専門家によると、データアナリストとデータサイエンティストは現在ハリウッドで最も需要の高い職種だ。
zakokor
ハリウッドの大手メディア企業がこぞって動画配信サービスを強化したことから、エンターテインメント業界の労働市場は明るさが増している。
しかしD2C(消費者への直販)を活用した娯楽やサービスも活況に沸いてはいるものの、長引くパンデミックと相まって、雇用環境は目まぐるしく変化している。
配信コンテンツの需要の高まりを受けて、制作だけでなく裏方のバックエンドでも多くの働き手が求められている一方、「大退職(Great Resignation)」の影響で、より良いワークライフバランスを求めて多くの労働者が会社を辞めているからだ。また、エンターテインメント業界ではM&Aが相次いでおり、解雇やリストラが行われているのも実情だ。
「これほどの市場の激変は、これまで誰も経験したことがありません。仕事そのものや仕事の進め方も完全に変わりつつあります」と話すのは、JLSメディア(JLS Media)を経営するジョアンナ・スチャーマン(Joanna Sucherman)だ。同社はメディア企業と緊密に連携し、エグゼクティブ人材の紹介を行っている。
Insiderの取材に応じた専門家たちは、エンターテインメント業界では現在、数多くの求人があるが、とりわけ引く手あまたの職種はデータ分析関連業務だと明かす。
「2018年から2019年頃と比べて、今のほうがはるかに求人情報が多く出ています。理由は2つあり、一般的な配置転換によるものと、配信サービスやデジタル分野の事業拡大によるものです。公募しているのは今まで募集をかけたことのない、新しい職種です。同じような募集をしている企業は他にもあるはずです」と話すのは、ある大手メディア企業のシニア人事幹部だ。
この人事幹部によると、ストリーミング配信の隆盛によって、デジタルコンテンツ制作、デジタルマーケティング、データサイエンス、ビジネスインテリジェンス(企業などの組織のデータを収集・蓄積・分析・報告する)といった職種が新たに誕生したという。
ただし、テクノロジーによる変革のさなかであっても、ハリウッドのコンテンツ制作は、視聴者と制作陣の双方をよく知る経験豊富なリーダーが主導するべきだと主張する専門家もいる。ハリウッドは黎明期からそうしてきた歴史があるからだ。
NBCユニバーサル(NBCUniversal)やワーナー・ブラザース・ディスカバリー(Warner Bros. Discovery)などハリウッドの伝統企業は、デジタル商品や配信サービスを早急に強化しているが、アマゾンやアップルといった資金力のあるテック業界の巨人との人材争奪戦は避けられない。
一方、ネットフリックスはもともと報酬に関しては「青天井の予算」を持つ会社だと人事幹部は指摘するが、2022年第1四半期決算発表で成長の鈍化が明らかになった。仰天するような同社の報酬額は、株価の下落とともに現実的なものに落ち着くかもしれない。
人事幹部は、「我々はネットフリックスほど多額の給与は払えません。でも、これはネットフリックスと人材の奪い合いになったときに分かったんですが、ここ数カ月であちらの提示額が以前より若干少なくなっているようです。彼らもそれほど非常識ではないということですね」と話す。
ハリウッドの労働市場が過熱するなか、ニーズが急増している職種は以下のとおりだ。
1. データ分析業務
「何でもかんでもデータを活用しようとして、数字に取り憑かれているようです。視聴者はどんな番組をどのように見ているのか、いつ見始めて、いつ見るのをやめるのか、という具合です」とスチャーマンは話す。
とはいえ、「配信サービスやテレビ局にとって、データの重要性はますます高まっています。この業界を生き抜くために視聴者のニーズを把握する手段ですから」と続ける。
とりわけ需要が高まっているのは、データアナリストやデータサイエンティスト、データ解析・活用を行うエンジニア、さらにはビジネスインテリジェンスのストラテジストだ。
米経営コンサルティング会社コーン・フェリー(Korn Ferry)のメディア・エンターテインメント・コンバージェンス部門のマネージング・ディレクターであるビル・サイモン(Bill Simon)は、データ分析だけでなく、エンターテインメント業界の成長を支えるさまざまな業務やサービスにおいても、活発な採用活動は少なくとも今後数年間は続くと見ている。
シリコンバレーの企業や広告代理店、市場調査会社などもデータ分析ができる人材の確保に乗り出しており、ハリウッドは激しい人材獲得競争を余儀なくされている。
2. 人事スタッフ
エンターテインメント業界では、パンデミックや幾度かの合併による組織再編で人事部門にスポットライトが当たっている。
「そもそも人事部の重要性は理解されていなかったと思います。でもコロナ禍で人事部の活躍に多くの人が驚いたのか、企業は人事部門を強化するようになりました」と前出の人事幹部は話す。
「コロナ禍で優れた人事スタッフを持つ必要性は大きい」とスチャーマンは言う。パンデミックの発生時、人事部門は従業員をリモートワークへ移行させたり、オフィスを安全に再開させるための舵取りを担ったりしてきた。
「人事部がとても頼りになる存在だと周りが理解するようになりました。また、業界内で合併が相次いだこともあって、優秀な人事スタッフは不可欠です。組織の統合を支援して企業文化を醸成したり、社員同士のつながりを深めたりすることができますから」とスチャーマンは話す。
3. 広告営業
ストリーミング配信各社は広告戦略を強化しているため、さまざまなプラットフォームで広告の運用を担う広告営業部門は、経験豊富なスタッフを切実に必要としている。広告収入を確保するほか、提携企業やスポンサーを獲得するための営業活動も担う人材であり、サイモンは「需要の高い分野」という。
前出の人事幹部はネットフリックスが広告モデルの導入に関心を寄せていることに触れ、「我々の広告営業部門の離職率が若干高まっています。人材の争奪戦は今後、過熱するでしょう」と見る。
ネットフリックスがゼロから新しい広告部門を立ち上げるとなれば、広告営業の人材をめぐって熾烈な獲得競争が繰り広げられるだろう。他のメディア企業は自社の人材の引き抜きを阻止しようと躍起になるに違いない。
4. テレビや映画の制作スタッフ
ハリウッドでは、コロナ禍に見舞われた2020年はほぼ通年にわたって実写映画の制作を停止していたが、現在はテレビ・映画業界は活況を呈している。その背景にはパンデミック初期に滞っていた制作が一気に再開したことと、配信会社による強い制作意欲がある。
テレビや映画の制作はただでさえ心身ともに疲れ切ってしまう仕事だが、制作契約が続々と結ばれている今、スタッフはさらに過酷な業務を強いられることになりかねない。
「これは需要と供給の問題です。制作すべきコンテンツは山ほどあるのに、そのつくり方を知っている人は、ほんのわずかしかいないのです」と人事幹部は話す。
また、アマゾンやアップルがスポーツ中継にも参入したことで、スポーツ番組制作に長けた人材のニーズも高まっていると人事幹部は指摘する。
5. 経験豊富なクリエイティブリーダー
「ストリーミング配信サービスの競争が激化している中ではオリジナル番組がカギとなるので、優秀でクリエイティブな制作リーダーが常に求められています。視聴者を惹きつけるには、素晴らしいオリジナル番組を提供しなくてはいけません。そんな番組を制作できる人材が必要なんです」とスチャーマンは話す。
サイモンは、管理職に特に求められているのは「仕事をきちんとこなせる人」、つまりコンテンツを制作し、継続的に供給していける人材だと強調する。
大規模なストリーミング配信事業のマネジメントについて、サイモンは「経験豊富な人材はそう多くはいません。ふさわしい人材は非常に限られているので、需要に追いついていないのです」と話す。
[原文:Want to work at Netflix or Amazon? These 5 job sectors are heating up in the entertainment industry.]
(翻訳・西村敦子、編集・大門小百合)