アサヒビールと電通デジタルの合弁会社「スマドリ」の梶浦瑞穂社長。同社が狙うのは4000万人の「飲まない」市場だ。
出典:アサヒビールと電通デジタルの記者会見にて。
アサヒビールが「ノンアル」「低アル」商戦に力を入れている。飲酒しない人を対象にしたマーケティング会社を電通デジタルと共に設立し、6月には東京・渋谷に常設のバーをオープンする。
約4000万人の「飲まない」市場を掘り起こす戦略は ── 。
2025年までに商品の2割を低アル、ノンアルに
出典:アサヒビールウェブサイト
アサヒビールと電通デジタルは4月20日、記者会見を開き今後の戦略を明らかにした。
2社が合弁会社「スマドリ」を設立したのは2022年1月。スマドリは「スマートドリンキング」の略称で、お酒を「飲めない・飲まない」人に焦点を当てたデータマーケティングなどを主な目的とする。
会見に登壇したアサヒビール専務取締役・マーケティング本部長の松山一雄さんは、「責任ある飲酒の推進と不適切な飲酒の撲滅はアルコールメーカーとして大きな責務」だと説明する。
アサヒビールは2025年までに販売する酒類の20%をアルコール分3.5%以下(ノンアルコール含む)の商品にすると宣言しており、商品の純アルコール量を商品本体やホームページに記載するなど、透明性に向けた取り組みも進めてきた。
伸び悩むアルコールに危機感
提供:アサヒビール、スマドリ
同社によると、グローバル市場ではアルコールの売り上げが伸び悩む一方で、ノンアルコールおよび低アルコール商品は年平均約6%のペースで右肩上がりの成長を続けており、「2桁で伸びている地域もある」(松山さん)という。
お酒が飲めない、あるいは、お酒を飲めるもののあえて飲まない「ソバーキュリアス」を選択する人は日本国内に約4000万人いると推計しており、
「今まではお酒を飲める人に向かって『飲めない時はこれですよね』とノンアルを提供してきました。それは続ける一方で、今後はお酒を飲まない4000万人に新たな選択肢を提供していきたいと考えています。
5年10年かかる中長期の戦略だとは思いますが、これが新しい市場になると信じています」(松山さん)
飲めない人が飲める人と共に楽しめる機会を
提供:アサヒビール、スマドリ
アサヒビールと電通デジタルの合弁会社「スマドリ」の梶浦瑞穂社長(アサヒビール新価値創造推進部長)は、同社のターゲットは前出の4000万人のうち「お酒は飲めないけど飲みの場は好き」で「そこに選択肢がない、少ない」と不満を抱いている人らだと話す。こうした人は約540万人いると推計しているそうだ。
「お酒を飲めない人にとって、リラックスしたいというニーズはカフェでコーヒーを飲めば満たされる一方で、『気分をアゲる』ことは難しい。お酒を飲む人よりもそうした機会が人生で少ないと感じていることが分かりました。
スマドリでは、お酒が飲めない人も飲める人と一緒に交われる商品と場所を提供したいと思っています」(梶浦さん)
アルコール度数が選べるバー
アサヒビールの新ブランド「VIVA」。人気が高まるハードセルツァーだ。
写真提供:アサヒビール
その第1弾が6月にオープン予定の『SUMADORI-BAR SHIBUYA(スマドリバー シブヤ)』だ。東京・渋谷のセンター街に常設するバーで、ノンアルコールや低アルコールなど100種類以上のメニューを用意している。
同じドリンクをアルコール分「0.00%」「0.5%」「3.0%」の3パターンから選ぶことができるのが特徴だ。
バーのオープンに先駆けてアサヒビールでは、アルコール分0.5%のワインテイスト飲料「ビスパ」、アルコール分3%のハードセルツァー(アルコール入り炭酸水)の新ブランド「アサヒ VIVA(ビバ)」も販売する。
スマートドリンキング戦略のターゲットとして重要なのが、前出の「お酒は飲めないが外飲みは好き」な層に加え、約790万人いると推計される「お酒は飲めるが家飲みはしない」層だ。
「スマドリ全体の取り組みとして、業務用やレストランはとても大事なチャネルだと思っています。
マーケティングという意味でもそうですし、夜の大規模な宴会需要が減っている中、少人数へのアプローチや昼間の需要の開拓などをスマドリで解決できると思っています。
これらの商品もまずは業務用から認知をあげていき、最終的に家庭にも広く普及すればいいなと」(梶浦さん)
加速するノンアル、低アル商戦。アルコールメーカー各社が注力する中、アサヒビールの戦略は市場にどう受け入れられるだろうか。
(文・竹下郁子)