撮影:三ツ村崇志
NECは4月8日、自社のAI技術を生かし、新型コロナウイルスを含む「ベータコロナウイルス属全般」に対するワクチン開発に取り組むことを発表した。
このプロジェクトは、ワクチン開発を担う製薬企業や研究機関に資金を拠出する国際基金「感染症流行対策イノベーション連合」(CEPI)のプロジェクトとして採択されたもの。CEPIからは、シードファンドとして最大480万ドル(約6億円)が拠出される。
CEPIではこの先、再び世界がパンデミックの脅威にさらされた際に「100日間」で安全で効果的なワクチンを得ることを目標に、さまざまなプロジェクトを支援することを発表している。
この取組に対する世界からの支援総額は15億ドル(約1860億円)を超えており、日本も3億ドル(約370億円)の寄付をしている。
「次のパンデミックに備えるワクチン」
コロナウイルスといっても、いくつかのグループに分かれている。
オンライン記者会見の画面をキャプチャ
新型コロナウイルスは、2002年に流行したSARSや、2012年に話題になったMERSとよく似た「ベータコロナウイルス属」(※)と呼ばれるグループのコロナウイルスだ。ベータコロナウイルス属の中には、一般的な風邪のウイルスも一部含まれる。
※新型コロナウイルスでは、変異ウイルスについて「アルファ株」や「ベータ株」といった呼び名が付けられているが、ここでいう「属」は「株」よりも広いグループ分けを指す
今回NECが開発を目指すワクチンは、このベータコロナウイルス属というグループ全体を対象としたもの。加えて、ベータコロナウイルス属の各ウイルスが変異した場合にも対応できるワクチンの開発を目指すとしている。
今回、CEPIが「ベータコロナウイルス属」をターゲットにプロジェクトを募集したのは、ベータコロナウイルス属がSARSやMERS、COVID-19などのように「パンデミック」を引き起こす可能性が高いウイルスだとされているからだ。
仮に、COVID-19のような伝搬性を持ちつつ、SARSやMERSのような高い致死率を持つ感染症が広がってしまうと、その被害の大きさはCOVID-19の流行の比ではない。
今回の取り組みは、こういった将来のパンデミックに備える意味あいが強い。
今回のプロジェクトのスケジュール。CEPIに採択されたプロジェクトの契約範囲は約2年分。
提供:NEC
NECでは、今後、18カ月かけてベータコロナウイルス属のゲノム情報を解析し、ワクチンを設計する上での「狙い所」を探索。その中から変異が少ない共通した特徴を見出して、ワクチンの設計に生かすとしている。その後約半年かけて、免疫反応の強さや安全性などを確かめる非臨床試験を進めていく方針だ。
最終的には、mRNAワクチンとしてコンセプトの実証を目指す。
現時点で連携している製薬会社などはないが、製剤化するタイミングでパートナーとなる製薬企業を探していくことになるという。
NECの遠藤信博会長は、
「NECは2019年に定款を変更し、本格的に創薬事業に取り組んでいます。また、20年以上前から、AIを使って医薬品の開発を効率化する取り組みも進めてきました。今回、CEPIの開発パートナーとしてNECへの資金拠出をご判断いただいたことは、NECの技術が世界のトップレベルにあることの証です」
と、自社の技術力の高さに対する自信を語った。
東京大学の石井健教授。
提供:NEC
記者会見に同席したCEPIのアドバイザーも務める東京大学医学研究所の石井健教授は、今回のNECの取り組みについて
「このプロジェクト(ベータコロナウイルス属全般に効くワクチンができるかどうか)の確度は不明です。ただし、CEPIではミッションとして、次にパンデミックが来たときに100日でワクチンを提供しようと目標を立てています。これは、現時点の科学レベルでは実現できないことです。このプロジェクトは、それを突破するための技術を考えていこうというものです」
と、非常に挑戦的な取り組みであるとしながら、
「AIの可能性を十分に理解しているつもりですし、研究者としてもワクワクします。次のワクチンを担うことを非常に期待している」
と、AIを活用したワクチン開発のポテンシャルに期待を語っていた。
(文・三ツ村崇志)