米動画配信大手ネットフリックスの2022年第1四半期(1〜3月)業績発表は、同社の将来性への失望にとどまらず、消費者向けテクノロジー(コンシューマーテック)市場全体に波紋を投げかけている。
Netflix/Angela Tricarico/Insider
ネットフリックスが決算発表(4月19日)に際して会員数の大幅減を明らかにした結果、同社の株価は翌20日に35%という大暴落を記録した。
そして、こうした出来事は今回一度きりでは済まないだろう。ネットフリックスほどの株価下落はそうそうないにしても、これから数カ月、投資家の期待や予想を裏切るコンシューマーテック(=スマートデバイスなど消費者向けテクノロジー)各社の業績発表が相次ぐことはほぼ間違いない。
そう断言できる理由はいくつかある。
第一に、ソーシャルディスタンスとロックダウン(都市封鎖)で説明できたパンデミックが一段落し、ほぼ通常通りの暮らしを回復したことに伴う人々の生活習慣の変化が挙げられる。
端的に言えば、人々がコンシューマーテック製品やネットフリックスのようなデジタルサービスに使う時間は減ってきている。
同時に、旅行や外食に出かけたり、さまざまなリアルイベントに自由に参加したりできるようになり、可処分所得の支出先を奪い合う競争が激化している。
第二に、高インフレと生活費の上昇。コンシューマーテック各社にとっては確実に大きな打撃となる。
家計が苦しいと感じ始めた人が毎月の支出から何か削るとしたら、まずはネットフリックスのようなサブスクサービスや高額なスマートフォン料金プランではないだろうか。
第三の理由は、コンシューマーテック市場の加速度的な競争激化だ。
例えば、ネットフリックスは創業からしばらくの間、革新的なオンリーワンのサービスとして栄華を誇った。それがいまや、アマゾンプライムやアップルTV、ディズニープラスなど他の動画配信サービスとの競合はし烈をきわめる。
スイス金融大手UBSの資産管理部門は、最近の顧客向けレポートで次のように指摘している。
「ネットフリックスは2022年第1四半期(1〜3月)に会員数が20万人減少したこと、四半期ベースでは創業以来初の会員減となったことを発表。翌4月20日、株価は取引開始直後の数時間で前日比約23%安(終値は前日比35%安)という大幅下落を記録しました。
同社はその理由として、北米での料金値上げ、複数世帯によるアカウント(パスワード)共有、ロシア市場からの撤退などを挙げています。
それとは別に、シンガポールの調査会社カナリス(Canalys)によれば、中国のロックダウン実施が需給の両方に影響し、2022年第1四半期のスマホ出荷台数は前年同期比11%減少しており、それも(ネットフリックス会員数減の一因として)挙げられます」
ただし、ハイテクセクターが全滅というわけではない。UBSは顧客の投資家に対し、コンシューマー向けからビジネス(法人)向けの製品・サービスを展開するテック銘柄に軸足を移すよう助言する。
「今回の(2022年第1四半期)決算発表シーズンは、デジタルサービスからハードウェアまでコンシューマーテック各社にさらなる逆風が予想されます。
デジタルサブスクについて言えば、現在のような(調整局面の)状況のもとでもレジリエンス(=強靭さ、回復力)を発揮できるB2B(=法人向け)銘柄へのエクスポージャーに当社は傾斜配分しています」
現在の状況を踏まえ、投資家はハイテクセクターへのエクスポージャーを慎重に判断すべき時期ではある。しかし、だからと言ってテック銘柄を完全に切り捨てるのでは、それはそれで過ちにつながるというわけだ。
これほど難しい状況にあっても、テック銘柄は株式市場を沸かせてくれる花形であり、慎重かつ合理的な判断を貫く投資家にとっては常にチャンスをもたらしてくれる。
英ネット証券最大手ハーグリーブス・ランズダウンの投資信託「セレクト・グローバル・グロース・シェアーズ」ファンドマネージャーのスティーブ・クレイトンは、この現状で投資家に推奨したいハイテクセクターの4銘柄を挙げる。以下はそのコメントだ。
「法人向けテック」推奨2銘柄
アメリカの四半期決算シーズンが始まりました。エネルギー企業は原油および天然ガス価格高騰の恩恵を受け、業績を大きく伸ばしたことがもうすぐ明らかになるでしょう。
ただ、最も力強い本質的な成長はやはりハイテクセクターから生まれてくると当社(ハーグリーブス・ランズダウン)は考えています。デジタルエコノミーを支える製品やソフトウェアへの需要は今後数年にわたって高まり続けると思われます。
コーニット・デジタル(Kornitt Digital)はイスラエルに本拠を置く米上場企業で、世界が抱える最も深刻な問題のひとつ、すなわちテキスタイル製造による環境負荷の改善を目指しています。
原料となる綿花は栽培に大量の水を必要とし、ファブリック製造にはさらに多くの水が使われ、染色工程も深刻な環境汚染を引き起こすおそれがあるのです。
コーニットが開発提供するデジタルテキスタイルプリント(捺染)技術は、生地を染料に浸すことなくインクを直接塗布するもの。結果として、製造工程で排出される二酸化炭素とエコロジカルフット・プリント(環境負荷)を大幅に削減できます。
ゼブラ・テクノロジーズ(Zebra Technologies)は、オフィスや医療現場、倉庫のデジタル化支援を手がけています。
バーコードスキャナとRFID(=近距離無線通信による非接触自動認識)技術を駆使することで、倉庫や工場、バックヤードにおける商品の追跡、あるいは病院における患者やスタッフ、医療機器の位置確認や追跡を可能にしています。
ゴーダディ(GoDaddy)は、中小企業や個人事業主にEコマースの恩恵をもたらすサービスを展開。
同社のコアビジネスはドメイン名の提供・管理ですが、それをベースとしつつ、オンラインストアの構築や決済機能、メールマーケティングなど小規模事業者のEコマース展開に必要な機能をパッケージ提供しています。
ゴーダディが成功をおさめた理由は、新規顧客の獲得コストの低さです。ドメイン名の取得とウェブホスティング、サイト構築を契約の入り口にすることで、事業規模の拡大に応じて(Eコマースパッケージなど)追加のプロダクトを購入してもらう形が奏功しています。
(翻訳・編集:川村力)