米決済大手ペイパル(PayPal)本社前。社内で大規模なリストラが進行している模様だ。
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米決済サービス大手ペイパル(PayPal)は、実用化前の先端技術に特化したセキュリティ研究開発チームをレイオフ(一時解雇)した。Insiderの取材で明らかになった。
本件を直接知る関係者によれば、ペイパルは経費削減のために社内のリストラクチャリング(構造改革)を進めており、他の部門にもレイオフの波が押し寄せる可能性がある。
「ペイパル社内では組織再編や重点事業の見直しが行われています。周知の通り、ここ数四半期の業績は振るいませんでしたから、締めつけは厳しくなっていると思います」
同じ関係者によると、脅威インテリジェンス(=サイバー攻撃に関する情報)のような高度情報セキュリティ分野にかかわる従業員もレイオフされたという。
ペイパルの広報担当は、冒頭の研究開発チームをレイオフした事実を認め、その理由として「近い将来に事業化できるテーマではない」ことを挙げた。
今回(4月1日前後)のレイオフ対象となったのは、従業員3人、請負契約1人の合計4人。量子コンピューティング、暗号化、分散型台帳などの先端技術をセキュリティ強化に活用するための研究を担っていた。
ペイパルがIBMと提携して進めていた取り組みの一環で、量子コンピューティングと機械学習を駆使して大規模なデータセットを解析して不正を検出することに主眼が置かれていたが、量子コンピューティングの活用を企図した他の金融サービス分野における取り組みと同様、技術とその効用は理論段階で、実用化はまだ先という話のようだ。
レイオフの対象となった研究開発チームは情報セキュリティ部門の管轄下にあり、最近も人事異動があったばかり。
リンクトイン(LinkedIn)の情報によると、2014年から最高情報セキュリティ責任者(CISO)を務めていたジョン・ナイが退任し、1月から後任にアッサーフ・ケレンが就任している(サイバーセキュリティ担当バイスプレジデント兼務)。
「大企業の場合、情報セキュリティ責任者の交代時に大規模な組織改編が行われるのはよくあることです。決済市場全体ひいては経済全般の現状を考えると、当然それ以上のことが起きていると考えるべきでしょう」
ペイパルの株価は、2021年7月に過去最高となる308ドルを記録したあと下落基調が続き、現在は110ドル前後で推移している。
ダン・シュルマン最高経営責任者(CEO)は2021年第4四半期(10〜12月)の決算発表時、過去2年間で新規アクティブアカウント数が1億2200万増加し、アカウント毎の決済件数も増えたと強調。
同CEOはその一方、サプライチェーン問題やインフレ高進などの市場環境が成長の下押し圧力となっていることに言及。
さらに、EC大手イーベイ(eBay)がペイパルとの業務協定終了に伴って独自のエンドツーエンド型決済システムに移行することが「売上高に14億ドルの下押し圧力となる」と明かした。
決済およびEC市場では、ストライプ(Stripe)やショッピファイ(Shopify)のような新興フィンテック企業との競合など、競争環境は激化の一途をたどっている。
ペイパルにコメントを求めたところ、以下のような回答があった。
「ペイパルは、お客様のニーズに応え、成長と進化を続けつつ、戦略上優先度の高い事業に注力していく上で最適な組織構成と事業プロセスを維持するため、業務体制の評価見直しをかなり頻繁(ひんぱん)に行っており、今後もお客様に優れたプロダクトとサービスを提供するために全力を尽くして参ります。
従業員の配置に関するあらゆる決定は責任を持って行われ、当社のバリューに沿う水準の福利厚生、支援、契約通告、サポートが提供されます」
(翻訳・編集:川村力)