アップル(Apple)のプライバシーポリシーが大幅に変更されて1年が経過したが、その影響は今後もさらに続くと予想されている。最新の分析では、Meta、YouTube、Snap、Twitterは2022年、合わせておよそ160億ドル(約2兆円、1ドル=125円換算)の減収となる見込みだ。
2021年4月26日に導入された「App Tracking Transparency(ATT:アプリのトラッキングの透明性)」のアップデートにより、「Identifier for Advertisers(IDFA:広告主のための識別子)」を使って他社のアプリやウェブサイトを横断してユーザーを追跡する場合、アプリ開発者は事前にユーザーに許可を求めなければならなくなった。
ユーザーの多くはそのような追跡を許可しないため、広告主やプラットフォーム事業者は、ターゲット広告の正確な効果測定に役立つ貴重な指標を失った。
この変更により、多くの広告主はマーケティングを見直し、広告費支出をオフライン広告やアップル独自の検索広告など、アップル識別子への依存度が低い媒体にシフトせざるを得なくなった。
Metaは逆風続く
データマネジメント会社のLotameからInsiderが独占入手した最新の分析によると、Facebookを運営するMetaは、アップルのプライバシーポリシー変更による打撃を2022年も受け続けるとみられる。Lotameは、この変更によるMetaの2022年の収益への影響を128億ドル(9.7%、約1兆6000億円)減と見積もっている。
Metaは2021年に、このアップルのプライバシーポリシー変更で2022年には「100億ドルほどの」逆風が吹くだろうとの懸念を示していた。Metaは他のプラットフォーム事業者と同様、プライバシー保護を重視した新しい広告効果測定と最適化のためのツールを導入することで影響を最小限に抑えようとしているが、こうした新しいツールが広告主に受け入れられるまでには時間がかかる。
Snapは混乱からの回復途上
モバイル事業にほぼ特化しているSnapchatの親会社Snapも、金額ベースではMetaよりはるかに小さいとはいえ、2022年の収益について同様の危機感を持っていると推測される。Lotameの試算によれば、Snapの2022年収益は9.6%減に当たる約5億4600万ドル(約683億円)減になるという。
Snapは、2021年第3四半期の収益が予測を下回ったのはアップルの同規約変更とサプライチェーンにおける供給不足が一因だとしていた。同社は翌四半期には回復に転じ、初の四半期利益を計上した。
しかし、Snapのデレク・アンダーセン(Derek Andersen)最高財務責任者(CFO)は2022年2月、広告主は第4四半期に導入されたATTによる初期の混乱から回復し始めたが、マーケターが同社の新しい広告効果測定およびターゲティングツールに適応するまでには「少なくともあと2四半期」はかかるだろうと語った。
YouTubeは22億ドル規模の打撃か
グーグルの親会社、アルファベットは自社で大きな広告事業を持っており、ユーザーに関する膨大なデータや検索広告プロダクトを持っているため、アップルの同規約変更の影響を受けていない。また、識別子が変わっていないAndroid OSを持っているため、iOSユーザーをターゲットとしない広告主としてのメリットも享受できた。
しかしグーグルは2021年、アップルのユーザーが「追跡を許可しない」を選択することで同社のYouTubeの収益にも「それなりの影響」は出る、としていた。
「それなりの影響」がYouTubeに与える打撃は、2022年の収益の6.5%に相当する22億ドル(約2750億円)に達するとLotameは予測している。
Twitterは3億ドル超の影響を見込む
Twitterも以前、ATTの影響は「それなりに」あるだろうと述べ、影響は2022年第1四半期まで続くだろうと語っていた。しかし、2020年と2021年に行ったプロダクト改良への投資が効を奏したと述べている。また、同社は多くの競合他社よりもブランド広告に力を入れているが、これは直接的な反応を得るための広告というよりは、ブランドを多くのオーディエンスに売り込むためのものだ。
Lotameは、アップルの同規約変更でTwitterの2022年の収益が3億2300万ドル(5.4%、約404億円)減少すると試算している。
アップル、アルファベット、Meta、Twitter、Snapの広報担当者はいずれもコメントを避けるか、無回答だった。
Lotameの分析では、各プラットフォームのモバイル端末依存度、iOSユーザーのシェア、トラッキングを「許可しない」と回答する消費者の割合(平均65%)、各社の2022年の収益に関するアナリストによるコンセンサス予測などの結果が得られた。
アップルの同規約変更後も各プラットフォームが前年比でかなりの成長を続けていることを考えると、その影響は、売上に対して直接及ぶのではなく、将来の成長の鈍化という形で現れてくる可能性が高い。
まだ変わる可能性があることも多い。専門家らはアップルがプライバシー保護ツールを強化することで、広告業界にさらなるダメージを与える可能性があると予測している。また、プラットフォームもサプライチェーンの混乱やその他のマクロ経済的事象の影響を受ける可能性がある。
加えて大手テック企業は、自社プラットフォームのみで販売を行い、サードパーティに頼らず広告効果測定を行う方法として、eコマースに力を入れ始めている。一方、業界でもグーグルによるChromeでのCookie廃止の動きや、新たな世界規模のプライバシー規制などといった変化に対応するための準備も進められている。
Lotameのマイク・ウーズリー(Mike Woosley)最高執行責任者(COO)はこう指摘する。
「年月の経過とともにアップルの同規約変更の影響を特定することはますます難しくなる。さらに(以前はよりオープンだった)メディアシステムへのアクセスについても今後何らかの規約変更が行われる可能性もあり、複数の変更が同時に行われた場合には個別の影響を把握するのは難しいだろう」
フィナンシャル・タイムズの報道によると、Lotameは2021年10月に同様の分析を行っていた。それによるとアップルの同規約変更の影響によるMeta、YouTube、Snap、Twitterの2021年下半期の減収幅は合計98億5000万ドル(約1兆2300億円)だと予測されていた。
(翻訳・渡邉ユカリ、編集・常盤亜由子)