2021年12月21日、フロリダ州マイアミビーチにあるナイキショップの棚に並ぶシューズ。
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- 台湾一の富豪、張聰淵はナイキなどのブランドの靴を製造し、117億ドル(約1兆4476億円)の富を築いた。
- 74歳の張は、フォーブスの「世界の億万長者番付」で163位にランクインした。台湾では第1位だ。
- 張は台湾の養豚場を買い取って、そこで靴製造のビジネスを始めたという慎ましい経歴の持ち主でもある。
彼は最初は養豚場で製靴事業を始めた。世界の有名ブランドのスニーカーを製造することで117億ドルの富を築いた張聰淵(Zhang Congyuan)は、台湾で最も裕福な人物だ。
74歳の張は、2022年のフォーブス(Forbes)の「世界の長者番付(Forbes' annual World's Billionaires' List)」で163位になった。
張の創設した宏福実業集団は、ナイキ(Nike)、アグ(Ugg)、ヴァンズ(Vans)などのブランドの靴を生産している。ブルームバーグ(Bloomberg)によると、同社は年間1億8000万足以上の靴を生産しているという。
その成功の一方、張はインタビューやイベントにはほとんど登場せず、目立たない存在だ。台湾のメディアは、彼を「謎の靴王(mysterious shoe king)」と呼んでいる。
それは慎ましい始まりだった
台湾のビジネスウィークリー(Business Weekly)によると、張は台湾の田舎町、雲林の農家に生まれ、農業大学を卒業後、婦人靴の工場で働いていたという。彼は資金を貯め、1980年代に自身の靴工場を立ち上げた。しかしそこには制約があった。
「私はお金がなかったから、収入の範囲内でやりくりする必要があった。人々は新しい建物を建てるために良い土地を購入するが、私は田舎に養豚場と農場内の家屋を手に入れた」と彼は2021年、ビジネスウイークリーの貴重なインタビューで語っている。
「台湾西部の水田に隣接するこの養豚場は、外観がみすぼらしいにもかかわらず、高品質の靴を生産していた」と靴箱メーカーのグッドボックス(Goodbox)の幹部・江韋侖(Chiang Wei-lun)の話をビジネスウイークリーは引用している。
「張は良い材料にお金を使い、設備も決して他に劣っていなかった」と江は話している。
1980年代後半までに、張は台湾各地や中国南部の広東省にもいくつかの靴のベンチャー企業を設立した。競争は激化していた。広東省は 「世界の工場」 として知られており、ハンドバッグから靴、クリスマスの飾りまで、あらゆるものが輸出用に作られていた。
しかし、張本人は差別化するチャンスがあると見ていたとビジネスウィークリーは報じている。そのチャンスが、バルカナイズ(加硫)シューズだった。バルカナイズ製法によって生み出される靴は、しなやかなゴムのソールを持ち、スケートボーダーの間で人気を集めている。製造コストも安いにもかかわらず、当時の靴メーカーの間では、流行遅れで利益が少ないと捉えられていた。
「靴業界の他の人たちは諦めていたが、私はとにかく高品質の靴を実現することに集中した」と語っている。
このタイプの靴が1990年代に流行し始めたとき、張はすでに先行していたので、ヴァンズやコンバース(Converse)などのブランドのために靴を生産することができた。コンバースは2001年に破産を申請したが、張はブランドとの関係を維持していたとビジネスウイークリーは伝えている。その2年後、ナイキがコンバースを買収する際、コンバースの推薦で、ナイキは張の会社と手を組むことになった。
2004年、張は正式に宏福実業を設立し、現在は中国、ベトナム、ドミニカに工場を持つ。成功の秘訣を聞かれた彼は、「ミステリーはない」とビジネスウイークリーに答えている。
「人一倍頑張るという気概があるかどうかに尽きる」
Insiderは宏福実業集団を通じて張にコメントを求めたが、回答は得られていない。
(翻訳:大場真由子、編集:Toshihiko Inoue)