グラッドチェンコさん一家。
Jake Epstein/Insider
- あるウクライナ人女性とその息子はリュックサック1つで国を逃れ、アメリカにたどり着いた。
- リュックサックの中身はパスポート、パン、シリアルバー、水、着替え、家族写真だけだった。
- insiderの取材に、タチアナ・グラッドチェンコさんはウクライナからアメリカのボストンまでの数日間に及ぶ長旅を振り返った。
2月24日にロシアがウクライナに侵攻すると、タチアナ・グラッドチェンコさん(46)は準備をしておかなければと考えた。いざという時にすぐに持ち出せるよう、タチアナさんは自分と11歳の息子アートくんの荷物をそれぞれリュックサックに詰めた。
リュックサックの中にはパスポート、着替え、パン、シリアルバー、ナッツ、水が入っていたとタチアナさんはInsiderに語った。
3月の初めには、東部ドニプロの自宅にとどまることがものすごく危険になっていた。タチアナさんがアートくんを連れて家を出ようとした時、アートくんは1枚の家族写真を手に取った。慣れ親しんだ生活から持ち出すことができたのはこれが全てだ。
「ほとんどの人たちがリュックサック1つで自宅をあとにしています」とタチアナさんはInsiderに語った。
「他には何も持たずに」
ウクライナをあとにしたのはタチアナさんとアートくんだけではない。国連の直近のデータによると、戦争が始まって以来、これまでに500万人以上のウクライナ人が国外に避難している。国際社会が拡大する人道危機を食い止めようと支援を急ぐ中、国外へ逃れた人たちとは別に770万人が国内で行き場を失っている。
ロシアによる軍事侵攻が始まってばかりの頃、タチアナさんとアートくん、夫のヴァルさん(38)は空襲警報が止むとリュックサックだけを持って、一家が住んでいた9階建てのマンションの廊下で眠っていた。そして空襲警報が鳴ると、急いで階段を下りて、シェルターに避難していた。
夫婦はその後、タチアナさんがアートくんを連れて彼女の姉妹が暮らすアメリカへ渡り、そこへ身を寄せようと決めた。ロシアによる侵攻を受け、ウクライナ政府は18~60歳の男性の出国を禁止しているため、ヴァルさんはウクライナにとどまっている。
タチアナさんはリュックサック以外に荷物は持って行かないことにした。避難する時に列車に荷物が入り切らず、駅で捨てなければならなかった人たちの話を聞いていたからだ。
タチアナさんとアートくんは必要最低限のものだけを詰めたリュックサックを背負って、ドニプロの駅に到着した。
2人は鉄道でポーランドへ向かい、そこから飛行機でドイツへ行き、最終的にタチアナさんの姉妹が暮らすアメリカのボストンにたどり着くことができた。ウクライナを離れてから数日が経っていた。
ボストンの空港で、タチアナさんは係員から何度か荷物を運ぶのを手伝いましょうかと声をかけられた。タチアナさんはこう答えた。
荷物はこのリュックサックだけです、と。
(翻訳、編集:山口佳美)