米動画配信大手ネットフリックスが発表した2022年第1四半期(1〜3月)業績と今後の見通しに対して、米ウォール街の厳しい態度が目立つ。
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米動画配信大手ネットフリックスのホラー作品を一覧表示できるジャンルコードは「8711」。先週(4月第4週)の同社株式の値動きは、いますぐその恐怖に満ちた作品ラインナップに加えるに値するものだ。
ネットフリックスは2022年第1四半期(1〜3月)だけで20万人の会員を失い、第2四半期(4〜6月)はさらに200万人の会員減を見込むと発表。4月20日の株価(終値)は前日比35%安という空前の下落幅を記録した。
同社が(四半期単位で)会員数のマイナス成長を記録したのは2011年以来初めてのことで、投資家は驚きをもって発表を受けとめた。株価の下落幅は2004年以来の大きさで、翌21日にはさらに3.5%下落している。
ネットフリックスの残念な決算発表は2四半期連続だ。2021年第4四半期(10〜12月)決算は新規会員数の伸びが市場予想を下回り、1月21日だけで前日比22%の下落を記録した。
2021年11月に付けた史上最高値(終値、682.02ドル)との比較では、4月21日時点でおよそ7割(68.4%)の下落となっている。
スイス金融大手UBSは投資家の懸念を肯定する。
同社アナリストのジョン・ホデュリックは、ネットフリックスの第1四半期決算発表(4月19日)後に投資判断を「買い」から「中立」に格下げ、目標株価も575ドルから355ドルへと引き下げた。
同社クロスアセット(=異なるリスク資産間の相関関係を対象とする)ストラテジストのジョン・ゴードンによれば、デジタルサービスやコンシューマー向けハードウェアなどの分野では値上げや競争激化による消費者の需要減が発生しており、企業は厳しい状況に陥りつつあるという。
さらに、同社グローバル資産運用部門のマーク・ヘーフェリ最高投資責任者(CIO)は、消費者向けのデジタル系サブスクリプション(定額制)サービスは市場の飽和が近づきつつあるものも多く、成長の余地があまりなくなっていると指摘する。
ヘーフェリ自身も、消費者向けのサブスクサービスより、EコマースやクラウドのようなB2B(企業間取引)を手がけるテック企業を重視しているという。彼は最近の顧客向けレポートで次のように書いている。
「デジタルサブスクリプションに関して言えば、当社はB2B銘柄へのエクスポージャー(=特定のリスクに資産をさらす割合)を8割、B2C銘柄を2割として資産配分しています。B2Bテクノロジーのほうがレジリエント(=危機に対して強靭で回復力が高い)と考えているからです」
UBSは、デジタル系サブスクサービス全体の売上高成長率予測を2025年まで年平均18%で据え置いているものの、B2Cのサービスとハードウェアについてはより慎重な姿勢に切り替えている。
ヘーフェリは株式全般への資産配分を「中立」とし、ヘルスケアなどディフェンシブ(=景気変動の影響を受けにくい安定的な)セクターに目を向け、長期的な成長を期待できるテーマを重視するよう投資家にアドバイスする。
「ヘルスケアセクターは堅調な業績に対して割安な水準(=低いプレミアム)で取引されており、ディフェンシブとグロースの両方を天秤にかける銘柄として手ごろ感があります。
また、医薬品価格引き下げを求める(政府や議会からの)政治的圧力が緩和されれば、製薬分野の銘柄は軒並み上昇する可能性があります」
また、UBSが長期的な成長を期待できるテーマとして挙げているのは、第5世代移動通信システム(5G)、オートメーションおよびロボティクス、スマートモビリティやコンシューマーエクスペリエンスなど。
ただし、強靭なキャッシュフロー、力強い2022年の業績見通し、さらには業績予想の上方修正と三拍子揃うのであれば、年初来厳しい株価が続くハイテク銘柄にもチャンスがあるという。
ネットフリックスについては、これまで以上に大きな投資を行って会員数を再度増加の軌道に乗せ、売上高の伸びを加速するしかないと前出のホデュリックは指摘する。
ただし、投資額を積み増せば当然のことながら利益率は引き下げられることになる。
「当社としてはネットフリックスが動画配信分野をけん引するトップ企業であり続けることを期待していますが、売上高の伸びを再加速できる見通しは必ずしも明るいとは言えず、(投資判断として)買い推奨を維持できる状況ではないと考えています」(ホデュリック)
ネットフリックスが会員数の再成長モードに移行できない最悪シナリオの場合、株価は205ドルまで値下がりする可能性があるという(4月22日終値は215.52ドル)。
逆に同社がコンテンツへの追加投資を通じて再成長の軌道に乗り、会員数や会員1人当たりの売上高の増加、(広告事業やパスワード共有の制限など)マネタイズ面の改善に成功できれば、株価は500ドルまで上昇の余地があるという。
なお、UBSに限らずウォール街の金融各社の多くは4月19日の決算発表後に目標価格を引き下げ。例えば、米銀大手バンク・オブ・アメリカはUBSを下回る300ドルに設定している(従前は605ドル)。
(翻訳・編集:川村力)