメディアガイドライン、行動規範と合致するものでなくてはならないということを強調したいと思います。
とくに、ニュースルームの同僚たちの仕事を攻撃したり、批判したり、貶めたりするツイートもしくはサブツイートは認められません。
そのような行為は、ニューヨーク・タイムズがこれまで築いてきた評価に傷をつけるにとどまらず、多様性(包摂)と信頼を重んじるカルチャーを育もうという未来への努力までくじくものです。
ニュースルームに所属するすべてのジャーナリストについて、ソーシャルメディアガイドラインを逸脱する行為がないかどうか、幹部クラスのエディター、部門長、および当社スタンダード(基準)部門が細心の注意を払う考えです。
ツイッターは、ニュース速報やある種のスクープの発信、フィードバックの測定など、さまざまな形で役立つツールであることは分かっています。なかなか取り上げられない少数派の関心や懸念に光を当てる上でも欠かせない役割を担ってきました。
私たちのジャーナリズムをより多くの人々に届け、読者とのつながりを生み出し、知られざるストーリーを掘り起こすために、かつて(幹部陣のほうから)ツイッターを活用するよう強く求めた過去があることも認識しています。
この問題は複雑で、私たちの見方や考え方はここ数年で大きく変わってきたし、これからも変わり続けると思います。
はっきりさせておきたいのは、私たち(経営幹部)はニュースルームの皆さんをサポートするためにここにいるということです。私の言うサポートとは、ハラスメントを受けた方への助言や保護、ストーリーをオンラインで責任を持って伝えるための読者グループとの対話協力、あるいはソーシャルメディアと距離をおくこと決めたジャーナリストへの激励もそこに含まれます。
ソーシャルメディアポリシーと今回のアップデートの主なポイントをまとめたFAQ(よくある質問)を作成したので参照してください。
本件について不安や疑問がある場合、私や他の経営幹部クラスの役職者に遠慮なく相談してください。ニュースルームのカルチャーをあらためて見直し、それを実現するにはどうすればいいか、徹底して考える機会にできればと思っています。
(翻訳・編集:川村力)