Rebecca Zisser/Insider
ブロックチェーン技術を利用したインターネット「Web3」の推進者たちは言う。中央集権的な大規模プラットフォームが支配したWeb2.0とは異なり、Web3の最大の特徴は「自由」と「分散化」にある、と。
だがこれまでのところ、最大の推進者が掲げたその“大いなる約束”は果たされていない。サイバー・リバタリアンたちが思い描くユートピアは、なぜ一向に到来しないのだろうか(前編からつづく)。
Web3とは何か?
Web3の構想は、ブロックチェーン・プラットフォームのイーサリアムの共同創業者ギャビン・ウッド(Gavin Wood)が2014年にまとめたものだ。
ウッドはWeb3をインターネットの進化形と位置づけ、「すべてのやりとりが、仮名を用いて安全に行われ、多くのサービスが信頼を要せず行われるようになる」と説明した。ウッドにとって、他人や権威に信頼を置くという概念は、「実はあらゆる点において悪いこと」なのだ。
ウッドは、人間の仲介者を必要としない「スマート」な契約が私たちのやりとりを管理し、コミュニケーションや金融取引を含むオンライン上のあらゆる行動が、誰でも見られる分散台帳(巨大な公開スプレッドシートのようなもの)に登録される社会を望んでいるという。
しかしそうなると、もしあなたが後悔するようなことを投稿したり、誰かがあなたの個人情報を投稿したりしたら大変だ。一度追加されたブロックは削除することができないからだ。
Web3の支持者たちは、その信頼性を高めるために、Web3が以前のインターネットが繰り返してきたユートピア的な約束を最終的に果たすと主張している。
例えば、アンドリーセン・ホロウィッツのゼネラルパートナーであるクリス・ディクソン(Chris Dixon)は、Web3は「Web1の分散型、コミュニティ統治型の倫理観と、Web2の先進的でモダンな機能性を兼ね備えている」と述べている。
つまり、使いやすさ、コミュニティへのアクセス、創造的な可能性といった大規模プラットフォームが持つすべてのメリットを享受しつつ、個人データを売ったり、大企業が高い手数料を取ったり、政府の規制であなたの行動が妨げられたりといったデメリットとは無縁でいられるというのだ。
ディクソンは、クリエイター、開発者、アーティストに力を与えるために、ゲートキーパーを追い出すという昔からの約束を繰り返す。しかし、伝統的な音楽レーベルに挑んだスポティファイやアップルや、書籍出版社に挑んだアマゾンとは異なり、Web3の伝道者たちはかつての「破壊者」である支配的なIT企業に挑むことを約束している。
初期のインターネットにおける「分散型」の崇拝は、Web3においても核心なのだが、両者には根本的な違いがある。
バーロウは、「財産という法的概念」はインターネットへの移行の中では存在し続けることはなく、物理的な世界に留まるものと考えていた。つまり、ウェブ上のものは誰の所有物でもないということだ。実際、初期のインターネットは、著作権や知的財産を嫌い、情報の自由な共有を特徴としたが、これを海賊行為と考える人もいた。
しかし、それはWeb3の背後にいる資本家が珍重する特質ではない。むしろ、ディクソンが説明するように、Web3のユーザーは「トークンを所有することでインターネットサービスの一部を所有することができ、そのトークンはユーザーに財産権を与える」のだ。
ユーザーが何も所有しない代わりに、Web3においては、インターネットのあらゆる小さな部分を売買できるようにするはずだ。しかし、ウェブの「トークン化」は懐疑的な見方を呼び起こすはずだ。歴史が示すように、商業的な圧力は解放的な主張の邪魔をするのが常だ。
構築されつつある未来の真の姿
Web3はピアツーピアのブロックチェーンで構築されているため分散型とされているが、ブロックチェーン上の取引を促進するプロセス(マイニングと呼ばれる)は高度に集中化されている。取引を完了させたり、チェーンに新しいブロックを追加したりするためには、コンピュータが複雑な数学の問題を解かなければならない。
全米経済研究所(National Bureau of Economic Research)の2021年の調査によると、ビットコインの場合、わずか約50人(総数の0.1%)のマイナー(採掘者)がマイニング能力の半分を支配している。イーサリアムに関して言えば、2020年にはわずか2つのマイニングプールが計算能力の半分以上を支配していたという。
これは重要なことで、あるマイニング・グループが協調して50%以上の力を支配すると、新しいブロックの追加プロセスを妨害し、他のマイナーのブロック完成を阻止し、そのチェーン上の取引に対して事実上やりたい放題になる。
その上、新しいWeb3スタートアップへの興奮とは裏腹に、仮想通貨取引所のバイナンス(Binance)、NFTマーケットプレイスのオープンシー(OpenSea)、あるいはインフューラ(Infura)やアルケミー(Alchemy)といったサービスなど、ニッチかつ有力な企業を中心にこの分野は急速に統合されつつある。こうした動きはおそらく今後も続くだろう。
シグナル(Signal)元CEOのモクシー・マーリンスパイク(Moxie Marlinspike)がWeb3の評価について詳述しているように、一元化はサービスをより便利にし、参入への技術的障壁を下げる傾向がある。FacebookやGoogleなどが、そうすることで過去20年間のインターネットユーザーの流入を獲得したように。
大半の人はシステムの技術的な詳細を理解できない(あるいはしたくない)ので、企業の側には、新規ユーザーが複雑なツールにアクセスしやすくすることで自社サイトに誘導しようというインセンティブが働く。これぞまさに、この領域に関与するVCの目標だ。
ビットコインの電力集約的なマイニングと取引の難しさは、大規模なプラットフォームがWeb2.0を支配したのと同様に、中央集権的な企業が台頭しWeb3を支配することを意味する。
Paul Ratje/For The Washington Post via Getty Images
ビットコインの電力集約的なマイニングと取引の難しさは、大規模なプラットフォームがWeb2.0を支配したのと同様に、中央集権的な企業が台頭しWeb3を支配することを意味する。Paul Ratje/For The Washington Post via Getty Images
ピアツーピアや分散型ウェブ技術に何十年も取り組んできたデイビッド・ローゼンタール(David Rosenthal)は、Web3を支えるブロックチェーンは主にマイニングにコストがかかるように設計されており、マイナー(採掘者)が規模にものを言わせて効率を上げて利益を増やすため、統合を促すことになると主張する。
Web3企業とそれを支援するVCは、従来の金融システムと連携し、暗号ベースのプラットフォームが重要な仲介者となるように規制を策定しようとしている。ソフトウェア開発者のモリー・ホワイト(Molly White)によれば、そうなると金融規制を遵守し、ユーザーが確実にキャッシュアウトできるようにすることで中央集権化に向かうインセンティブが強まるという。
中央集権化に向かうインセンティブが強まるということは、Web3が現在のインターネットとよく似た姿になる可能性が高くなることを意味する。単に巨大企業のプレイヤーの顔ぶれが変わるというだけの話だ。
そこで、Web3のエコシステムの最大の問題点の1つが浮かび上がってくる。それは、仮想通貨に深く依存していることだ。仮想通貨は通貨というより、投機的な金融資産に近い。
ビル・ゲイツは仮想通貨を「生粋の『大馬鹿理論』的投資」とまで言っている。なぜなら、仮想通貨は何の価値も生まず、多くの人を呼び込むことで価値を高めることに完全に依存しているからだ。その点で、プログラマーのステファン・ディール(Stephen Diehl)は、仮想通貨がねずみ講やマルチ商法に似ていると主張している。
そう考えると、仮想通貨に夢中になっている人たちが、あなたにも仮想通貨取引に参加するよう熱心に口説いて回る理由が分かる。この分野では、NFTの価値を人為的に高めるウォッシュトレード(仮装売買)や、コインやNFTの価値を高めてからクリエイターが他者に売却して利益を上げる価格操作などの慣行などが問題となっている。
一般人がカモにされる一方で、この状態は業界の有力プレイヤーにとっては好都合だ。ゲイツが指摘したように、暗号は価値を生み出さない。カジノのようにシステムに入ったお金を再分配するだけだ。取引所のようなプレイヤーが、顧客の取引を前倒しで行い、その過程で自分たちも利益を得るという、いわばネガティブサムの投資だ。だから、早めに買うか、もともと資金がたくさんある人でもないかぎり、毎回負けるのがオチだ。
ディールは、仮想通貨の真のイノベーションは証券規制を回避することであり、投資家やVCはIPO(新規株式公開)を待たずに売却できることを意味すると主張する。
トークンを持っていればいつでも売ることができ、有力者は一般公開前に新しいコインやNFTコレクションの「割引プレセール」に参加するのが一般的だ。しかしその結果、投機マニアによって経済に構造的な弱点が生み出される。それこそが、アメリカだけでなく世界中で仮想通貨の規制や全面禁止に関する議論がエスカレートしている理由につながっている。
刺激的な宣伝を鵜呑みにするな
以前のバージョンのウェブが失敗した後、Web3の支持者たちは、これがインターネットを真に解放させるのだと人々に信じさせようとしている。
しかし、そうなるはずがない。自由と分散化という崇高な目標と、業界セグメントを独占できる企業を作るためにWeb3に群がるVCの利益との間には、根本的な矛盾があるからだ。
この分野は詐欺も多く、2021年は140億ドル(約1兆7360億円)の仮想通貨が被害に遭っている。また、暗号取引はギャンブルとの類似性が認識されつつあり、多くのユーザーが大金を失うことになる新種の依存症が発生している。この膨張を続ける仮想通貨のねずみ講がいずれ崩壊すれば、それに巻き込まれたコミュニティに深刻な影響が及ぶことは言うまでもない。
派手な約束に騙されるのではなく、現在構築されているものを批判的に見る必要がある。金融化の横行、デジタル製品に所有権を拡張することによる人為的な希少性の創出、多くの国で停電を引き起こす膨大なエネルギー需要……Web3企業がつくろうとしている未来は本当に彼らのレトリックと一致しているか、自問する必要がある。
仮にそうでないことが分かったら、代わりにどんな未来をつくるべきか、そこから考えるまでだ。
(翻訳・住本時久、編集・常盤亜由子)