ホームオフィスのデスクまわりとStudio Display。普段使っている34インチ/21対9のディスプレイほどではないにせよ、5Kの27インチは十分大きい。Windowsで使うとどうなるか?もこの記事では検証している。
撮影:伊藤有
ここ2週間ほど、アップルの新しいプロ向けディスプレイ「Studio Display」を試している。
アップル製液晶ディスプレイの最上位「Pro Display XDR」(約58万円)ほど高価ではないながらも最も廉価なモデルでも19万9800円する、高価な製品だ。
次のような特徴を持っている。
- 広色域P3対応の5K(5120×2880ドット)Ratinaディスプレイ
- 空間オーディオ対応のスピーカーを内蔵
- 今やオンライン会議の必須になったカメラを搭載
- Macでは常に顔の位置を映像の中心部にキープしてくれる「センターフレーム」に対応
こういった具合に、機能面・性能面ともに気になる機種だ。
一方で、「これってWindowsで使ったらどうなるの?」だったり、実際の音質はどれほどなのか、また、海外を中心に指摘される「カメラの画質」についても気になるところだ。
あくまでデザイナーではない一般ユーザー目線として(つまり、画質にはさほど言及しない)、2週間触って感じているところをレビューしてみよう。
Studio Displayの「普通じゃない」部分
開梱直後のStudio Display。化粧箱や各種保護カバーまでふくめて、紙以外の素材は皆無。この巨大な液晶画面の保護カバーも紙製だ。
撮影:伊藤有
まず今回の試用機は、「標準ガラス」(低反射なNano-textureではない)と、上下の位置調整に対応した「傾きと高さを調整できるスタンド」を組み合わせたモデル。直販価格は、24万3800円という仕様になる。
化粧箱は非常に巨大で、以前レビューした「M1版 iMac(27インチ)」とほぼ同じサイズに思える。スペック上の単体重量は7.7kgだが、梱包重量になると、店頭持ち帰りは自分なら諦めるというほどの重さだった。
背面にあるUSB Type-C端子。一番右のみ、96Wの充電にも対応するThunderbolt 3端子で、MacやWindows PCはここに接続する。
撮影:伊藤有
いわゆる「高価な液晶ディスプレイ」として見ると、Studio Displayは普通じゃない仕様の塊だ。
まず、ビデオ会議で顔を追尾してくれる「センターフレーム」や音に広がりを与える「空間オーディオ」を実現するために、本体にはiPhone SE第2世代と同じ半導体「 A13 Bionic」が入っている。ディスプレイのなかにiPhone SE(第2世代)が入っているようなものだ。
一方で、外部入力やボタン類は驚くほど割り切った仕様だ。
入力端子はUSB Type-C(右端のみThunderbolt 3)以外に1つもなく、さらに外部入力切り替えもない。電源ボタンもない。こういう特異な設計なので、同時発表の「Mac Studio専用ディスプレイ」だという人もいるほどだ。
ディスプレイのアーム部分の可動範囲。上下のほか、チルト(前後の傾き)調整もできる。色々な角度で使ってみたが、調整不足を感じるシチュエーションはなかった。
撮影:伊藤有
肝心の画質と音質についても、軽く触れておく。
いつも使っているLGの35インチ湾曲液晶と比べて感じるのは、絵づくりにまったく派手さがない一方で、色のつながりが異様になめらかに感じることだ。
「派手じゃないのに何かすごい」と日常的に感じられるのが、ある意味一般ユースでの「所有しているよろこび」なのかもしれない。もちろん、フォトグラファーやビデオグラファーなど「現像」にこだわる人などなら、もっと差がわかりやすいはずだ。
Macに接続したところ。原稿を書くマシンは複数台を使い分けているが、今回のMacのテストは主に写真とは別のインテルMacに接続して試用している。基本的に体験自体はM1でもインテルでも変わりはない。
撮影:伊藤有
内蔵カメラの「センターフレーム」はいつでも効くわけではない
カメラの検証のために、Studio Display(手前)とほぼ同じ画角にiPhone 13 miniを設置してZoom録画でテストしてみた。
撮影:伊藤有
さっそく、あえて2016年発売の古いインテルMacでカメラの挙動を試してみた。
まず、どんなアプリでもセンターフレームが効くのかと思ったら、おもしろいことにアプリによって挙動が違った(よく考えれば理解はできる)。
Zoomアプリでは、問題なくセンターフレームで動く。座る位置を変えたり、中腰姿勢になったりすると、カメラが自動的にパンするかのように自分を追いかけてくる。iPadのセンターフレームと同じように、広角カメラの一部をトリミングして使うことで、こういう動きができる。非常に実用的だ。
Zoom以外にも、Skypeアプリでも同様にセンターフレームは使えた。
一方で、グーグルのビデオ会議ツール「Google Meet」に切り替えると、センターフレーム機能は一切働かなかった。設定項目らしきものも、OS上にはない。
Google MeetはWebアプリだから、Chromeなどブラウザーからは、今のところセンターフレームの機能にアクセスしていない、ということなのだろう。
センターフレームが使えなくても大差ないのでは……と思いそうだが、実用していると、この挙動にはちょっと不便なところがある。
センターフレームが使える場合の画角(左)と、センターフレームが動作しない場合(右)の画角。Google MeetのようなWebアプリの場合は画面の角度を変えて調整する必要がある。
撮影:伊藤有。
Webアプリに対してStudio Displayのカメラが送り出す映像は、超広角(122度)の画角全体ではなくて、「センター付近の一部」にトリミングされている。
だから、センターフレームが使えないWebアプリ(Google Meetなど)では、顎の付近が微妙に切れてしまうのだ。
画面の角度を変えれば調整はもちろんできるが、今度は画面の角度が作業しやすい角度と変わってしまう(視野角的にはまったく問題ない)。
ということで、Webアプリを使う際は、今のところはこういう挙動になるということは頭に入れておいたほうがよさそうだ。
また、ユーザーの間からは「画質」の問題も指摘されている。主にはiPadやiPhoneのような画質を期待したのに、Studio Displayだとノイズが目立つ、というような指摘だ。
試しに、Studio Displayのカメラの上に、iPhone 13 miniを貼り付けて同時に配信してみたのがこちらだ。
画質の懸念が指摘されているので自分でも試してみた。左がセンターフレームありのStudio Display、右がiPhone 13 mini。画角が違うので厳密な画質比較にはならないが、iPhone 13 miniのほうが補正の入り方は弱め。
撮影:伊藤有
見てみると、色づくりそのものが違うような印象で、左のStudio Displayのほうがシャドーを持ち上げて、明るめに補正している印象がある。
また、画質の荒れっぽい部分は微妙にはあるような気もする。iPhone 13 miniに比べると、暗い部屋でゲインを上げたときのようなノイズが少し入る。
という意味では、iPadやiPhoneレベルの画質を期待して買うと、確かに「そこまでじゃない」という印象はもちそうだ。
なお、アップルではアップルストアのスタッフの接客でも「画質は改善中」と言っていることを編集部関係者が聞いているほどなので、アップデートしようとしているとの報道は本当だろう。今後のアップデートでiPadレベルに近づくと良いのだが……。
ディスプレイ内蔵スピーカーのレベルじゃない音質
そしてスピーカーの音質は、ディスプレイ内蔵スピーカーという水準は軽く超えている。元々Macのスピーカーはノート型で平均以上の音質の良さがあるが、Studio Displayでは、さらに鳴る音域が広がったかのような自然さがある。
ネットフリックスなどの映像作品の迫力が段違いに変わるのは当然として、普通のYouTubeの作品を見ているレベルでもわかる。わかりやすいのは、YouTuberの声質が「普段より良いマイク」で録音しているかのように感じられることだった。
Windowsで使うと各種機能はどうなる?
これらの機能はWindowsでも使えるのだろうか。1世代前にあたる「Surface Pro 7」に接続してみた。
Pro 7のUSB Type-C端子はThunderbolt規格ではないので、Studio Displayのカメラ関連の挙動がどうなるのかはつないでみるまでわからなかった。
こちらも最新のInsider Preview(先行開発版)にアップデートした上で接続してみた。
各機能の状況は下記の通り。
Studio DisplayのWindowsとmacOSでの挙動の違い。どの程度体験が良いかは★で評価した。
作成:Business Insider Japan
平たく言うと、「とりあえずUSB Type-Cケーブルで接続して使えるか」と聞かれれば「使える」。表示自体は問題ないし、スピーカーも問題なく認識する。音質についても、Macで鳴らす場合と変わりはないように感じる(ただし、空間オーディオは使えない)。
ただ、「Windowsユーザーでも快適に使える」とは言えない状況だ。
2つほど問題がある。
1つめ、最大の問題は、画面の明るさなどの画質調整が一切できないことだ。
調べてみると、こうした状況は「Pro Display XDR」でも同じようだ。
具体的にどういう問題があるかというと、例えば今回のテストではMacで表示した場合はかなり明るめに輝度を上げて使っていたが、Windowsにつなぎ替えると「少し暗め」になってしまう。おそらく標準の照度がその設定なのだろう。
2つめはカメラに関係する問題だ。カメラが問題なく認識できて安心した一方で、第2関門の「センターフレームの動作」はできなかった。
Google Meetでの挙動を見て想像はしていたものの、せっかく単体処理できるA13 Bionicを内蔵しているのだから、自動でセンターフレームが動いてくれれば……という気もしてしまう。
なお、インテルMac上でWindowsを動作させるBoot Campのツールからアップル向けのドライバーをインストールすることも試してみたが、特に動作面での違いはないようだった。
やはりMac Studioを使うような人向けの高品質液晶
Windows 11で認識したところ。5120×2880ドットの(5K)の外部ディスプレイとして認識していた。ただし、Surface Pro 7に接続した限りでは、HDRディスプレイとしては認識しておらず、SDRディスプレイという扱いだった。
撮影:伊藤有
ということで、テクノロジー的には色々と面白く、またデザイン的にはさすがアップルと感じさせるだけの良さはある。
20万円でプロ向けディスプレイが買える、という点に魅力を感じる人には大いにアリ。Mac Studioや、アップル製品とのデザインの調和は当然ながら非常に良い。
ただ、「想像していたよりも、結構クセが強い」というのも事実だ。色々な意味で、普通のディスプレイとは全然違う。
カメラ機能については、Macと組み合わせた場合でもセンターフレームが機能しない場合がある(今後改善されるかもしれないが)。また、多くの機器をつないで入力を切り替えながら使うこともできない。例えば、自室にPlayStation 5やXbox Series Xがあるとして「息抜きにつないで遊んでみるか」みたいな用途には使えない。
だから、アップル製品が好きだから、と検討している人は、上記のような仕様を念頭に、アップルストアなどで触れてみることをオススメする。
さらに、どうしてもWindowsで使ってみたいという人は、ある種の覚悟が必要だ。「カメラ・スピーカーを内蔵しているが、明るさ調整ができず、外部入力が1系統だけの液晶。ただし、デザインは素晴らしい」という製品に20万円を払うかどうか。
そういう意味では、やっぱり「Mac Studioを買うような人が使うディスプレイ」ということなのかもしれない。
(文・伊藤有)