イラスト:iziz
シマオ:皆さん、こんにちは! 「佐藤優のお悩み哲学相談」のお時間がやってまいりました。今日も読者の方からいただいたお悩みについて、佐藤優さんに答えていただきます。さっそくお便りを読んでいきましょう。
佐藤さんこんにちは。100人くらいのエンターテインメント系の会社に務めている者です。私がご意見を伺ってみたいと思ったのは、中小企業なのに大企業病になってしまう現象についてです。
私がいる会社はもともと他部署や管理職、経営陣とも距離が近くて、休憩室でお弁当を食べていると、フランクに社長が声をかけてくれて、進行中のプロジェクトについて相談できるような雰囲気でした。
ですが、おそらく2年ほどのコロナの間に定着したリモートワークの影響だと思うのですが、合意形成に以前よりずっと時間がかかるような状況になってしまいました。他部署が関わるとなおさらです。小さい会社なのに、まるで大企業病です。
このような環境下でも、結果を出していくためには、どうしたらいいのでしょうか?
(UY、30代前半、会社員、女性)
問題は、100人でも1000人でも変わらない
シマオ:UYさん、お便りありがとうございます! たしかにリモートワークは便利ですけど、同僚とちょっと雑談したり、相談したり、みたいなことがやりづらくなりましたよね。
佐藤さん:情報はオフィシャルな会議だけで得られるものではありませんからね。一緒にお茶を飲んだり、ご飯を食べたりしながら出てくる周辺的な情報が意外と役に立ったりする。私もオンラインで人とやり取りをすることが増えましたが、それでも有益な情報を得られるのは、やはりこれまでに培ったリアルな人間関係によるものです。
シマオ:佐藤さんもそうなんですね。UYさんは、そうしたリモート化によって「大企業病」のようになってしまったとお悩みのようですが、どうしたらよいでしょうか?
佐藤さん:会社の規模が100人くらいとのことですが、それだけ人が集まれば立派な「社会」です。ただ、人間関係の面でいえば、100人も1000人も、抱える問題はそう変わりません。というのも、人が築ける関係にはそもそも限界があるからです。
シマオ:以前もおっしゃっていましたね。上司が部下の面倒をちゃんと見られる人数は、8人くらいまでだと。
佐藤さん:はい。人事コンサルタントの西尾太さんがそのように述べています。結局、大きな組織であっても、事業部⇨課⇨チームなどのように階層構造になっているだけで、人間関係的な根っこは同じだということです。
シマオ:では、UYさんが大企業病だと感じている問題はどこにあるのでしょう。
佐藤さん:ここからは想像になりますが、一つはリモート下でのチームメンバーの数が多すぎるのかもしれません。オフラインなら1チーム8人で問題なかったとしても、オンラインだけになると意思疎通が上手くいかなくなることは十分にあり得ます。
シマオ:全員がオフィスにいる環境なら、チーム内でも5分くらいでサッと声をかければいい訳ですもんね。単純にコミュニケーションコストが高くなったということか。そういった場合でも成果を出すには、どうしたらいいのでしょうか?
佐藤さん:もしUYさんが管理職的な立場なのであれば、チームメンバーを半分の4人くらいにしてみるとよいのではないでしょうか。サブリーダーを立てて、マネジメントするメンバーを分割するのです。
シマオ:なるほど。それなら意見を吸い上げて、リーダー同士で相談すればいいですもんね。
悩ましいのは「現場リーダー」
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佐藤さん:もう一つの可能性は、UYさんは管理職ではないけど、現場リーダー的な役割を担っていて、リモートになってそれがやりづらくなってしまったということです。
シマオ:例えば、管理職が現場の合意を取らずに、管理職同士だけで物事を進めてしまっているようなケースとかですね。
佐藤さん:その場合は、UYさんが名実ともにチームリーダーとなることが解決策です。
シマオ:具体的にはどう行動を起こせばいいのですか?
佐藤さん:自ら立候補してもいいですし、先ほどの話とも関係しますが、リモート下ということで、少し小さい単位のチーム(ユニット)を作るよう、会社に提言してもいいでしょう。
シマオ:自分がリーダーになってしまえば、他の部署とのコミュニケーションも自らの裁量で取れるようになりますもんね。でも、会社の組織を変えるのは結構大変じゃないですか。自分でメンバーを集めて私的なチームを作るほうがよくないですか?
佐藤さん:それはおすすめしません。会社というものは、組織の統制から離れて私的な集団を作ることを嫌います。サークル活動ならいいですが、ビジネスの指揮系統として作るのは避けたほうがよいでしょう。あくまで制度の中でやるべきです。
シマオ:なるほど……勝手にやっていると、会社に警戒されてしまうんですね。
佐藤さん:とはいえ、今の組織構成で仕事が上手く回っていないのだとすれば、それは経営者や管理職の責任です。反感を買わない範囲で、ちゃんと指摘して改善していくことが望ましいです。
リモート特有の「搾取」から逃れることが大切
シマオ:最近はリモートを中心にしていたIT企業でも、むしろ出社を復活させる動きが出てきていますよね。
佐藤さん:結局、最初に述べたようにリモート環境でも有益な情報を集めるにはリアルな人間関係が重要ですから。企業もそれを分かっているのだと思います。それに、出社とリモートを組み合わせるのは、労働者が自分の身を守るためにも大切なことです。
シマオ:と、言いますと……?
佐藤さん:リモートが中心になると、仕事は成果だけが見られるようになります。これは企業にとっては望ましいのですが、社員は成果を出すために働きすぎてしまうことにもつながります。
シマオ:たしかに。責任感の強い人ほど、燃え尽き症候群のリスクはありますよね。
佐藤さん:資本主義における会社、すなわち資本家は労働者から搾取するものです。その中でつぶれないようにするためにも、リアルな関係性が重要なのです。他の人がどのように働いているか意見交換をすれば、自分だけが必要以上に頑張ってしまうことを避けられます。
シマオ:他の人の「働き方」を知る上でも、出社は案外重要なんですね。
佐藤さん:コロナやウクライナ情勢で世の中は激変しています。その中で、自分に合った働き方を見つけていくことが、成果を上げるための近道です。
シマオ:状況を見ながら乗り越えていくバランス感覚が大事だということですね。UYさん、ご参考になりましたでしょうか?
「佐藤優のお悩み哲学相談」、そろそろお別れのお時間です。引き続き読者の皆さんからのお悩みを募集していますので、こちらのページからどしどしお寄せください! 私生活のお悩み、仕事のお悩み、何でも構いません。次回の相談はGW明けの5月11日(水)に公開予定です。それではまた!
佐藤優:1960年東京都生まれ。作家、元外務省主任分析官。85年、同志社大学大学院神学研究科修了。外務省に入省し、在ロシア連邦日本国大使館に勤務。その後、本省国際情報局分析第一課で、主任分析官として対ロシア外交の最前線で活躍。2002年、背任と偽計業務妨害容疑で逮捕、起訴され、09年6月有罪確定。2013年6月に執行猶予期間を満了し、刑の言い渡しが効力を失った。現在は執筆や講演、寄稿などを通して積極的な言論活動を展開している。
(構成・高田秀樹、イラスト・iziz、編集・野田翔)