ドイツ銀行は2023年中にアメリカが景気後退入りし、20%の株価下落が発生するとの予測を発表した。
Luke MacGregor/Reuters
ドイツ銀行が大手金融機関としては初めて、アメリカの景気後退入りを予測して話題を呼んでいる。
ドイツ銀行チーフ米国エコノミストのマシュー・ルゼッティ率いるアナリストチームは、米連邦準備制度理事会(FRB)による急速な利上げの影響で、同国が2023年後半に景気後退入りするとの見方を明らかにした。
FRBは3月15〜16日に連邦公開市場委員会(FOMC)を開催。2020年3月から続けてきたゼロ金利政策を終了し、0.25ポイントの利上げを決定した。2021年末から7%台という40年ぶりの高水準で推移するインフレ抑制に向け、利上げペースの加速も検討されている。
ドイツ銀行は最近の顧客向けレポートで、FRBによる過去11回の利上げサイクルのうち8回は景気後退を誘発していると指摘。
「現時点ではコンセンサス(=一致した意見)から外れた見方ですが、当行は2023年にアメリカの景気後退を予測しています。しかし、この見方がコンセンサスになるまでそう時間はかからないでしょう。
経験則から踏まえるべきファンダメンタルズ(=基礎的な状態を示す指標)と、従来から景気動向を判断する際に参照されてきた指標が、これほど一様に景気後退入りの可能性を指し示すのは稀(まれ)なことです」
ドイツ銀行は米株式市場の動向を示すS&P500種株価指数について、2022年末時点で5250(4月8日時点は4488)という従来からの予測を維持しつつ、2023年後半に景気後退入りするとの見通しをもとに、20%の大幅下落が起こる可能性が高いと指摘する。
同行株式ストラテジストのビンキー・チャダとパラグ・サッテは次のように予測する。
「2023年、アメリカの株式市場はが夏までしっかり持ちこたえ、下半期の景気後退入りに伴って20%程度の調整局面を迎えるでしょう。あとは途中で底打ちし、以前の水準を回復すると予測されます」
投資家が注視すべき「4つのファクター」
チャダとサッテは投資家に対し、S&P500種指数の20%下落のトリガーとなる4つのファクターを注視すべきとアドバイスする(なお、S&P500種指数の年初来の下落幅は6.2%)。
注視すべき第一のファクターは「メガキャップグロース株(超大型の高成長株)およびハイテク株」のパフォーマンス。メタ・プラットフォームズ(旧フェイスブック)やネットフリックスなどトップ銘柄は2022年初来、予想を下回る業績でS&P500種指数の下押しに貢献している。
「メガキャップグロース株の過剰な株価バリュエーションは、この20カ月間(1年半ほど)懸念材料であり続けてきました。2020年7月以降、S&P500種指数と並走する形で推移しています」
第二のファクターは「地政学的リスク」。ドイツ銀行によれば、短期的には引き続き、株価の下振れにつながる可能性があるという。
ロシア・ウクライナ戦争の勃発は株式市場に大きな影響をもたらしたものの、投資戦略を立案するストラテジストたちは、リスクの大半がすでにS&P500種指数に織り込み済みとみている。
「地政学的リスクの市場価格への影響については、すでに経験則にもとづいた筋書き通りに進んでいるとみています」(チャダとサッテ)
また、紛争の発生は短期的には株価下落を引き起こすものの、長期的には「経済の諸条件が(地政学イベントの影響を)上回る」という。
第三のファクターは「FRBの利上げサイクル」。アメリカの景気後退入りの主な要因となる可能性が高いものの、株価が金利上昇の影響をまともに受けるようになるのは2年後とドイツ銀行は予測する。
「利上げサイクルのあとに景気後退入りする確率は7割を超えますが、(利上げサイクルの起点から)平均して2年かかっており、その計算だと、次の景気後退入りは2024年の春になります。
また、株価は景気後退が始まる3~6カ月前にピークを迎える傾向があるので、それに従えば今回のピークは2023年下半期と想定されます」
最後に第四のファクターは「イールドカーブ」。米債券市場では3月29日、政策金利に連動しやすい2年物の国債利回りが、長期金利の指標とされる10年物の利回りを一時上回った。逆イールドと呼ばれる現象で、投資家が将来の成長鈍化を予想していることを示す。
「行動レベルで言えば、イールドカーブの逆転が示すのは、今後2年から10年の間のどこかで景気後退を受けてFRBが利下げに転じる可能性まで織り込んでいるということ。利上げサイクル着手後に景気後退入りする平均的なタイミング(約2年)を考えれば、それはすでにはっきりしています」
(翻訳・編集:川村力)