マットさんとシンディーさん。2人の子どもたちと。
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- 「ホームステディング(homesteading)」や「プレッピング(prepping)」は、さまざまな災害への備えにもなる自給自足の生活だ。
- ホームステディングを実践する人は食料や動物を育てることが多く、プレッピングを実践する人は基本的にそれが自家栽培かどうかにかかわらず、必要な物資のストックを維持しようとする。
- アメリカのテキサス州東部で暮らすある家族は、ホームステディングとプレッピングを組み合わせた自らの生活をInsiderに見せてくれた。
自分が食べるものを自分で育てるホームステディングの生活は、困難な時代にしばしば支持を得るものだと専門家はInsiderに語った。
Rachel Kaplan
アメリカでは、その歴史は1862年のホームステッド法あたりまで遡ることができる。この法律の下では、政府に対して武器を取らなかった人間は誰でも土地を要求することができ、アメリカ先住民はさらに追いやられることになった。
新しい入植地へ向かう途中、荷馬車の前で記念撮影をする家族。
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ホームステディングは農業にやや似ているが、現代においては特別な意味合いがある。
Rachel Kaplan
現代では、個人が自分の食べるものなどを自分で育てる意味合いが強くなっている。
Nivek Anderson Brown
ホームステディングを実践する人の大半は、何らかの畑を持っている。
Alliyah Perry
土地を所有していることも多いが、全てがそうというわけでもない。
Nivek Anderson Brown
「(ホームステディングとは)自分の食べ物を自分で育て、もう少しシンプルに生活することです」とワシントン州にあるグリーン・ガーデンズ・ホームステッド(Green Gardens Homestead)のアリーヤ・ペリー(Alliyah Perry)さんは話している。
ワシントン州にあるグリーン・ガーデンズ・ホームステッドで生産された野菜。
Alliyah Perry
ホームステディングを実践する人々は、ハーブを集めたり、育てたり、畑で穀物を栽培したり、家畜の世話をすることが多い。
テキサス州にあるスタンディング・パイン・ホームステッドではトマトを育てていた。
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「実に美しい生き方です」と9.11同時多発テロの後にホームステディングを実践し始め、都会のホームステディングに関する本を共同で執筆したレイチェル・カプラン(Rachel Kaplan)さんは話している。
Rachel Kaplan
インフレや新型コロナウイルスのパンデミック、ロシアによるウクライナ侵攻によって店の陳列棚が空っぽになったり、食品の値上がりが起きる中、ネット上では自給自足生活への関心が高まっていると、自身が実践するホームステディングについてソーシャルメディアで発信しているあるユーザーはInsiderに語った。
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ただ、多くのインフルエンサーとは異なり、ホームステディングはフルタイムの収入源にはなかなかならない。
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それはむしろ、家族を養い、地球とつながる方法の1つだ。
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…少なくとも、テキサス州東部に暮らすシンディーさんにとっては。
Standing Pineのシンディさん。
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(プライバシーの観点から、シンディーさんはネット上でラストネームを使用していない)
シンディーさんと夫のマットさんがテキサス東部のこの広さ2000平方メートルほどの土地に引っ越してきたのは、2020年9月のことだ。
シンディーさんたちが暮らす「Standing Pine Homestead」。
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彼らはこの場所を「スタンディング・パイン農場(Standing Pine Farm)」または「スタンディング・パイン・ホームステッド(Standing Pine Homestead)」と呼んでいる。
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シンディーさんと夫のマットさんには子どもが2人いる。
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畑、家畜、予備のヒーターと発電機で、約30%は自給自足できていると、シンディーさんは話している。
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シンディーさんは「プレッピング」の実践者でもあるため、この写真のようなシェルターも用意している。
豪華なサバイバル・シェルターの中の様子。
Courtesy of Atlas Survival Shelters
アメリカでは、危機が迫るとホームステディングやプレッピングへの関心が高まる傾向がある。
シェルターの設置作業。
Courtesy of the Rising S Company
ただ、シンディーさんにとって「プレッピング」とは自分や自分の家族が育てたり、買ったりした食べ物を保存することでもある。
長期保存するために、トマトを乾燥させている。
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シンディーさんは自らを「プレップステッダー(prepsteader)」と自認している。ホームステディングを実践する「ホームステッダー」とプレッピングを実践する「プレッパー」を組み合わせた言葉だ。
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純粋な「プレッパー」は加工食品を蓄えるだけのことが多い一方で、大半のホームステッダーはいろいろな方法で食べ物を保存していると、シンディーさんは言う。
豚肉からハムを作ることも。
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シンディーさんの場合は、自分たちに育てられるものを育てて、その一部を交換する。あとは季節毎にまとめ買いをして蓄えている。
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週末には、自分たちで育てた食べ物を缶詰めや瓶詰めにするなど、長期保存のための作業をする。
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シンディーさんは2種類の機械を持っていて、圧力を加えるタイプのものと…
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熱湯に入れるタイプのものを使っている。
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熱湯に入れるタイプのものは、とてもシンプルだとシンディーさんは語った。
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「熱湯に入れる場合は、専用の機械も必要ありません」と言い、真空密閉されるまで一定の時間、ある程度の深さのある熱湯の中で缶や瓶をゆでるだけだと話した。
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「こうやってピクルスをよく作っています」とシンディーさんは語った。
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「圧力をかけるタイプのものがこちらです。夫がこれを買ってくれた時は泣きました。ものすごく楽しみだったんです」
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この機械は圧力を使って、真空密閉する。
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「圧力をかけ過ぎると、自動的に蒸気を外に出してくれるので、祖母が使っていた時代のもののように爆発することはありません」とシンディーさんは話した。
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ただ、シンディーさんのやり方はアメリカの農務省が承認したものではなく、自己流だという。
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こちらがシンディーさんの備蓄用パントリーだ。ほとんどの食べ物を備蓄している。
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「明日わたしが失業しても、何カ月かは食料品店に行かずに家族を食べさせることができます」とシンディーさんは言う。
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シンディーさんが本格的にプレッピングを始めたきっかけは、新型コロナウイルスのパンデミックだった。娘のエマちゃん用のミルクがなくなってしまったのだ。写真の左側が今では2歳半になったエマちゃんだ。
敷地内で遊ぶ子どもたち。
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「何をしてもミルクは手に入りませんでした」とシンディーさんは当時を振り返った。
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エマちゃんは牛乳をベースにしたミルクを嫌がったので、シンディーさんはヨーロッパのヤギのミルクを使っていた。それがコンテナ輸送の遅延の影響を受けたのだ。
Reuters
一般的なミルクも品薄になっていたと、シンディーさんは言う。
Mark Duncan/AP Photo
そこで地元のママ友グループにネット上で助けを求めると、分けてもらうことができた。「わたしが覚えているのは、彼女がヘザーという名前の素晴らしい人だったということだけです」とシンディーさんは語った。
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その後、しばらくしてヤギのミルクも届いた。
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マットさんとシンディーさんは2016年から少しずつプレッピングを始めていたが、パンデミックが始まった頃はテキサス州ラボックに住んでいた。ミルク不足は2人のホームステディングの計画を加速させた。
テキサス州ガルベストンにあるAirbnbの物件(シンディーさん一家が住んでいた家ではありません)。
Jared Jurkowski
「都会暮らしはもう十分だと思いました。パントリーに多めに食料を蓄えておく以外に、娘たちを食べさせていくための新しいスキルを身に付ける必要があると考え、決断しました」とシンディーさんは語った。
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今では、赤ちゃんのミルク不足にどう備えるか、TikTokに動画を投稿しているという。
Courtesy subject.
シンディーさんは他にも一般的なプレッピングに関する動画を投稿していて、人気を集めている。「缶詰や瓶詰作業、食料の保存方法やインフレへの備え方についての投稿を増やしたら、再生回数が伸びました」と話している。
瓶詰にしたぶどうのジュース。
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シンディーさんは食料の保存作業やTikTokへの動画投稿をしつつ、ITトレーナーとしてリモートで働いている。マットさんはフルタイムで農作業などをしている。
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「夫は素晴らしくて、子どもたちの面倒も見てくれています」とシンディーさんは話した。
娘のロリちゃん。
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季節にもよるが、マットさんは1日2~4時間を畑で過ごしている。
畑で作業をするマットさん。
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地方出身のマットさんは、プレッピングとホームステディングを実践する家庭で育った。ただ、この世の終わりに備えているわけではないと話している。
マットさんと飼っている鶏。
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今年に入って、レイズドベッド(かさ上げした花壇)も作ったという。
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2022年は約200ポンド(約90キロ)の野菜を畑で収穫できる見込みだとマットさんは語った。
Courtesy company.
「畑仕事には癒しの力があります。靴を脱いで、ただ畑に横たわることもあります」とマットさんは話している。
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屋外には、飼っているヤギや鶏のための牧草地や小屋もある。
ヤギにえさをやるロリちゃん。
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「ひよこを卵の状態から育てることができると、ものすごく達成感があります」とシンディーさんは語った。
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ただ、全てがうまくいったわけではない。牛には苦労したという。
牛を育てる男性(2016年5月12日、ルーマニア)。
Kay Nietfeld/picture alliance via Getty Images
牛の名前は「パッツィー・クライン」と「ドリー・パートン」。動物たちに有名人の名前を付けるのが、スタンディング・パイン農場の伝統だ。
飼っていた牛の親子。
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ただ、「乳が出始めると、蹴るようになりました」とシンディーさんは語った。
子牛が「パッツィ」、母牛が「ドリー」。
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牛は1日に約25ポンド(約11キロ)の干し草を食べるため、家畜として役に立たなければ飼い続けるのは難しいという。
どんなにかわいくても、だ。
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そのため、一家は牛を近所の農場に譲った。
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コミュニティーも、シンディーさんとマットさんのホームステディング生活には欠かせない存在だ。余った卵を近所の農場でエルダーベリーのシロップや牛乳などと交換している。
スタンディング・パインでとれた卵。
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全体としては、満足感の得られるライフスタイルだという。
ロリちゃん(左)とエマちゃん(右)。
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「このライフスタイルには安らぎと自然とのつながりがあって、わたしたちの心の奥底にあるものを引き出してくれます」とシンディーさんは話した。
シンディーさんと鶏。
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お金も節約できる。
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食料品を買いに行くと、以前は週に100~150ドル(約1万3000~1万9000円)使っていたが、今では月に150~200ドル(約1万9000円~2万6000円)に収めようとしていると、シンディーさんは明かした。
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シンディーさんたちが主に購入するのは、小麦粉や米といった自分たちでは作れないものや、ドーナツやトルティーヤ・チップといった時々食べるおやつで、可能な限り他の農家から買うようにしている。広さ2000平方メートルほどの土地で必要なもの全てを自分で育てることはできないと、シンディーさんは言う。
買い物客(2021年4月19日、フロリダ州マイアミビーチ)。
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シンディーさんによると、フェイスブック(Facebook)のプロモーションやアマゾン(Amazon)のアフィリエイトリンクからは、これまでに800ドル(約10万円)ほどしか収入は得られていないものの、TikTokには9万6000人のフォロワーがいる。
Mateusz Slodkowski/SOPA Images/LightRocket via Getty Images
「YouTubeを中心に、たくさんのクリエーターからいろいろと学んでいます。広さ2000平方メートルほどの土地でホームステディングを始めると決めた時、わたしたちはその過程をいろいろな人たちと共有したいと思ったんです」とシンディーさんは話している。
スタンディング・パインでとれた卵。
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「食料の長期保存やいざという時のための備えに皆、関心があるのだと思います。わたしのアプローチ法もそれです。だからこそ、わたしのパニックや恐怖を誘発させないメソッドに反応してくれているのでしょう」
Courtesy company.
(翻訳、編集:山口佳美)