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4月14日、CO2排出量の「見える化」サービスなどを展開するベンチャー企業のアスエネが、シリーズBラウンドで総額18億円の資金調達を実施したことを発表した。
シンガポール政府傘下の投資会社のパビリオンキャピタルおよび、GMO VenturePartners、アジアPE FundのAxiom Asiaが新規の引受先となったほか、既存投資家であるインキュベイトファンド、STRIVE、環境エネルギー投資から追加で資金を調達して合計16億円。これに加えて、商工組合中央金庫から2億円の融資を受ける。
今回の資金調達によって、2019年10月の創業からアスエネの累積資金調達額は約22億円となった。
「見える化」ビジネス急拡大
アスエネのCO2排出量見える化サービスの画面イメージ。
画像:アスエネ
世界中で脱炭素に向けた取り組みが加速している中で、CO2排出量の「見える化」ビジネスは加熱している。
米国の代表的な気候テックとして知られる、パーセフォニ(Persefoni)は、2021年10月にSaaS系の気候テックとして、史上最大級の1億100万ドル(約126億円)の資金調達を実施した。
国内でも日立や富士通などの大手メーカーに加えて、マイクロソフトやセールスフォースといった外資系企業も参入してきている。まさに、CO2排出量の見える化サービスは戦国時代の様相だ。
アスエネは、2019年に設立したばかりのベンチャー。CO2排出量の見える化サービスのローンチも2021年8月と、他の企業と比べて特別先行しているわけではない。
しかしそれでも、アスエネの見える化サービス「アスゼロ」は、ローンチからまだ1年も経っていない現状ですでに約200社に導入している状況だ。
2020年10月に菅義偉元首相が「2050年までにカーボンニュートラルを目指す」と宣言したことや、翌2021年4月に「2030年にCO2排出量を2013年比で46%減にすることを目指す」という政府目標が更新されたことが業界の追い風になっていることは間違いないだろうが、アスエネの⻄和田浩平CEOは、Business Insider Japanの取材に対して「5年後までに1万社を目指します」とサービス拡大に強気の姿勢を示した。
見える化だけでは終わらない
サプライチェーンのCO2排出量を計算する際には、Scope1〜3と領域を分けてそれぞれ計算する。特に、上流や下流となるScope3の把握が難しいとされている。
出典:環境省
アスエネが提供するCO2排出量見える化サービス「アスゼロ」は、電気の使用量など、企業の事業活動に関わるさまざまな情報を入力することで、サプライチェーン全体(Scope1〜3)を含めたCO2の排出量を計算することができるクラウドサービスだ。
⻄和田CEOは、これに加えて、CO2排出量を見える化した上で「どう削減していくか」までをサポートできる点が強みだとしている。
実際、企業がSX(※)を進める上でやらなければならないことは多い。結果的に、見える化サービスはA社、電力の見直しはB社、カーボンクレジットの取引はC社、コンサルはD社に——。といったように、複数の企業と契約を結ぶこともあるという。
SX:サステナビリティ・トランスフォーメーション。企業が持続可能性を重視した経営方針へと切り替えること。
これでは、CO2排出量を削減するという一つの課題に対して、企業間のやりとりが膨大になり、あらゆるコスト増えてしまう。
アスエネでは、SXコンサルティングのほか、自社でクリーン電力サービス「アスエネ」やカーボンクレジットの取引(非化石証明書の売買)なども手掛けている。「CO2排出量を削減する」という目標に対して、広範囲のサポートが可能な点から、サービスをローンチして以来契約者数を増やし続けてきたわけだ。
「 サービス全体の契約受注額が前年対比で6倍に急増加、契約者数5倍、社員数5倍、アスゼロの契約受注額毎月平均+300%超の成⻑、と非連続な成⻑を継続しております」(プレスリリースより引用)
アスゼロの料金形態は、年間で数十万〜1000万円台後半と、企業の規模や条件によって幅広い。特に、低価格帯のサービスがあることで、中小企業などへの導入が進むことが期待される。
CO2の見える化サービスの中には、大手企業をターゲットとした高額の料金形態しか持たないサービスも散見される。例えば、前述したセールスフォースの事例では、基本の「Starter(スターター)」バージョンが1組織あたり年間576万円(税別)、廃棄物管理など複数の機能を追加した「Growth(グロース)」バージョンは1組織あたり年間2520万円(税別)だ。これでは、中小企業はそう簡単に導入を決められない。
しかし、これから先、脱炭素の流れがさらに加速していくことが予測される中で、大手企業はもちろん、大企業と取引をしている多くの中小企業にもCO2の見える化が求められていくことは間違いないだろう。
アスエネは、幅広い料金形態を通じて、そういった中小企業に対しても広くアプローチしていく戦略だ。
アスエネは、今回調達した18億円の資金を、開発・営業・カスタマーサクセス(CS)の採用強化や、見える化サービス「アスゼロ」の利便性向上に向けたシステム機能拡充、さらに、グローバル展開に向けたシステム仕様の強化、マーケティング費用などとして活用するとしている。
(文・三ツ村崇志)