「かっこいい親戚のおばさん」に憧れる女性が増えている。
@hannah.montee/@luckyangie/@peytondstyles, compiled by Hillary Hoffower
- "かっこいい親戚のおばさん(cool aunt)"が若い女性の間で憧れの存在になっている。
- 母親になることを後回しにする女性が増える中で、"親戚のおばさん"は"独立"と"家族のつながり"の両方を約束してくれる。
- "親戚のおばさん"になることで、女性は自身のアイデンティティーを自由に作り、子どもたちに新たな可能性を示すことができる。
エレーヌ・ウェルタロス(Elaine Welteroth)のインスタグラムは「目標」だ。
作家で『プロジェクト・ランウェイ』の審査員も務める『Teen Vogue』の元編集長は、華やかな服、完璧なメイク、素敵な家、夫と過ごす休暇、レッドカーペット… そして時々甥っ子や姪っ子を抱きしめるという憧れの生活を送っている。
「Eおばさんは今、ベビーシッターが可能! 子どもを送って」とウェルタロスはインスタグラムのキャプションに書いている。動画では明るい青色のジャンプスーツを着た笑顔のウェルタロスが赤ちゃんの手を握り、イヴ(Eve)の『Who's That Girl?』を踊っている。
これがウェルタロスが数年前から自身を表すのに使っている「#AuntieE」 —— おしゃれでよく旅行に出かける、仕事中心で自分の子どもではない子どもにお金を使う女性 —— の暮らしだ
ウェルタロスは現在妊娠中だが、その「#AuntieE」のペルソナは現代の若い女性たちが憧れる"かっこいい親戚のおばさん"の暮らしを象徴している。
TikTokユーザー@peytondstylesが投稿した動画のテキストには「わたしが母親になることは恐らくない。わたしがなりたいのは… 20歳を過ぎているようには見えない、イタリアにセカンドハウスを持っている、かっこ良くて独身の裕福な親戚のおばさん」とある。
ユーザー@kelseywilliams60も赤ちゃんを抱いている自分の動画を投稿していて、スクリーンには「皆に自分の子どもかと聞かれるけれど、かっこいい親戚のおばさん」というテキストが流れる。TikTokでは「#coolaunt」が1億4290万回再生を記録していて、"かっこいい親戚のおばさん"は明らかに、多くのTikTokユーザーが共有している感情だ。
「子どものいない、仕事を持っている親戚のおばさん(professional aunt, no kids:PANK)」の魅力は、これまでにないほど高まっている。PANKは2008年にメラニー・ノトキン(Melanie Notkin)が裕福な、子どものいない女性を表現するために最初に作った言葉だ。「子なし」という汚名が「子どもから解放されている」という人気トレンドに変わる中、今では"親戚のおばさん"のペルソナは20代や30代の多くの女性に人気のアイデンティティーになっている。
多くの女性がなぜ子どものいない人生を選んでいるのか… そこでは経済が大きな役割を果たしている。まずは富を築きたいと考えている女性もいれば、子どもを持つ経済的な余裕はないと考えている女性もいる。50年前の女性にはなかったチャンスを手に入れようとしている女性もいれば、気候危機の壊滅的な影響を不安に感じている女性もいる。理由は何であれ、甥っ子や姪っ子に愛情を注いで、1日の終わりには子どもたちを両親に返すことを選ぶ女性が増えている。
十分な睡眠ときれいな家を意味する「親戚のおばさん」
ウェルタロスが使う「おばさん(Auntie)」という言葉は、アメリカでは黒人コミュニティやインド系コミュニティなどで口語として使用される、一般的に話者よりも年上の女性を示す言葉だ。愛情や敬意を示す言葉と見なす人もいれば、年齢差別的、性差別的だと考える人もいて、大いに議論されてきた呼称だ。オプラ・ウィンフリー(Oprah Winfrey)、ゲイル・キング(Gayle King)、エイヴァ・デュヴァーネイ(Ava DuVernay)はいずれも、本当の甥っ子または姪っ子以外からそう呼ばれるのを拒否したと伝えられている。
しかし、あらゆる人種の女性がこの言葉を使うようになった。子どもから解放されたアイデンティティーを主張するトレンドの一環として、女性たちはその意味や起源をぼやかし、ソーシャルメディアで自らを「おばさん」と呼んでいる。TikTokでは「#auntielife」とタグ付けされた動画が6200万回再生されていて、「#auntie」とタグ付けられた動画は9億8800万回再生されている。こうした女性 —— きれいな家、可処分所得、頻繁に出かける旅行、甥っ子や姪っ子に対する気楽なステータスに憧れるZ世代やミレニアル世代 —— の大半は、シンプルに「おばさん」になることができる。ちなみに、「#aunt」も人気のタグで、8億5600万回再生されている。
ただ、常に"憧れの存在"だったわけではない。ミシガン工科大学のコミュニケーション学の教授パティ・ソティリン(Patty Sotirin)は著書『Where the Aunts Are: Family, Feminism, and Kinship in Popular Culture』で、"おばさん"という生き方を現代社会における大人の女性の1つの選択肢として研究している。
この本が2013年に出版されて以降、子どもを持つのを後回しにしたり、子どもは持たないと決める女性が増える中で、"おばさん"の魅力はますます高まっていると、ソティリンはInsiderに語った。「こうした女性たちは、自分が家族を持つ唯一の方法は(親戚の)おばさんになることだという感覚を持っているのです」とソティリンは指摘している。
「おばさんの役割、おばさんの可能性に価値を見出しています」
"親戚のおばさん"の魅力が高まるにつれ、その役割は商業化され、さらに人気が上昇しているとソティリンは指摘する。甥っ子や姪っ子にプレゼントを惜しみなく与えることができる裕福でかっこいい"おばさん"のイメージが広がっているのはそのためで、こうしたトレンドを取り入れようと「おばさん」トートバッグや「かっこいいおばさん」スウェットといった「おばさん」アイテムが続々と登場している。
これは人口動態の変動から生まれたビジネス戦略だ。アメリカでは女性が子どもを持つのが遅くなるにつれ、その出生率は2008年以降、低下している。2019年から2020年でアメリカの出生数は4%減っていて、これは1年間の減少幅としては約50年で最も大きく、出生数としても1979年以来最も少なかった。
アメリカでは20歳から50歳までのPANKs1840万人のうち、母親になりたいと思いながら子どもを持てない、または適切な状況にない人が多い一方で、子どものいない状態を維持するために手段を講じる女性もいる。育児には平均して年間1万ドル(約130万円)の費用がかかり、新型コロナウイルスのパンデミックも続いているし、出産適齢期の女性は依然として経済的に安定した基盤を手に入れるのに苦労している。
経済状況に関係なく、単に子どもを持つことに興味がない女性もいる。ピュー・リサーチ・センターの2021年11月の調査では、回答者の半数以上が自分たちが子どもを持つ可能性は「低い」または「あり得ない」と答えていて、その理由として「単純に子どもを持ちたくない」ことを挙げた。同様に考える複数の女性たちがInsiderの取材に、今の自分たちの生活が気に入っているし、自分の夢を追い、自分のための時間を持つ自由が欲しいのだと話している。
"親戚のおばさん"でいることで、子どもを持つ経済的な余裕がない人は家族の絆を感じられるし、子育てに興味のない人は"独立"と"家族"の良いとこ取りができる。
「子どもはお金がかかるし難しいので、一緒に何かを作ったりして遊びつつも、子どもの安全に配慮する必要のない素敵な家を持てる楽しい親戚のおばさんでいたいです」とテイラー・シェンカー(25)は子どもを持たないという自身の選択についてInsiderに語った。
自己紹介に「わたしのお気に入りたちはわたしをレンおばさんと呼んでいます」と書いているTikTokユーザーの@wreckitwren98が動画で指摘しているように、「親戚のおばさんでいることで、母親でいることのメリットを全て手に入れることができる… そして子どもたちを送り返して、8時間の睡眠を得られる」のだ。
新しいロールモデル
自分のアイデンティティーを自由に作ることができるチャンスを与えられたように感じられるのも、"親戚のおばさん"でいることの魅力の一部だと、ソティリンは話している。
「(親戚の)おばさんは自分を成長させ、おばさんとしての役割を果たす存在になりました。いつもプレゼントを持って現れる愛すべきおばさんにもなれるし、まるで母親のようなおばさんになることもできます」
親戚のおばさんと子どもの"緩やかなつながり"は、まさにヘイリー・スウェンソン(35)が魅力を感じるものだ。
「その緩やかさの中には自由があって… それは好きなだけ眠る自由ということだけではありません(実際、謳歌していますが)」とスウェンソンはInsiderにEメールで語った。
「どんなに素晴らしい親子関係にも問題や悩みはあります。でも、わたしと甥っ子や姪っ子との間にはありません。常に変化するこの恐ろしい世界で、人としてどうあるべきかを教えるためにわたしが何かする必要もありません。ただあの子たちを愛し、わたしがわたしらしくいて、あの子たちにも自分らしくいてもらうだけです」
"親戚のおばさん"でいるのに、血縁も関係ない。今では「選んだ家族(chosen families)」 —— 生物学上の家族とはうまくいかなかった性的マイノリティの人々によって一般的になった概念 —— もたくさんいるとソティリンは話している。こうした実例を目にすることで、子どもたちは他の人生の可能性を思い描くこともできる。
「それは子どもではなくキャリアを持っている、独身のかっこいいおばさんかもしれませんし、あなたを夕食に連れ出してくれ、大人に話すようにあなたに話をしてくれる"選んだおばさん"かもしれません。女性に何ができるのか、女性は母親ではないどんな存在になれるのか、おばさんはさまざまな可能性を示しています」とソティリンは語った。
"親戚のおばさん"はロールモデルにもなるし、家族の一員にもなれるとソティリンは言う。
ジェニファー・レイク(35)はまさに、自身の"親戚のおばさん"としての役割をそう捉えている。子どもを持たない人生を自ら選択したことで、レイクと夫は彼女の姪っ子と過ごす時間が増えたとInsiderに語った。
「必要な時には手助けをし、使い走りや洗濯、子どもの世話をしたり、良い時や大変な時に家族や姪っ子のために駆けつけるサポート要員の1人でありたいと思っています。姪っ子が大きくなって、彼女が人生で経験しようとしていることについてアドバイスが欲しくなったり、ただ話をしたくなった時に、頼れる存在に自分がなれるのを楽しみにしています」
(敬称略)
[原文:More and more women just want to be 'the cool aunt' instead of having their own kids]
(翻訳、編集:山口佳美)