パナソニック草津拠点に設置された実証施設「H2 KIBOU FIELD」。一面に敷き詰められた太陽光パネルの奥には、大量の燃料電池が設置されている。
撮影:三ツ村崇志
パナソニックが太陽光発電と水素を燃料に発電する「燃料電池」を組み合わせた自家発電システムによって、自社工場で消費するエネルギーを100%再生可能エネルギーで賄う実証施設「H2 KIBOU FIELD」の稼働を開始した。4月14日に、報道陣向けに施設が公開された。
この取組は、企業が自らの事業に使用する電力を100%再生可能エネルギーで賄うことを目指す国際的なイニシアチブである「RE100」への対応を意識したものだ。
RE100には、海外では、アップルやグーグル、メタ、マイクロソフトなどのビッグテックを始め、4月18日の段階で世界で361社(日本企業は68社)が加入しており、すでに電力の100%を再生可能エネルギーで賄うことを達成している企業もある。
パナソニックによると、水素を活用したRE100化に向けた取り組みは、今回のケースが世界初となるという。
太陽光発電、燃料電池、リチウムイオンの三位一体で工場の電力をカバー
太陽光発電、燃料電池、リチウムイオン電池を組み合わせたシステムで工場の電力を賄うイメージ。
撮影:三ツ村崇志
今回の実証では、滋賀県草津市内にあるパナソニックの燃料電池工場の電力すべてを、太陽光発電、燃料電池、リチウムイオン電池を組み合わせたシステムで自給自足することを目指す。
パナソニックは2022年1月、新たな環境コンセプトとなる「Panasonic GREEN IMPACT」を発表している。そこでは、自社で消費するエネルギーを削減するほか、消費者にパナソニック製品を利用してもらうことを通じて「2050年までに世界のCO2排出量を約1%(3億トン)削減する」と目標を掲げていた。
パナソニックの燃料電池事業総括の加藤正雄氏。
撮影:三ツ村崇志
パナソニックの燃料電池事業総括の加藤正雄氏は、「今回の取り組みはPanasonic GREEN IMPACTの具体的なアクションの一つ」だと、この実証試験の位置付けを語った。
草津拠点の敷地内には、約570kW分の太陽光パネルと1台5kWの燃料電池が99台設置されている(合計495kW分)。余剰電力を蓄えるリチウムイオン電池の容量は約1.1MWh。
この三位一体のシステムを使って、工場で消費する電力(ピーク電力:約690kW、年間電力量:約2.7GWh)を100%賄う想定だ。
太陽光発電は天候によって出力が変動してしまうため、それだけでは工場で必要とされる電力を100%賄い続けることは難しい。
加藤氏は、
「そこで必要になるのが水素です。晴れの日はほとんど太陽光で賄えますが、雨の日などは『純水素型燃料電池』で電力を賄います」
と、可能な限り外部(電力系統)から電力供給を受けずに、この発電設備だけで運用を進めていきたいとしている。
水素の直接利用でサプラチェーンを活性化
パナソニックの純水素型燃料電池。
撮影:三ツ村崇志
今回の実証では、5kWの燃料電池を99台組み合わせた、巨大な燃料電池システムを採用している。
パナソニックが家庭向けに販売している従来の燃料電池システムである「エネファーム」では、装置内部で天然ガスを分解して水素を取り出し、それを燃料にして発電する。一方、今回の実証試験では、業務用として2021年に販売を開始した「純水素型燃料電池」を利用する。純水素型燃料電池は、その名の通り水素を直接利用するタイプの燃料電池だ。
実証で使用される水素は岩谷産業から供給を受ける。施設内に設置された水素タンクには約7.8万リットルの液体水素が貯蔵可能で、1週間から10日に一度補充される。パナソニックによると、年間の水素消費量(推定)は約120トンだという。なお、今回の実証のために岩谷産業から供給される水素は、化石資源から製造されたグレー水素※だ。
※グレー水素とは:石炭や天然ガスなどの化石燃料から製造された水素。水素の燃焼反応では二酸化炭素が排出されないが、水素を製造する工程で二酸化炭素が排出されている。これに対して、再生可能エネルギー利用して作られた水素をグリーン水素と言う。
施設内には、燃料電池の燃料となる水素を蓄積するタンクがある(写真左)。水素タンクには、1週間から10日程度に1度、水素を補充するという。
撮影:三ツ村崇志
加藤氏は
「当然、将来的にはグリーン水素が必要になると思っています。ただ、これから先は、サプライチェーンが一体化して進めていくことが必要です。そのために、パナソニックは『水素を使う』というところで実証を進めていくわけです」
と、水素産業が過渡期にある現状で実証を進めてく上での難しさを語った。
水素を消費する産業が生まれれば、その分グリーン水素の生産を担う事業者などのサプラチェーンの構築も活性化していくはずだ。
課題はコスト。サプラチェーン活性化で価格を下げられるか
施設の運用では、太陽光発電による出力とのバランスを見ながら、99台中必要な台数分だけ燃料電池を稼働させる方針だ。一つの燃料電池に負荷がかかりすぎないように、システムで稼働時間を平準化する。仮に一部の燃料電池のメンテナンスや交換が必要になったとしても、メンテナンスが必要な燃料電池を止めるだけで、全体の運用には支障が出ない設計となっている。
今回の実証の前段として、小規模なスケールでの試験は実施してきたという。それが、この規模感になった際にシステムをうまく運用できるのか、実際にどの程度、系統の電力に頼らずに運用ができるのかを1年かけて実証していくことになる。
現状ではパナソニックの草津拠点以外の工場に同システムを導入する具体的な計画はないとしているが、実証がうまく進めば、将来的にパナソニックのほかの拠点への導入もありうるとする。また、2023年度からは、対外的に販売も開始していく方針だ。すでに日本国内はもちろん、ヨーロッパや中国などから声がかかっている状況だという。
施設内には、燃料電池が99台並ぶ。
撮影:三ツ村崇志
課題となるのはコストだ。
加藤氏は、「(システムの)販売価格は一桁億円規模に抑えたい」と話すものの、今回の実証施設の建設にかかった費用は十数億円。また、現状の水素の価格は、水素ステーションで100円/Nm3※程度だと言われている。そのため、今回の実証施設のシステムで発電した場合の電気代は、電力会社から調達するよりも数倍から場合によっては10倍ほど高くなってしまう計算になるという。
※円/Nm3:0度1気圧でのガス1立方メートルあたりの価格。
ただ、水素の価格は今後のサプライチェーンの発達によって低下していくことが想定される。実際、政府の目標でも、2030年までに現在の3分の1以下となる30円/Nm3を目指すとしている。
水素の供給は、川崎重工や岩谷産業といった事業者による実証が進んでいる。これから先、水素産業が本格的に活性化していくためには、水素を供給する側だけではなく、水素を「使う側」の取り組みの拡大が必要不可欠だ。今回のパナソニックの実証は、まさにそういった未来を見据えた取り組みといえる。
(文・三ツ村崇志)