世界中で新型コロナ感染拡大の影響による移動制限の解除や経済活動の再開が本格化している。ビジネス出張の回復もコロナ以前の水準に……と単純にはいかないようだ。
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米大手会計事務所デロイトは4月18日、米企業におけるビジネス出張の現状と展望に関する調査レポートを公開した。
経営幹部クラスのトラベルマネジャー(=出張管理を担う責任者、欧米企業に多いポジション)150人の回答から、行動制限の解除や経済再開の進捗にもかかわらず、ビジネス出張の回復が大幅に遅れていることが明らかになった。
2021年時点の予測は楽観的すぎた。出張再開に大幅な遅れ
デロイトは2021年6月にも同様のトラベルマネジャー調査を実施している。
当時は各社とも、ワクチン接種が急速に進んで同年秋にはオフィス復帰が実現、社会経済活動の正常化が本格化すると想定していた。出張支出についても、コロナ以前の水準近くまで回復すると見込む回答が多かった。
しかし、そうした見通しがデルタ株とそれに続くオミクロン株の流行によって脆(もろ)くも崩れ去ったことは周知の通りだ。
2021年下半期、オフィス復帰計画の延期をはじめ社会経済活動の正常化が後ろ倒しになるなか、出張支出額はトラベルマネジャー150人の予測を大幅に下回った。
前回(2021年6月)調査では、全回答者の約3割(34%)が同年末までにコロナ以前(2019年末)の半分以上の水準まで回復すると答えたが、結果としてそこまでの回復を実現できた企業は約1割(9%)にとどまった【図表1】。
【図表1】2021年のビジネス出張(支出額)は、トラベルマネジャーの予測ほどに回復しなかった。上からそれぞれ、2021年末まで、22年6月末まで、22年末までの予測(いずれも上段が今回調査時、下段が前回2021年6月調査時)。
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また、前回調査では回答者の過半数(54%)が2022年末までに完全回復すると予想していたが、今回調査では2割弱(17%)にとどまった。
デルタ株とオミクロン株に加え、最近では後者の派生型「BA.2」や新たな系統とされる「XE」の出現など、大方の予想を超える新型コロナの感染力を目の当たりにし、楽観的な予測を立てること自体が経営リスクになるとの認識が定着した模様だ。
正常化を後ろ倒しする企業が8割、うち7社に1社が根本見直し
今回調査では全体の3分の2(66%)が、出張の正常化スケジュールを後ろ倒しにしたと回答。前回調査以降に出現した変異株や感染再拡大の影響はほぼないと回答したのは、わずか2割(19%)だった【図表2】。
【図表2】変異株の出現と流行は大きな影響をもたらした。8割(66%+15%=81%)が出張再開スケジュールを遅らせると回答。
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出張の正常化を妨げるファクターは減少。一方、出張コスト上昇に引き続き懸念
スケジュールを後ろ倒しする企業が圧倒的に多いものの、ビジネス出張の正常化は間違いなく徐々に進んでいる。
正常化を後押しするファクターは、感染率の低下やクライアントのオフィス復帰、越境出張時の隔離(待機)措置の緩和などこれまでと変わらない。出張の可否は基本的に社外環境の変化に応じて適宜行われていることが分かる【図表3】。
【図表3】出張再開の妨げになる直接的な障壁は薄れ、出張コスト上昇への懸念(右下の赤点線囲み)が若干高まっている。
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また、出張の正常化を妨げるファクターについては、行動規制や自社従業員の不安感、クライアントの対面営業自粛、会議や見本市のオンライン化などが徐々に解消されており、企業側の懸念も薄まってきている。
ただし、昨今のサプライチェーン障害やインフレ高進を背景とする出張コストの上昇についてはむしろ懸念が高まっており、パンデミックの収束や規制の解除とは別に、出張の正常化を遅らせる、あるいは根本的な見直しにつながる可能性がある。
ビジネス出張「完全回復」への道は遠い
デロイトによれば、2022年春は新たな変異株の影響が限定的で、オフィス復帰が着実に進み、クライアントと対面でミーティングを行うハードルも下がっている。見本市などのイベントもリアル開催され、2021年秋に比べて多数の参加を期待できる見込みという。
それでもなお、コロナ以前の水準まで出張支出額が回復する見通しは立たないというのが今回調査に回答したトラベルマネジャーの本音のようだ【図表4】。
【図表4】2022年、出張支出額は大きく伸びるものの、2023年には減速が予想される。
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2022年第2四半期(4〜6月)でコロナ前の3割を超え(36%)、同年第4四半期(10〜12月)には5割強(55%)に達する見込み。しかし、急回復と言えるのはそこまでで、チャートの傾きはその後なだらかになり、2023年第4四半期になっても回復率は68%にとどまる。
デロイトはその理由として、「パンデミック下で有効性が実証されたテクノロジー」のおかげで出張の少なからぬ部分をデジタル技術で置き換えることが可能になったことを挙げる。
「支出を抑制できるうえ、(温室効果ガスの排出など)環境への悪影響を減らせる」ことから、企業はテクノロジーの活用を優先し、出張を控えるようになるというわけだ。
オフィス出社日数の多い企業ほど出張が増える
今回のデロイト調査に回答した米企業150社の間でも、オフィス復帰(出社)への考え方次第で、ビジネス出張正常化へのスタンスは異なる。もっと言えば二分される。
2022年第2四半期(4〜6月)中に在宅勤務を週0〜2日に変更する企業、つまり週3日以上の出社を求める企業のうち約7割(71%)は、出張支出額を2023年末までにコロナ以前と同水準に引き上げようと考えている【図表5】。
【図表5】2022年第2四半期(4〜6月)時点で出社日数が週の過半を占める企業と、出社日数が週の半数未満にとどまる企業を比べると、2023年末の出張支出額回復率にはほぼ倍の開きがみられる。
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一方、最大週2日出社とする企業で、出張支出額を2023年末までにコロナ以前の水準に戻す計画を持っているのは3割超(36%)にとどまる。
なお、調査結果のさらに詳しい分析内容は「デロイトインサイツ(Insights)」サイト(英語)で公開されているので、ぜひ参照されたい。
(文:川村力)