皮膚が完璧な状態で残るトリケラトプスの化石など、ノースダコタ州の発掘現場で多数の化石が発見され、BBCのドキュメンタリー・クルーによって撮影されている。
BBC Studios/Eric Burge
- アメリカ・ノースダコタ州の「タニス」と名付けられた発掘現場で、信じられないほど保存状態のよい恐竜の化石が発見された。
- この恐竜は、6600万年前に小惑星が地球に衝突した時に死亡したと科学者たちは考えている。
- この発見は、以前に論争を巻き起こしたことのある古生物学者、ロバート・デ・パルマによるものだ。
科学者たちは、6600万年前に小惑星が地球に衝突した時に死亡した恐竜の化石を発見したと主張している。
テスケロサウルスの脚の化石は、鱗状の皮膚が残る完璧な状態で保存されており、小惑星の衝突による堆積物なども一緒に見つかっていることから、大量絶滅イベントの際に死んだ恐竜のものだと科学者らは考えているとBBCは報じている。
幅約12kmの、エベレストとほぼ同じ大きさの小惑星がメキシコ湾に衝突したとき、翼竜以外の恐竜はすべて絶滅したと考えられている。
2022年4月15日(現地時間)に放送されるBBCのドキュメンタリー番組では、アメリカ・ノースダコタ州のタニスと呼ばれる発掘現場で発見された多数の化石を取り上げている。番組では、BBCが公開した動画にあるテスケロサウルスの脚や、本記事の最初に紹介した画像にあるトリケラトプスの皮膚などについて紹介された。
番組のナレーションを務める動物・植物学者のデイビッド・アッテンボロー。
BBC Studios/Jon Sayer
この発掘現場からは、魚や亀、さらには卵に入った翼竜の胎児など、保存状態の良い化石が多数見つかっている。
タニスで見つかった魚の化石のえらには、小さなガラスのような溶けた岩石の粒子が詰まっていた。この粒子は小惑星の爆発的な衝突によって噴き上げられてできたものだと科学者らは考えている。
堆積物に含まれていたスフェルール(岩石などが一度溶融し、空中でふたたび冷却、固化した粒子)。
BBC Studios/Ali Pares
「この発掘現場では、当時何が起きたかのか、その一瞬一瞬を教えてくれるような詳しい情報を得ることができた。まるで映画の中で繰り広げられる出来事を見るようだ」と、タニスでの発掘を率いるイギリスのマンチェスター大学の大学院生、ロバート・デ・パルマ(Robert DePalma)がBBCに語っている。
マンチェスター大学でデパルマの博士課程を指導したフィル・マニング(Phil Manning)教授は、BBCラジオ4の番組で、この発見は「とにかくクレイジー」で、「私が現役であるうちにこんなことが起こるとは、夢にも思わなかった」と述べている。
「この現場で得られる時間分解能(観察対象の変化を捉える最短の時間間隔)は、我々の想像をはるかに超える。本来、存在するはずのないものであり、本当にびっくりするほど美しい」とマニングは語った。
デヴィッド・アッテンボロー(David Attenborough)がホストを務めたBBCのドキュメンタリー番組は、3年をかけて撮影された。
あまりにも「すばらしい」発見のため、懐疑的に見られることも
この番組では、ロバート・デ・パルマ(映画監督ブライアン・デ・パルマの親類だ)が、インディ・ジョーンズ風の中折れ帽に色褪せたシャツを着ている姿が捉えられている。
彼はこの古生物の発掘現場を、1981年の映画「レイダース/失われたアーク」に登場する聖櫃の最後の安息の地にちなんで「タニス」と命名した、とThe New Yorkerが報じている。
タニスでの発見とデ・パルマの仕事は、長年にわたって論争を呼んできた。
同僚と言葉を交わすタニスの発掘リーダー、ロバート・デ・パルマ。
BBC / Tom Traies
The New Yorkerがタニスの発掘現場について最初に報じたのは、学術誌で研究成果が発表される前の2019年のことだった。
通常、古生物学者は化石に関する権利やキュレーションの役割を研究機関に譲る。一方、タニスでの発見以前は学術的な功績がほぼなかったデ・パルマは、化石の管理を彼が行うと契約条項に盛り込むことにこだわった。化石をどのように発表するかを、デ・パルマがコントロールしたのだ。
The New Yorkerの記事に対し、Scientific Americanのサイエンス・エディターであるケイト・ウォン(Kate Wong)は、2019年のツイートで、タニスでの発見について「古生物学コミュニティから多くの懐疑的な意見が寄せられている」と述べている。
その後、デパルマらの発掘チームはいくつかの査読付き論文を発表しており、今後もさらに発表していくことを約束したとBBCが報じている。
BBCは番組の制作にあたり、外部コンサルタントを招いて化石の検証を行ったという。
ロンドン自然史博物館のポール・バレット(Paul Barrett)教授は、脚の化石を見て、それはテスケロサウルスであり、「ほぼ即死」したのだろうと言う。
「この恐竜が属するグループは、皮膚がどのような状態だったのか、これまで記録がなかった。だがこの化石を見ると、トカゲのようなうろこがあったことが明らかとなった。同時代の肉食動物のように羽毛が生えていたわけではない」とバレットはBBCに語っている。
しかし、この番組の外部コンサルタントであるエディンバラ大学のスティーブ・ブルサティ(Steve Brusatte)教授は、現時点では小惑星の衝突によりこのテスケロサウルスなどが死んだという仮説に懐疑的であり、査読によって精査されることを望んでいるとBBCに語っている。
「魚のエラに粒子が詰まっていたのは、明らかに小惑星の衝突によるものだ。しかし、他の主張については、まだ提示されていない多くの状況証拠があるのだろう」
小惑星衝突前に死んだ生物の一部が、衝突によって掘り起こされ、再び埋もれた可能性もあると、ブルサティは言う。
しかし、最終的には化石の質が、恐竜がいつ死んだのかという論争に決着をつける切り札になるだろうとしている。
「とはいえ、すべての化石について、衝突の日に死んだのか、それより何年も前に死んだのか、明らかにする必要があるだろうか。翼竜の卵の中に胎児がいるのは滅多にないことで、北米でこのようなものは他にない。小惑星に関することがすべてである必要はない」
(翻訳:仲田文子、編集:Toshihiko Inoue)