採用の現場ではAI面接がトレンドになっている。
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求人に応募したとき、たいていの人は生身の人間との面接を想定するだろう。ところが最近、選考プロセスはまずAI面接からというケースが増えている。
人事系コンサルティング会社マーサー(Mercer)が行った大規模な分析によると、2019年時点では対象企業の半数近くが候補者へのリーチや選考にAIを使っていた。
それにも増して、ここ2年でAI技術が頻繁に使われるようになったのが動画面接だ、とサセックス大学ビジネススクールの研究者、ディミトラ・ペトラカキ(Dimitra Petrakaki)は言う。
「コロナ禍によって、こうした技術やAIのアルゴリズムが面接で使われるケースが増えてしまいました」
ただし求職者の多くは、こうした技術がどのように機能するのかを理解していない。
そこで本稿では、AI技術が候補者をどう評価しているのか、求職者はどんな備えをすればいいのかについて、サセックス大学ビジネススクールの研究者や、AI面接プラットフォームの最大手ハイアービュー(HireVue)に話を聞いた。
進化するデータをベースに候補者を評価
大手のAI評価ツールでは、オンライン面接のような環境で事前に設定した質問に答える形で、動画を制限時間内で録画するよう候補者に依頼が行く。
「送信」をクリックすると、ある種のAIがその動画をレビューする。応募者を評価するアルゴリズムを使って、表情や声のトーンなど候補者の非言語シグナルおよび回答内容を点数化するのだ。
ハイアービューのチーフ・データ・サイエンティスト、リンジー・ズローガ(Lindsey Zuloaga)によると、ハイアービューのアルゴリズムは自然言語処理と、候補者をポジションに割り当てるための能力マッチングを行う。
同社のプログラムは、面接の質問に答えた数万の候補者を対象に人間の評価者が高・中・低で評価したデータをもとに動くのだという。このデータを教師データにして、人間の面接官が候補者の回答をどう評価するかを予測するようアルゴリズムを学習させるのだ。
AIは、適応能力など候補者のソフトスキルの強さを評価することを目的にしている。ハイアービューは、AIが使われていることを候補者に必ず通知しているものの、どのように評価されるのかを回答前に知ることは通常できない。
前もって録画練習ができ、撮り直しもできるというメリットを最大限に活用することが一番の準備方法だとズローガは言う。
知ることが力になる
サセックス大学ビジネススクールのペトラカキ、ザヒラ・ジェイサー(Zahira Jaser)のチームが2021年に行った研究では、AI技術でどのように評価されるのかを知っている候補者はほとんどいなかった。
この研究では若い求職者に対する定性インタビューも行われたが、このAI技術は選考を通過する人が増えるにつれて変化する類のものなので、アルゴリズムが何を見て評価しているのかをつかむことは難しいとジェイサーは言う。
「どんなデータが評価対象となっているのか分からず、とてもストレスを感じるプロセスです」とペトラカキは話す。ジェイサーも、「AI技術がどう使われているのかを私たちが理解する前に技術が進化してしまうという一例」だと指摘する。
単に面接を簡素化するためなのか、もしくは選考プロセスにおける決定に関わっているのか。選考プロセスにおいてAIがどんな役割を担うのかを候補者は企業側に確認したほうがいい、とペトラカキは言う。「会社によって使い方が違いますから」
また、どんなデータが収集・処理されているのかを採用プラットフォーム側にも尋ね、事後にフィードバックを受けるべきだともアドバイスする。
議論を呼ぶAI採用ツール
AI採用ツールを使えば偏見がなくなり公平な面接を大量にこなせる、と言われているが、議論を呼んでいる面もある。
例えばハーバード・ビジネススクールのレポートによれば、本来は検討されて然るべきなのに人間の目に触れることなくPCのごみ箱に自動的に仕分けられてしまった履歴書の数は、2021年で約2700万人分にのぼるという。最も多くフィルタリングされたのは、誰かの面倒を見ているケアギバーや移民だったという。
「テクノロジーを使えば事実やエビデンスに基づいた意思決定がなされるから偏見はなくなるだろうと思われがちですが、実はこういった技術を設計する人たちの考え方や思い込みがすでに取り込まれているのです」とペトラカキは指摘する。
これに対してハイアービューは、偏見のリスクにはテスト段階で対処していると言う。
「偏見のリスクについては、すべてのモデルをテストすることで特定の集団に不利に働いていないかを確認しています。特定の集団に固有の行動は削除することができます」とズローガは言う。
2020年3月、ハイアービューは自然言語処理が進化したため顔分析が不要になったとして、顔認識技術を削除した。また、声のトーンなど候補者の回答以外の要素については段階的になくしていく予定だという。
「非言語的行動はアルゴリズムにあまり使われていない情報であることが分かりました。むしろ、アルゴリズムをよく分かっていない候補者や不安な候補者の心配の種になっていることが多かったのです」とズローガは話す。
この技術もまだ進化の途上であり、候補者目線ではまだまだ改善の余地がある。
さらに、「誰がそのデータを見るのか、どんなデータが収集されてどう処理されるのかということについて、もっと情報が公開されるべき」とサセックス大学のペトラカキは言う。
求職者にとっても、採用プロセスではどのように評価がなされ、AIはどんな役割を担うのか積極的に知ろうとすることでAI面接に備えることができる。これが、厳しい就職戦線を勝ち抜く第一歩になるかもしれない。
(翻訳・田原真梨子、編集・常盤亜由子)