「Yes we can. Yes we did」 オバマ米国大統領、最後の演説

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REUTERS/John Gress

オバマ大統領は、1月10日火曜日に大統領として最後の公式演説に臨み、政権当初からのテーマを成し遂げたことを感動的な言葉で訴えた。

シカゴの聴衆を前に「あなたたちが change そのものだった。あなたたちが国民の希望に応えたのだ。そして、あなたたちのおかげで、わたしたちが政権をスタートした時よりも、ほとんどの局面において、米国はより良く強い国となった」と語りかけた。

そして、演説の終わりには選挙キャンペーンの決めセリフを彷彿させる「Yes we can. Yes we did. Yes we can」という言葉で締めくくった。

オバマ大統領は演説の終盤、夫人や家族への謝意を表して涙ぐむ様子も見せながら、低い失業率や医療保険制度改革法(オバマケア)により何百万人もの人々が新たに医療保険に加入できたことなど、在任中の成果を強調した。

だが一方で、トランプ次期大統領が10日後には政権を発足させる状況で、外交と国内情勢の両面で米国の民主主義が危機にさらされていることを指摘し、テロの脅威や経済格差、気候変動問題が深刻になることへの警戒を呼びかけた。

「世界が萎縮する中、格差や人口動態の変化、テロリズムの影は大きくなっている。わたしたちの国の安全や繁栄はもとより、わたしたちの民主主義もまた試されている。この民主主義への挑戦にどう立ち向かうのか。わたしたちは自分の力を信じ、固い決意を持って子供たちを教育し、良き雇用を創出し、わたしたちの故国を守るのだ」

そしてオバマ大統領はさらに続けた。

「現実の成果がまだ十分ではないことをわたしたちは知っている。ミドルクラスに犠牲を強いながらの発展で、経済はいまだ良好とはいえず、成長スピードも速くない。そして、厳然と存在する格差が民主主義の根底を腐食している。頂点にいるわずか1%の人間が資産と収入の大部分を蓄え、数多くの家族が取り残されている。失業した工場労働者やウェイトレス、ケアワーカーが日々の生計を立てるために苦しんでいる。彼らはゲームに負けることを初めから仕組まれていると感じている。政府は力を持つ強者の利益に奉仕しているだけだと。政治に対する冷笑と分裂がさらに生み出されている」

また、人種問題は米国初のアフリカ系アメリカ人大統領の最後の演説でも際立っていた。

オバマ大統領は、異なる人種同士の関係は、近年の歴史を振り返っても、かなり良いものになっていることに理解を示しつつ、様々な市民の権利の保護とあわせて、良好な状態を維持する努力と反差別法の制定の必要性を強く訴えた。

「選挙の勝利後、人種差別を超越した米国について語られたが、そのようなビジョンは、たとえ善意から出たものであっても、決して現実的ではない。人種問題の種は残っており、しばしばわたしたちの社会を分断する力になる」

「もし、すべての経済問題が、働き者の白人ミドルクラスとマイノリティの軋轢という枠組みで判断されるなら、金持ちが自分たちの取り分を持ち去ったあとのわずかな切れ端のために、すべての肌の色の労働者が争うことになる。彼らの見た目がわたしたちと違うという理由だけで、移民の子どもたちへの投資をやめてしまうのは、わたしたち自身の子供たちの前途を閉ざすことにほかならない。なぜなら、浅黒い肌の子どもたちは米国の労働人口の大きな割合を占めるものなのだから」

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バラク・オバマ大統領は、国民に別れの挨拶を行った。(2017年1月10日、シカゴ)

Scott Olson/Getty Images

白人の米国人とマイノリティにあてたメッセージとして、オバマ大統領は『To Kill A Mockingbird(邦題『アラバマ物語』)』の主人公であるアティカス・フィンチを共感のモデルとしてあげた。

「黒人やそのほかのマイノリティにとって、縛られた手で自分自身の正義のために戦うことは、難民、移民、貧困層、トランスジェンダーなど、この国の多くの人々が向き合っている挑戦だ。一見、恵まれているように見える中年の白人男性もその1人かもしれない。なぜなら彼は経済的、文化的、そしてテクノロジーの変化により、彼が信じていた世界がひっくり返ってしまった現実を見ているのだから」

「白人にとっては、奴隷制がもたらしたジム・クロウ(公民権法が制定される前に存在した黒人取り締まり法であるジム・クロウ法に由来)が1960年代に突然いなくなったわけではないことに気づかされた。人種マイノリティが不満の声をあげたとき、彼らは人種差別を逆転させようとしたり、政治的な正しさを振りかざしたわけではない。特別待遇を要求したのではなく、静かな抗議活動を通して、わたしたちの建国の祖が約束した公平な扱いを求めていたのだ」

あわせて、オバマ大統領は重層的なメディアの現状が党派主義を増長させることへの危惧を示した。これは、2008年の就任当時から問題にしてきたことでもある。

「生まれ育った土地、大学のキャンパス、宗教的な施設やソーシャルメディアでもいい、自分と同じような見た目で、政治的にも同じモノの見方をして、こちらの思い込みを決して批判しない人間だけに囲まれた殻の中に引きこもって安心している」

「党派主義の高まり、経済的地域的な階層化の進行、メディアはそれぞれの層の嗜好にあわせて細かく分断化した。人々を仕分ける流れは自然で、当然のことにさえ見える。それが真実か否かも問わずに、ただ自分たちの意見に寄り添う情報だけを受け入れる殻の中の方が安全だと考える風潮がある。殻の外にある事実に基づいて考えることをしない」

「健全な討論とは、異なるゴールを目指し、そこに至るべき理由が異なっていたとしても、事実の認識という共通のベースに基づき、新しい情報を認める意思、そして、相手が正しい場合はそれを受け入れること。科学性と論理性を尊重することが大切だ。わたしたちはお互いに話し合いを続け、共通する土台を作り、歩み寄りを図らなければならない」

聴衆は大統領の演説を歓迎し、途中で「Four more years.(あともう4年)」と連呼する場面もあった。

「それはできない」

オバマ大統領は笑いながら答えた。ポジティブな調子の演説スタイルでトランプ氏への直接攻撃は避けたが、自身がダイバーシティ(多様性)の擁護者であることを強調し、トランプ氏の言説との違いを鮮明にした。

実際、トランプ氏への政権移行に触れた際に聴衆から起きたブーイングを「No, no, no,(そうじゃない)」と鎮めた。

「わたしはトランプ次期大統領に政権がスムーズに移行するよう協力する。それはブッシュ前大統領がわたしにしてくれたことだ。わたしたちの国の政府が、国が直面する課題に取り組めるようにすることは、わたしたち国民全員の手にかかっている」

しかしながら、大統領は演説のなかで選挙中に行われた論議やテーマについて真っ向からの反論も行った。

トランプ氏のイスラム教徒の米国への入国を拒否する考えをほのめかしつつ、「この戦いにおいて、わたしたちの憲法と国家の基本原則を疎かにしない限り、米国が打ち負かされることはありえない」と述べ、また、ロシアや中国のような国になって、「自らが立脚するものを捨てる」ことへの恐れに言及した。

この演説は、オバマ大統領の取り組みを讃えるホワイトハウスの広報活動の最後を締めくくるものだ。

先週、Mediumは、悲惨な経済状況のもとで引き継いだ、2009年の就任直後を振り返るオバマ大統領の言葉を報じた。

「2009年1月20日の冬の最中、わたしはあなたたちの前に立って誓った。わたしたちの目の前にある挑戦は決して簡単なものでも、短期間に解決するものでもない。だが、きっと成し遂げると。8年の月日が慌ただしく過ぎた今、わたしたちは成し遂げたのだ。なぜなら、あなたたちがいたからだ」

任期の最後に「お別れ」演説を初めて行ったのは、ジョージ・ワシントン大統領だ。その時は、2期目の終わりに文書の形で発表された。

いずれの大統領もそれぞれ自分のスタイルで演説を行うが、去り行く大統領はしばしば演説を国民への警鐘に利用することがある。アイゼンハワー大統領は、国防省の後押しを受けた大企業が軍と巨額の受注契約を結んでいるとして、忍び寄る軍需産業の脅威について警告した。

オバマ大統領は大統領執務室から語りかける伝統的なやり方を取らず、地元シカゴの聴衆の前に立つことを選んだ。そこは2008年と2012年、勝利宣言スピーチを行った場所でもあった。

[原文:'Yes we can, yes we did': Obama delivers emotional farewell address

(翻訳:十河亜矢子)

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