アメリカなどの先進国では、温暖化ガスの排出量削減に向けたライフスタイルにするためにできる簡単なことがある。
Elaine Thompson/AP
- 国連は新たな報告書で、温室効果ガスの排出を抜本的かつ即座に削減するよう訴えている。
- その削減について、個人ができることは、自転車通勤をしたり、食品の無駄遣いを減らしたりすることなどだ。
- 一方、都市計画者やビジネスリーダーなどのように、政策を作り、影響力を持つ人は、より大きな変化をもたらすことができる。
2022年4月4日に発表された国連の報告書で、温室効果ガスの排出を削減するために、直ちに思い切った行動をとるよう多数の科学者が呼びかけた。
「パリ協定」で設定された当初の目標、すなわち地球温暖化を産業革命以前の気温から摂氏1.5度の上昇に抑えるという目標は、今のままでは到底達成できそうにない。国連の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」が発表した今回の報告書では、温暖化を1.5度に抑えるための最後のチャンスとなるロードマップを描いている。
IPCCは、二酸化炭素やメタンといった温室効果ガスの排出量をできるだけ早く、遅くとも2025年には減少に転じさせたうえで、2030年には現在の半分に、そして2050年にはゼロにしなければならないと警告している。これは、人間生活のあらゆる分野で、抜本的な変化が必要であることを意味している。特に、石炭や石油などの化石燃料から、太陽光や風力などの再生可能エネルギーへの転換を急ぐ必要がある。
排出量削減をめぐっては、「私には何ができるのだろうか」、「自分のライフスタイルをより持続可能なものにするにはどうしたらいいのだろうか」ということがよく話題になる。
実際には、IPCCのロードマップの中で個人が日々の行動を変えることが関わってくるのは、ごく一部に過ぎない。食生活、フードロス、交通手段の選択などに関して、発展途上国の人々のライフスタイルを一斉に変えることができれば、効果が期待できるかもしれない。しかし、人間の行動を大きく変えるには、政策と優れたビジネスの実践が必要だと報告書は強調している。
「ライフスタイルの選択と行動は確かに重要だ」と、International Institute for Applied Systems Analysisのエネルギー・気候研究者で、IPCCの報告書の主執筆者であるエドワード・バイヤーズ(Edward Byers)は述べている。
消費者は、明日にでも燃費の悪いガソリン車を電気自動車に替えることができると彼は付け加えた。だが、その電気自動車に使われる電力が太陽光発電によるものなのか、石炭火力発電によるものなのか、消費者は選べないだろう。
「インフルエンサー」が排出量削減に関わる日々の決断を下している
アメリカなどの先進国では、温暖化ガスの排出量削減に向けたライフスタイルにするためにできる簡単なことがある。例えば、都市部の人々が自動車を捨てて、自転車や徒歩、公共交通機関で移動するようになれば、大きな違いが生まれるだろう。
しかしそのためには、プランナーやデベロッパーが、オフィス街に隣接した住宅地の開発や、自転車にも安全な道路の設計、アクセスしやすく安価な公共交通機関の計画等を行い、都市をより歩きやすいものにしなくてはならない。そのため、IPCC報告書の主執筆者で世界自然保護基金の気候科学者であるステファニー・ロー(Stephanie Roe)は、個々の行動を「インフルエンサー」という観点から考えている。インフルエンサーは、専門家として重大な選択をする力を持っている。例えば、交通システムを計画したり、レストランで余った食材をどうするのかを決めたりといった選択をすることで、排出量を大幅に削減し、他の人々の行動に影響を与えるような連鎖的な効果をもたらす可能性があるのだ。
「多くの場合、このような変化をもたらすには、連邦政府や州政府のトップダウンによる決定が必要であると思いがちだ。しかし実際には、これらの分野に属する個人の行動が、大きな変化をもたらすことが多い」とローは言う。
「例えば住宅の建築現場で、デベロッパーや建設業者はボイラーよりもヒートポンプを、あるいはガスコンロよりもIHコンロを選ぶことができる」と彼女は付け加えた。「このような選択は、必ずしも政策によって促進・奨励されているわけではなく、個人単位で行われている」
分解されると強力なメタンガスを放出する廃棄食品は、その解決策が消費者個人に大きく委ねられる可能性がある問題の1つだ。IPCCの報告書によると、2019年には世界の食品廃棄物の61%が家庭から出ていた。
それでも、報告書が推奨しているのは、家庭の食品廃棄削減を啓発するキャンペーンの展開、政策による賞味期限ラベルの明確化、保存期間を延ばすための包装材の改善などだ。
「脱炭素化に対する責任の多くは、大企業や産業界、そして政府が正しいインセンティブと規制の枠組みを確立することにある」と、バイヤーズは言う。
「一般市民が日々の暮らしの中でできることはたくさんある。それを実践するには、中央集権的で統合的な行動と、政治的な意志必が要なのだ」
(追記)BBCによると、IPCCの報告書の著者を含む科学者たちは、世界が2025年までなら排出量を増やしても、温暖化を1.5度に抑えられるという考えに異議を唱えている。報告書が2025年までとしているのは、気候モデルが5年単位で動いていることと、2020年という基準がすでに過ぎているためだという。現実には、排出量は直ちに減少に向かわせなればならないと科学者たちは述べている。
[原文:Changing your personal lifestyle is just a small part of fixing the climate crisis]
(翻訳:仲田文子、編集:Toshihiko Inoue)