Twitter買収に動いたテスラ最高経営責任者のイーロン・マスク。
Reuters
Twitterは2022年4月25日、イーロン・マスクがTwitterを買収することで合意したと発表した。買収総額は約440億ドル(約5.6兆円、1ドル=128円換算)となるようだ。
マスクに近い情報筋によれば、マスクは4月14日にTwitterの敵対的買収のための資金調達方法を決めたのち、長年付き合いのあるモルガン・スタンレーに対し、1週間以内にTwitter買収に必要な資金のためのローンをまとめるよう指示したという。
4月21日に米国証券取引委員会(SEC)に提出された書類から明らかになった内容によると、モルガン・スタンレーは6日間で255億ドル(約3兆2640億円)の貸付け計画をまとめた。マスクの持つテスラ株を担保にした125億ドル(約1兆6000億円)と、マスクが買収に成功した場合のTwitterへの貸付130億ドル(約1兆6640億円)が内訳となっている。
このスキームに参加したいという銀行は多かったようで、与えられた時間があと1週間長ければ、ウォール街の銀行はどこも参加していただろう、と情報筋は言う。
大富豪でも数十億ドル規模の証券担保ローンは前代未聞
この規模の証券担保ローンは通常法人向けに行われる。例えば最近ソフトバンクグループが半導体部門であるアーム(Arm)の株を担保に80億ドル(約1兆240億円)の融資を受けた。億万長者であったとしても個人が125億ドル(約1兆6000億円)の証券担保ローンを組むというのは前代未聞だ。融資比率が20%の場合、マスクは6400万のテスラの株を担保にしたことになり、これはマスクの全体の持ち分の3分の1にあたる。
証券を担保にした信用枠は通常、株の売却益に課税されることを避ける方法として、不動産購入など自分のライフスタイルに使うお金を富裕層が調達するために使われる。
マスクは「現金資産が少ない億万長者」として有名だが、数年前からテスラの株を担保に借り入れを行ってきた。テスラの最新の目論見書によれば、2020年2月12日時点でマスクは、モルガン・スタンレー、ゴールドマン・サックス、バンク・オブ・アメリカに合計5億4800万ドル(約700億円)の借金をしている。
マスクとテスラの株主にとってのリスク
テスラの時価総額が1日で1090億ドル(約13兆9520億円)減ったこともあることを考えると、たとえマスクでも、テスラの株を担保に個人でローンを借りるのはリスクだ。今回の証券担保ローンのコミットメント・レターでは、担保対象となるテスラ株の価値が357億ドル(約4兆5700億円)以下になった場合、マスクは2日以内に担保を増やすか、ローンの一部を返済するか、担保とした株を売却することになっている(ブルームバーグのマット・レヴァイン(Matt Levine)によると、それ以外にもマスクは年間で10億ドル(約1280億円)近くの利子の支払い義務を負うことになる)。
株を担保にしたことで、マスクが株を売却する(または売却させられることになった)場合、他の株主にも悪影響が出る可能性がある。例えば2012年、グリーン・マウンテン・コーヒー・ロースターズ(Green Mountain Coffee Roasters)の株価が急落した際、会長のロバート・スティラー(Robert Stiller)はドイツ銀行からの証券担保ローンを借りていたため、500万株の売却を余儀なくされた。また、取引禁止期間に株を売却したことで、会長職を解任された。
銀行側もこうした融資は痛手を負うリスクがある。バンク・オブ・アメリカなど4行は2017年、南アメリカの小売企業であるシュタインホフ・インターナショナル・ホールディングス(Steinhoff International Holdings)の当時の会長、クリスト・ウィーズ(Christo Wiese)に対する20億ドル(約2560億円)のローンから、合計で10億ドル(約1280億円)の損失を計上したとウォール・ストリート・ジャーナルが報じている。当時スリーピーズ(Sleepy's)とマットレス・ファーム(Mattress Firm)を傘下に持っていたシュタインホフの株は、この件の開示後に価格が急落した。
株主保護のために、インサイダーとなる人には株式を担保に個人でローンを組むことを禁じている企業もある。テスラでもリスクコントロールのため、融資額を担保となる株式の価値の25%までに制限するルールがある。
今回のローンにはリスクがあるのではないかと情報筋に尋ねたところ、マスクがTwitterを買収することについて銀行は支持しているとの回答だった。
「銀行にここまで支持されているのは、Twitterは非常に強力な資産になると思われているからなんです」
今回の借り入れは、ソフトウェア大手のシトリックス(Citrix)のレバレッジド・バイアウトのようなものだという。
「銀行にとってはキャッシュフローに支えられた、(シトリックスと)似たようなレバレッジ比率の大きな債券取引のようなものなのです」
10年以上マスクに貸付を行っているモルガン・スタンレー
マスクもリスクを負う経験はしてきており、モルガン・スタンレーとも長年の付き合いがある。2016年のテスラの目論見書によれば、モルガン・スタンレーは2011年5月からマスクに融資を提供している。
モルガン・スタンレーは今回、12行を束ねる幹事会社として、証券担保ローンとTwitterの買収が成功した際のTwitterへの貸付の合計で55億ドル(約7040億円)を貸すとしている。マスクのファミリーオフィスであるエクセッション(Excession)を率いるジャレッド・バーコール(Jared Birchall)もモルガン・スタンレー出身で、2010年から2016年まで勤務していた。
バンク・オブ・アメリカやシティバンクなどの他の非幹事銀行も、今回の証券担保ローンのスキームに参加する。
大手銀行で名を連ねていないのが、JPモルガンとゴールドマン・サックスの2行だ。両行ともこれまでにマスクに対して個人ローンを組んだことはあるものの、JPモルガンは、申請資料の別紙によるとTwitterにリボルビング・クレジット・ファシリティ(編注:一定の期間や限度枠内で、企業が貸付人である金融機関から自由に借り入れや返済ができる契約)を提供していることから、利益相反になるため参加していない。またゴールドマン・サックスもTwitterの顧問会社になっているため、参加していない。
(翻訳・田原真梨子、編集・大門小百合)