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米テスラが今月20日に発表した2022年1-3月の決算は、売上高が前年同期比81%増の187億5600万ドル(約2兆4000億円、1ドル=128円換算)、最終利益は同7.6倍の33億1800万ドル(約4200億円)だった。
最終利益は過去最高だったが、テスラは原材料の高騰と上海の封鎖によるサプライチェーンの麻痺に直面しており、その影響は4月以降の数字に表れると見られている。決算発表後のアナリスト向けの電話会見での質疑応答から、「上海工場」「原材料価格」「材料・部品の技術革新」の状況と見通しについて経営陣の回答を要約して紹介する。
〈上海〉上海の混乱、世界の工場に影響
——ロックダウンでテスラの上海工場は稼働が止まった。4-6月期の生産にどんな影響があるか。
イーロン・マスクCEO(以下、マスク):確かに生産は圧迫されています。川上のサプライヤーの多くも、生産に遅れが出ています。ただ、上海の工場は少しずつ生産を再開しています。課題は多々あるものの、4-6月の生産台数は1-3月と同じくらいになるか、少し減る程度だと見ています。
もちろん、7月以降は生産が大きく伸び、順調ならば2022年の生産台数は150万台を超えると予測しています。
——上海封鎖は他の工場にも影響するか。
マスク:一部の部品は上海で調達し、グローバルの工場で使います。だから全世界の生産に影響が出ています。とは言え上海工場の生産と同地のサプライチェーンは徐々に回復しており、全体の影響は限定的だと考えています。
——(今年3月に生産を始めた)ドイツ・ベルリン郊外の工場と(2022年に稼働した)テキサス州オースティンの工場の生産体制は、上海と比べてどうか。これら新工場は上海のノウハウを利用しているのか、それとも新しい生産プロセスを構築するのか。
マスク:上海工場で蓄積した多くのノウハウを、よりシンプルにして新工場で展開しているので、ベルリンとオースティンの方が生産体制の拡大ペースが速いです。
上海工場は3月下旬から3週間以上稼働が止まった。
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——1-3月のコスト改善の要因は。
ザック・カークホーンCFO(以下、カークホーン):総合的に言うと、上海工場です。上海工場の生産コストが低いので、生産の移転が進むと平均コストは下がります。フリーモント工場、特にModel XとModel Sは生産性が上がっています。
ただ、コロナ禍で部品の調達、サプライチェーンは見通しが立ちにくくなっています。部品が足りないと分かっていても、サプライヤーもいつ納品できるか事前に通知できる状況ではないので、1-3月は大変な努力を強いられました。
〈原材料コスト〉最高益でも値上げは不可避
——原材料価格のリスクをどうとらえているか。
マスク:テスラの1-3月の純利益が過去最高になったことを考えると、値上げは納得されにくいかもしれません。しかし需要は非常に大きく、一部の車は来年まで納車待ちです。今テスラの定価は、6-12か月後のサプライヤーと物流のコスト上昇分を考慮する必要があり、この時期の値上げとなりました。
カークホーン:最近は総コスト、原材料コストの上昇が続き、特に1-3月はそのペースが上がりました。4-6月はさらに上昇スピードが上がりそうです。
——Model 3は大衆市場向けのEVとして発売されましたが、価格が上がり続けています。もちろんコストの上乗せは必要でしょうが、「大衆向けのEV」という初心もあるはず。
マスク:大衆の手が届くEVを作るという初心は変わりません。しかし今のインフレ率はここ50年で最大です。この状況は1年間続くでしょう。私たちはサプライヤーとの取引でもコストの圧力にさらされ、部品によっては20-30%コストが上昇しています。来年の納車までの期間に増えるコストを考えて価格を調整する必要があります。
〈材料・部品の技術革新〉リサイクル材料利用を促進
——生産規模の最大化に向けた原材料の確保策は。
マスク:それは私たちがずっと考えていることです。生産能力の最大化を目指せばリチウム、鉄、リン酸塩、グラファイト、電解質が何トン必要かなど、マクロ経済に関わる話になります。エネルギーを持続的に生産、消費するための課題解決など、世界全体のことも考えなければなりません。私たちはそういった課題に手を打ち始めています。
リチウムの採掘と精製は、今まさに直面している課題の一つです。これが電池コストの上昇の原因の一つ、いや、影響が最も大きな原因と言えます。
マスク氏は2022年の生産能力が150万台を超えるとの見通しを示した。
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電池の2、3%がリチウムから構成され、1台の車がちゃんと動くには5000グラムのリチウムが必要です。テスラは世界が再生可能エネルギーにシフトする際に必要になる原材料の総量も予測しようとしています。今日は時間の関係でこれ以上話せませんが、テスラはこれらの問題をしっかり考え、数カ月以内にみなさんが興奮するような新しい情報をお届けします。
ドリュー・バグリーノ氏(パワートレイン&エネルギー担当上級副社長、以下バグリーノ):一つ補足します。テスラは電池のリサイクルに力を入れています。今は毎週約50トンを回収していますが、将来150トンに増える予定です。これらのリサイクル原材料は私たちの部品に使われるかもしれません。
マスク:ドイツの工場では、Moderl Yの車体の金属製品を生産しています。車体の3分の2はアルミニウムで、酸化アルミニウムなどの廃棄物も出ます。我々はアルミニウムスクラップを回収し、溶解して再利用します。今後はModel X、Model3、Moldel Yの全てにリサイクル原材料が使われるでしょう。
——新型リチウムイオン電池「4680」の生産状況は?
マスク:現在ベルリンの工場で生産しているのは「2170」ですが、年末に向け少しずつ「4680」にシフトします。テキサスも同様です。全て計画通りにいっています。第3四半期末か第4四半期には、徐々に「4680」の生産体制を整えられるでしょう。
バグリーノ:中国の工場が停止しているほか、昨年10月から今年3月までは半導体不足に直面しました。一方、電池の在庫については2022年の生産目標を実現する見通しが立っています。「4680」の生産については慎重な姿勢を崩さず、経験を積み、設備のアップグレードを進め、信頼性を高めていきます。
マスク:150万台生産という今年の目標には、「4680」の生産能力はそれほど影響はありません。ただ、予定通りに大規模生産ができないと、来年初めには影響が出てきます。
テスラは原材料価格の上昇が1年にわたって続くと予測しつつ、強い需要を背に値上げで乗り切ろうとしている。また、上海の封鎖が4-6月の生産・納車に影響を与えるものの、年後半には正常化すると見ている。
ただし、テスラの上海工場が稼働を再開した後も、ゼロコロナ政策は緩んでおらず、封鎖が完全に解かれるのは5月末になるとの声が多い。また、北京でも感染者が増えており、経済の麻痺が長期化する恐れもある。再び上海工場が停止となれば、年間生産・販売目標は下方修正を余儀なくされそうだ。
浦上早苗: 経済ジャーナリスト、法政大学MBA実務家講師、英語・中国語翻訳者。早稲田大学政治経済学部卒。西日本新聞社(12年半)を経て、中国・大連に国費博士留学(経営学)および少数民族向けの大学で講師のため6年滞在。最新刊「新型コロナ VS 中国14億人」。未婚の母歴13年、42歳にして子連れ初婚。