米金融大手モルガン・スタンレーは歴史的高水準のインフレが続くなか、同業他社と異なる読みから、いま投資が推奨されるセクターや銘柄を具体的に提示している。
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2022年第1四半期(1〜3月)、米国株のパフォーマンスは2020年初頭以降で最悪の結果となった。このあと決算発表が始まれば、投資家たちは企業業績の厳しい実態を目の当たりにすることになるだろう。
米ウォール街のアナリストによる第1四半期の売上高予想は前年同期比4.6%増。最低でも28%、最大92%の伸びを記録した2021年の各四半期に比べて「急激な減速」だと、米金融大手モルガン・スタンレーのチーフ米国株ストラテジスト兼最高投資責任者(CIO)マイク・ウイルソンは顧客向けレポート(4月11日付)で表現している。
2022年、米企業の売上高成長率は2021年に記録した前年比49.2%増という驚くべき数字からの減速を避けられない状況だ。
2021年にみられた企業業績の急回復は、新型コロナ感染抑制のための行動制限が解除されて経済の再開が進んだことに加え、パンデミックの影響に飲み込まれた2020年に通常では考えられないほどの低迷を記録したからこその数字だった。
2022年はその逆の筋書きだ。急回復によって引き上げられた前年の高いハードルを超えねばならないだけでなく、経済成長の鈍化、40年ぶりの高インフレ、ロシア・ウクライナ戦争など、嫌になるほどのリスクが控えている。
モルガン・スタンレーのウィルソンによれば、第1四半期の業績予想は2021年半ばから大きな変化がなく、同年11月のピークに比べれば若干低い水準にある【図表1】。
【図表1】S&P500種(SPX)の1株当たり利益(EPS)コンセンサス予想の推移(2022年四半期別、2021年3月以降分)。第1四半期は21年夏以降横ばい、下半期は上昇傾向と予測されている。
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興味深いのは、2022年第1四半期に予想される企業の業績低迷は、各社が残り3四半期で積み上げる収益の伸びによって相殺されると考えているアナリストが多いことだ。この見方が本当に正しいのかどうか見きわめようと、ウィルソンは各社の2022年業績見通しを注視している。
「物価への上昇圧力が高まって消費者の購買力が低下し(とくに食料とガソリン価格が高騰)、人件費も上昇するなか、やはり普通に考えて(1Qの低迷が残り3四半期の伸びで相殺されるという)アナリスト予想の実現性は疑わしいと考えています」(ウィルソン)
エネルギーや工業、素材セクターについては力強い業績の伸びが想定される一方で、金融や一般消費財、通信サービスセクターへのエクスポージャーを取っている投資家は想定より精彩を欠く決算発表が出てくることを覚悟すべき、とウィルソンは指摘する【図表2】。
【図表2】2022年第1四半期の1株当たり利益および売上高成長率予想(前年同期比、セクター別)。
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ウィルソンによれば、第1四半期の業績見通しについて、最も大きな上方修正を発表しているのがエネルギー株とハイテク株で、逆に最も大きな下方修正を発表しているのが工業および一般消費財セクターだ。
高インフレ時に投資すべき「勝ち組」セクター
2022年第1四半期の業績予想で劇的なほどに明暗が分かれたことは、勝ち組と負け組の差がこれからさらに拡大することを意味している。
2022年第1四半期における株価パフォーマンスのばらつきは、1979年以降の全四半期を百分位数で示したとき85番目、つまり同期間(およそ45年間)の8割以上はもっとパフォーマンスが揃っていたことになる。
ウィルソンの言葉を使えば、年初来の相場は「表面に出てこない激しい動き」を反映したボラティリティ(=価格の変動性)と表現できる。それはすなわち、投資すべき正しいセクターを見抜くのが通常以上に難しいということでもある。
ウィルソンが称賛に値するのは、経済成長が2021年秋にピークを迎えて以降、顧客に対しディフェンシブな投資スタンスをくり返し推奨してきたことだ。
シクリカル銘柄(景気敏感株)を選好する投資家も多いなか、ディフェンシブセクターの銘柄を選んだ投資家はここ数カ月は結果を出してきたし、この先も当面その状況が続くとウィルソンは強調する。
「ディフェンシブ銘柄はすでに素晴らしいパフォーマンスを発揮していますが、それでもなお引き続き当社はディフェンシブ銘柄を推奨します。
おそらくそのスタンスを最もうまく表現できるのが、ディフェンシブとシクリカルのロングとショートを組み合わせたレラティブバリュー戦略で、足もとでは伸びしろがないように感じられても、まだまだ期待できると思います」
ロシアのウクライナ侵攻後、インフレは加速し、経済成長の急激な鈍化の可能性を指摘する声が一段と高まってきている。
一部の専門家が懸念するのは、物価高騰が続くなか、米連邦準備制度理事会(FRB)が利上げを急ぐことで政策ミスが起こり、景気後退とインフレが同時に進行するスタグフレーションに至る展開だ。
「FRBはインフレの一過性のものと認識しなかった上、金融政策の引き締めにも出遅れたと言うのが妥当なところです。実際、パウエルFRB議長もそのことを認めています」
ただ、ウィルソンは歴史的な高水準で推移するインフレもすでに「変化率の観点から見てピークを打った」と楽観的な見方を示している。
4月12日に発表された2022年3月の米消費者物価指数(CPI)は前年同月比8.5%上昇と引き続き高い伸び率を記録したものの、変動率の大きい食品とエネルギーを除くコアCPIの前月比上昇率は鈍化。アナリスト予想も下回って、ピークアウトの期待感が高まっている。
インフレピーク前の投資術
さて、そうした高インフレのピークが見えてきた市場環境においては、「生活必需品」「ヘルスケア」「ユーティリティ(公共事業)」「不動産投資信託(REIT)」の4セクターが高いパフォーマンスを発揮する【図表3】。
【図表3】インフレ時のセクター別株価パフォーマンス(2000年1月から2022年2月)。ピークに達する状況、つまり「トレンドを上回るものの下落に向かう時期」(太枠内)は、生活必需品など4セクター(緑の背景)が好調。
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前者の3セクターはディフェンシブ、つまりモノやサービスの需要が景気に左右されないので、市場環境がどのように変化してもパフォーマンスを維持する傾向がある。
一方、最後のREITセクターは、インフレ率の低下につれてパフォーマンスが上昇していく傾向がある。
上記4セクターへのエクスポージャー(=特定のリスクにさらす資産の割合)を増やす狙いで、モルガン・スタンレーは買い推奨の「フレッシュマネー・バイリスト」をアップデート。生活必需品、ヘルスケア、ユーティリティ、REITセクターから7銘柄を追加した。
ウィルソンは、7銘柄でポートフォリオを構成すべきとの見方ではないと前置きしつつ、フレッシュマネー・バイリストが年初来、S&P500種のパフォーマンスを6%上回って推移していることを明らかにしている。
バイリストに追加された7銘柄は以下の通り。
- センターポイントエナジー(CenterPoint Energy)……ユーティリティ
- コカコーラ(Coca-Cola)……生活必需品
- ヒューマナ(Humana)……ヘルスケア
- モンデリーズ・インターナショナル(Mondelez International)……生活必需品
- SBAコミュニケーションズ(SBA Communications)……不動産
- サイモン・プロパティ・グループ(Simon Property Group)……不動産
- ウェルタワー(Welltower)……不動産
なお、7銘柄に対するモルガン・スタンレーの投資判断は、ヒューマナ(Humana)のみ「イコールウェイト(中立)」、それ以外の6銘柄はすべて「オーバーウェイト(強気)」となっている。
(翻訳・編集:川村力)