第2世代となる「Square スタンド」が登場するまでに9年近くが経過。その間にSquareや世界の決済市場に何があったのだろうか。
撮影:小林優多郎
Square(アメリカではBlock)が4月11日に新しい「Square スタンド」を発表した。
事業開始から13年となるSquareだが、前機種である最初のSquareスタンドを発表したのが2013年のこと。それから9年近くが経過し、第2世代の製品が登場した。
Squareハードウェアのプロダクトマーケティング責任者のローラ・ジョーンズ(Laura Jones)氏。
画像:編集部によるスクリーンショット
これまで、Squareはアメリカでサービスを開始し、その後順次国外市場に製品を展開……といった流れが常だった。本製品では日本とアメリカを含む世界8カ国の市場で同時発表で、Squareにとっても戦略的な製品だろうことがわかる。
Squareハードウェアのプロダクトマーケティング責任者のローラ・ジョーンズ(Laura Jones)氏へのインタビューを通して、製品開発や市場展開の背景を聞いてみた。
Squareスタンドは同社にとって象徴的な製品
Square Stand(第2世代)の実際の動作の様子。
撮影:小林優多郎
Squareと言えば、市販のスマートフォンやタブレットを簡易的なPOSレジにするという「mPOS」の仕組みの先駆者として知られている。
登場当初は磁気カードを読み込むための「ドングル」とアプリケーションの提供が中心で、いわゆる今回の「スタンド」のようなハードウェア製品の提供開始は2013年と、サービスインから数年のラグがある。
これはmPOSの市場がようやくこのタイミングで認知されてきたこととも関係があるが、ジョーンズ氏は「Squareにとって象徴的な製品」と述べている。つまり、「Squareとはどういうビジネスの会社か」を最も端的に説明する製品なのだと言える。
実際にどの程度「Squareスタンド」の利用が行われているのか具体的な回答は得られなかったが、SquareのmPOSを利用する上で最もスタンダードな製品なのだろう。
第2世代Square スタンドはスタンド本体と電源コードのシンプルな構成。
撮影:小林優多郎
それは9年近く同じ製品が販売されてきたことにも由来するが、同時に9年間で世界は大きく変化した。
まず決済手段だが、Squareの大きな特徴として「専用の決済端末を購入しなくてもクレジットカードの取り扱いが可能」という点があるが、第1世代のSquareスタンドが出た当初のクレジットカードは「磁気ストライプ」が主流だった。
そのため、第1世代のSquareスタンドでは手前部分が磁気カードリーダーとなっており、店員にカードを手渡して読み取ってもらった後、本体を180度反転して「ハンドサイン」や追加の「チップ」の金額の入力するという流れのオペレーションを採用していた。
当時としては、これが最もスマートなやり方だったのかもしれない。
ただ、アメリカで発行されるクレジットカードとデビットカードのほとんどがICチップに対応すると、ICカードを読み込むための機構が必要になった。
IC対応と同時に「非接触(タッチ)決済」への対応も業界では進みつつあり、一部小売店では決済端末の更新に合わせてこれら新しい決済手段への対応が進んだ。
Square スタンドとIC/非接触決済対応のための「Square リーダー」を組み合わせている様子。
撮影:鈴木淳也
これをアメリカ市場において牽引したのが2014年の「Apple Pay」の登場であり、Squareもまた対応を求められた。その結果生まれたのが、SquareスタンドにICカードと非接触の両方に対応したBluetooth接続の専用リーダーを組み合わせる仕組みで、一通りの決済手段の受け入れを可能にしている。
パンデミック後のトレンドを反映
第2世代Square スタンドの決済画面。この画面をお客に見せるイメージ。
撮影:小林優多郎
時代のすう勢に合わせ、Squareスタンドもまた進化していかなければならない。フィードバックを得つつ、同社では第2世代の設計にあたった。
「聞き取りで分かったのは、(小売店が)事業を進める上で、いくつもの互換性がないツールを組み合わせて使わなければいけない状況に直面しており、不便を強いられているということ。
Squareにおける最優先事項はハードウェア、ソフトウェア、決済ツールなどさまざまなツールを統合することで、製品にはそれが反映されている。
特に、パンデミック後のトレンドを反映しており、デリバリーやオムニチャネルを含むeコマースへの対応、そして非接触(タッチ)決済の利用の増加を意識している」(ジョーンズ氏)
お客は支払い方法を自分で選び、決済する。
撮影:小林優多郎
第2世代のSquareターミナルでは、実際にユーザー側が多くスタンドを操作することを意識して設計されている。
前項の説明にもあったように、磁気カードの時代は店員側が「カードをこする」というように、ユーザー側に求められるのはサインやチップなどの最低限度の操作だけだった。
だが、カード決済では「磁気」「IC」「非接触(タッチ)」の決済端末でのいわゆる「3面待ち」が当たり前になり、基本的に商品登録後の決済操作はユーザー側に全て委ねられるようになってきている。
新製品での工夫として、店員側からユーザー側に180度ディスプレイを反転したときの金額確認画面を視認しやすくなったこと、そして決済のタイミングで「タッチ」または「ICカードを挿入」する際にマークが点滅し、一種の操作ガイドとして機能するようになった点が挙げられる。
日本未発売の2画面オールインワン端末「Square Register」。
出典:Square
「Square Register」(日本未発売)などのようにセカンドスクリーンこそないものの、従来のmPOSの仕組みをそのまま踏襲しながら、よりシンプルな構造でそれに匹敵する操作性を実現している。
Squareによると、2021年に統合型決済端末(Square RegisterとSquare ターミナル)を利用したキャッシュレス決済の取引のうち、タッチまたはICでの決済比率は世界で98%だという。
つまり母数としては限られるが、磁気カードの利用はほぼ消滅に向かっていると言っていい。
同じ条件で日本を見ると、未発売のSquare Registerを除外したSquare ターミナルでのタッチ+IC決済比率は99.6%ということで、やはり磁気カードはごく小さい割合に収まっている。
また、日本国内のデータでも非接触型クレジットカードが急速に普及していることが見て取れる。2022年1月にSquare加盟店で購入時に使われたクレジット決済のうち、タッチは前年同月比で16.9%から28.9%と大きく伸び、逆にIC決済は76.1%から65.1%に減少している。これは興味深いデータだ。
製品のグローバル市場一斉展開の背景
第2世代Square スタンドの外箱には各種電子マネーに対応している旨が明記されている。
撮影:小林優多郎
今回のSquareスタンドは「全世界同時製品ローンチ」となったわけだが、ジョーンズ氏によれば「Squareにとって初のケース」と説明する。
「国際的に拡大をしていくということがプライオリティーであり、さまざまなツールとサービスを含めてのエコシステムはどの国でも同じ『製品の同一性(Product Parity)』を目指している。
我々はSquareスタンドがそのエコシステムにおいて非常に重要なピースと考えている。理由として、事業者がすべてのオペレーションのハブとしてSquareスタンドを使っていることが挙げられる」(ジョーンズ氏)
各国ごとのローカライズも既に済んでいる。日本向けには、国内特有の事情として、FeliCaベースの各種電子マネー(Suica/PASMOを含む交通系ICとiD、QUICPay+)に対応している。
ただこういった市場の特殊性は世界中どこでも見られるもので、例えばカナダでは同国独自のデビットカードシステムである「Interac(インテラック)」が広く利用されていることが知られており、Squareは同国においてこれもサポートしている。
ジョーンズ氏によると、今回のSquareスタンドはすべての国でハードウェアは共通であり、同梱される電源コードの違いのみとのこと。
ハードウェアの違いはほとんどない。ただし、電源コードはその市場特有のものが同梱されている。
撮影:小林優多郎
なお、細かい部分だが、ハードウェアは共通でもオペレーション部分で国ごとに若干の違いがあるのが実際のようだ。
例えば、タッチ決済は一定金額(日本では通例として1万円以下)までPIN入力などなしで支払いが可能となっているが、カード発行会社(イシュア)によってルールが異なり、追加で署名を求められるケースがあるという。
ICで決済した際に表示されるPIN。
撮影:小林優多郎
PINを忘れている場合や、金額やカード会社によってはタッチ決済時に表示されるサイン入力画面。
撮影:小林優多郎
また、IC決済では基本的にPIN入力が求められるが、Squareの場合は加盟店からの要望でPIN番号が思い出せないユーザーのために、決済画面でPIN入力の代わりに署名に切り替えられる機能が搭載されている。
必ずしも「国ごとの違い」というわけではないが、それぞれに決済文化やセキュリティーに対する考え方の違いが反映されているようでやはり興味深い。