マーカス・バッキンガム(写真)は、転職時に人が誤解しがちなことと、「賢い転職」のために必要な心構えについて教えてくれた。
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- 転職を決意した人は、「新しい会社に移るだけで自分は幸せになれる」と考えがちだが、これはよくある誤解だという。
- 「たいていの会社の仕組みは、今働いている会社と変わらない」と、マーカス・バッキンガムはInsiderに述べた。
- 新天地にむやみに期待する代わりに、今の仕事で一番楽しめている要素を探し、それに基づいて転職先を決めるべきだというのが、バッキンガムのアドバイスだ。
今の仕事が心底嫌でたまらないのはなぜだろうか。そして、(こちらの方が重要なのだが)そんな仕事の中でも、好きだと思える部分はあるだろうか。
この2つの問いは、今の仕事を辞めることを考えているのなら、必ず考慮すべき重要な問題だ。そうアドバイスするのは、調査を専門とするコンサルタントで、複数の著書でも知られるマーカス・バッキンガム(Marcus Buckingham)だ。これらの問いに向き合うことを怠ると、仕事を辞める際に、あるひとつの共通するミスを犯すケースが多い、と彼は解説してくれた。
「転職先の新しい会社では違うやり方で仕事を進めていけるだろう、と期待して今の会社を辞めるとしたら、それは間違いだ」と、バッキンガムはInsiderに語った。
「たいていの会社の仕組みは、今働いている会社と変わらない」
多くの場合、新しい会社に転職した後には、以前よりやる気が湧いて生産的になる、いわゆる「ハネムーン」の時期がある。だが、前職と同じ業界で同じ業務に従事しているなら、すぐに、前の仕事と代わり映えがしないと気づくだろう。
そうではなく、賢い転職をしたいのなら、「探し求めているものは自分自身の中にある」のであり、会社に求めるのは間違いだとバッキンガムは指摘する。これを見つけるには、今の仕事の中で、自分が一番好きで楽しめている部分(そして逆に、そうとは言えない部分)を具体的に洗い出す必要がある。
幸福度の高いキャリア形成に必要な、仕事の中の「好きなこと探し」
仕事における幸福度と実績の関係については、学術界ではかなり以前から詳細な研究が行われてきた。従業員が幸せだと、より一生懸命働き、生産性が上がり、離職の可能性が低くなることについては、ある程度のエビデンスが存在する。
一方で、幸福度自体の測定が難しく、幸福を目指すことが、逆にネガティブな結果を招く恐れがあると主張する研究者もいる。たとえば、幸福の追求に取り憑かれるあまり、「自分は幸福になれていない」と思い込むと、心に悪影響を及ぼすというのだ。
バッキンガムは、仕事のあり方に関する世の中の動きをモニタリングする調査会社ADPリサーチ・インスティチュートで、「ピープル&パフォーマンス」に関わる調査を指揮している。
バッキンガムは、最新の著書『Love and Work: How to Find What You Love, Love What You Do, and Do It for the Rest of Your Life(ラブ・アンド・ワーク:好きなことを見つけ、好きなことをやり、一生それを続ける方法)』の中で、人が自分の仕事をより幸せな方向に導くためには、「赤い糸」の導きに従うべきだと説いている。彼が言う赤い糸とは、自分の仕事の中で、やっていて最も楽しめる、あるいは自然と引き寄せられる要素のことだ。
これはたとえば、毎朝目が覚めると、電話をかけて顧客と情報交換をするのが待ちきれないと感じるとか、あるいは、新製品の発売前に新興市場についてリサーチしていると、あっという間に時間が過ぎてしまう、といったことだ。こうした赤い糸は、人によって異なる固有のものだ、とバッキンガムは言う。
「(転職前に)自分の赤い糸が何なのか探す努力をしていない、あるいは自分の仕事で本当に好きな部分や、その詳細についてじっくり考えたことがないのであれば、新しい仕事についても、そういう要素を見いだすことはできないだろう」とバッキンガムは指摘する。
拙速に仕事を辞めるよりも、今の職場でこうした赤い糸に関係した仕事をする時間を増やす方法を探し出す方が、幸福度を上げるのに効果的かもしれない。バッキンガムによれば、赤い糸に着目することで、そもそも自分が今している仕事がどんな性質のものなのか、改めて評価することにつながる可能性もあるという。
「赤い糸」は、転職に最適なタイミングを見極めるヒントにもなる
一方で、赤い糸を探した結果、今の仕事上の役割には、やる気になる要素がほとんど見当たらなかった、というケースもあるだろう。その場合は、転職するのがベストな選択かもしれないと、バッキンガムはアドバイスする。
それでも、赤い糸について考えることで、少なくとも、自分が仕事に求めているものと求めていないものが、よりはっきりと見えてくるはずだ。
バッキンガムによれば、「賢い転職」を実現した人の多くに共通する要素はもうひとつある。それは、「自分が好きな仕事」の追求だけにこだわりすぎず、職場環境についても考慮した上で判断を下していることだという。
「(退職する際に)人が見限るのは、勤務先の会社ではなく、直属の上司だ」とバッキンガムは指摘し、さらにこう結論づけた。
「上司が部下のことを知ろうとしなかったり、部下にまったく関心がないことが明らかだったりする場合は、退職の判断に踏み切っても良いだろう。これも仕事の重要な一部だからだ」
(翻訳:長谷 睦/ガリレオ、編集:Toshihiko Inoue)