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今回は、読者の方からのご相談にお答えします。法人営業職として業績を挙げられずに悩んでいる方です。
これまで「担当者」を相手に営業をしてこられたのであれば、どちらかというと「目の前の課題解決」だったのかもしれませんね。経営者を相手にするなら、「根本的・本質的な課題解決」を目指すことをお勧めします。
お客様自身が認識していない課題に気づいてあげて、その解決策を提供する。
それができれば確実に信頼を獲得できます。自ら顧客開拓をしなくても、「紹介」がどんどん来るようになります。
私がどのような意識と行動によって顧客との関係を築き、成果を挙げてきたのか、具体的な方法をお伝えしますね。
お客様の「現在・過去・未来」を知る
Aさんは見込み客にアポイントが取れた時、どんな準備をしているでしょうか。自社製品のプレゼン資料を揃えるのはもちろんですが、会社のホームページでざっと事業内容を確認するだけにとどまってはいないでしょうか。
そこから社長との対話を開始するのでは、短い商談時間内で「根本的・本質的な課題」の発見までは至りにくいと思います。訪問前から相手について調べられるかぎりのことを調べておきましょう。
ホームページでは、事業内容・サービス内容のページだけでなく、「IRページ」「採用ページ」などまで目を通してください。特に「新卒採用ページ」では、事業のこと、組織のこと、会社が目指すビジョンなどが分かりやすく、丁寧に紹介されていたりします。社員インタビューなどからは、会社のカルチャーなどもつかめます。
会社や経営者のSNS・ブログ・noteなどでの発信にもぜひ目を通してください。ホームページを見るだけでは分からない、その人の考え方や価値観が表れています。
また、会社の口コミサイトなどではその会社が抱える課題が垣間見えることもあります(投稿者の主観が強すぎることもあるので、鵜呑みにしてはいけませんが……)。
これらの情報に目を通せば、相手企業の「現在」「未来(将来ビジョン)」をつかめます。
加えて、私が重視してきたのは、その会社の「過去」を知ることです。
創業時の想い、創業から現在に至るまでの事業・サービスの変遷、ターニングポイントなどです。それらには、その会社の価値観、大切にしていること、判断基準などが表れています。
これをつかんでおくと、課題がより見えやすくなります。
過去の情報は社長ブログやインタビュー記事などで入手できることもありますし、訪問時に直接お聴きします。
私はリクルート時代、「求人依頼を獲得する」ための営業をしていました。人材サービス業の営業職は、通常、顧客先を訪問すると真っ先に「どんな人材が必要ですか?」というヒアリングに入る人も多いようです。
私の場合は、「なぜこの会社を立ち上げたのですか?」など、創業の想いを尋ねるところから始まり、これまでの変遷、ターニングポイントでどんな決断をされたのかなどをお聴きしました。
「こんなことを聞いてくる営業は初めてだ」と驚かれることもよくありましたが、経営者にとって自社に興味を持ってもらえるのはうれしいことであり、快く話してくださいました。
なお、初対面でいきなり「なぜこの会社を立ち上げたのですか?」という質問は投げかけにくいですよね。
私の場合、社長と対面する前に会社の周辺や社内を観察しておき、「なぜこの場所にオフィスを構えたのですか」「会議室それぞれに国名をつけてあるのはなぜですか」「あの絵は社長のご趣味ですか」などと質問します。
それに対する答えからは、その方の価値観をつかめることもありますし、過去のエピソードが出てくることもあります。そうした「思い」「こだわり」を語っていただくところから始めることで、会社への思いや課題も引き出しやすくなるのです。
こうして「現在・過去・未来」を把握し、そのどこかにギャップが生じていれば、そこに本質的な課題を見出せるものです。
さまざまな視点から「課題」を探る
営業の役割とは、顧客の「課題解決」です。
でも、自社商品・サービスありきで話を始め、「この商品は、こんなすごい機能があります。こんな強みがあります」というプレゼンをするのは、運良くはまれば受注につながりますが、顧客がその商品やサービスを購入・導入することへの「納得感」という「信頼」を得るまでには至りにくいと思います。
まず、お客様がどんなことで困っているのか、どんな課題を抱えているか、どんなことができたら課題解決できるのかを聞いたうえで、その課題を解決できるのが自社商品であると確信したら、活用法とともに案内する——本来はその順番であるべきです。
しかし、「課題は何ですか?」と聞いても、相手自身が課題の本質に気づいていないこともあります。事象としての問題点はあるけれど、そうなってしまっている原因をつかめていないのです。
そこで私は、忙しい経営陣に代わって、自ら「現場」に入ることをしてきました。
事業部門の部長・課長・メンバーそれぞれの立場の方にヒアリングさせてもらったり、アンケート調査をさせてもらったり。そうして、社内のいろいろな人の視点や考えを知ることで、課題の本質がつかめてくるのです。
流通業のお客様が新店をオープンする際には、自分の身分を伏せて「1日アルバイト」をさせてもらったこともあります。
お店で働きながら、店長・従業員・来店客の様子を観察することで、オペレーションの仕組みやマネジメント姿勢、さらには人間関係上の問題点を発見。どんな人材ニーズがあるのか、どんな人がいれば解決できそうなのか、をフィードバック・提案しました。
「社外」の人間だからこそ気づける課題は多いはずです。それを伝えることで喜ばれ、信頼獲得につながります。
課題解決法を「自社商品」以外でも提供する
課題をつかみ、それを自社商品で解決できるのであれば、提案~受注につながるでしょう。
その後は、「売ったら終わり」ではなく、効果が出るまでのプロセスに伴走します。
商品・サービスが適切に機能しているかどうかを検証し、効果が挙がらなければ活用法を見直すなどしてPDCAを回す。
そのプロセスは別部署が担当することもあるでしょうが、自身が手がけられるならしっかりと伴走してください。
また、お客様の課題には、「それは自社商品で解決することができない」というものもあります。
私の場合は「人材紹介」のサービスを扱っていましたが、例えば「評価制度を見直す必要がある」「教育・研修を強化したほうがいい」と思っても、自社では解決できませんでした。
そこで、人事コンサルティング会社や教育サービス会社とつながりを持っておき、必要に応じてご紹介しました。
こうして「森本さんに相談したら課題が解決できた」となると、社長たちは経営者交流会や会食、時にはゴルフなどしながらの会話の中で社長仲間に伝えてくださいました。そこから「ぜひ森本さんを紹介してほしい」となり、どんどん「紹介」につながっていったのです。
今も、私が運営する株式会社morichでは営業担当者を置いていません。「お客様を紹介したい」という連絡が毎日多数寄せられるので、自身で開拓する必要がないのです。
私はさまざまな経営課題別に、それを解決できる仲間を増やし、「悩みを抱える企業」と「悩みを解決できる企業」をつなぐ役割を担っています。
ですから現在は「転職エージェント」にとどまらず、「オールラウンダーエージェント」を名乗るようになりました。
私が大切にしているのは、「Win-Win-Win」です。
私の出身地である滋賀県には、近江商人の「三方良し」という商売理念が根づいています。
「三方良し」とは「売り手良し」「買い手良し」「世間良し」。私は中小企業の経営者だった父からこの理念を教わりました。
自分の営業成績さえ上がればいいという考えではなく、お客様にも、そして結果的には世間(社会)にも利益をもたらすことを目指す。
私の場合は、自分を介して転職した人が活躍することによって企業が成長し、その企業が生み出す商品によって社会に幸せがもたらされる世界を目指しています。
営業職は「三方良し」を強く意識して活動することで、必ず成果が挙がる仕事だと思います。
※転職やキャリアに関して、森本さんに相談してみたいことはありませんか? 疑問に思っていることや悩んでいることなど、ぜひこちらのアンケートからあなたの声をお聞かせください。ご記入いただいた回答は、今後の記事作りに活用させていただく場合があります。
※本連載の第76回は、5月2日(月)を予定しています。
(構成・青木典子、撮影・鈴木愛子、編集・常盤亜由子)
森本千賀子:獨協大学外国語学部卒業後、リクルート人材センター(現リクルートキャリア)入社。転職エージェントとして幅広い企業に対し人材戦略コンサルティング、採用支援サポートを手がけ実績多数。リクルート在籍時に、個人事業主としてまた2017年3月には株式会社morichを設立し複業を実践。現在も、NPOの理事や社外取締役、顧問など10数枚の名刺を持ちながらパラレルキャリアを体現。2012年NHK「プロフェッショナル〜仕事の流儀〜」に出演。『成功する転職』『無敵の転職』など著書多数。2男の母の顔も持つ。