撮影:三ツ村崇志、伊藤有
ソニーと、医療プラットフォーム事業などを手掛けるエムスリーは、4月26日、合弁会社サプリムを設立することを発表した。
サプリムでは、デジタル技術を活用して病気を治療するデジタル治療(DTx:デジタルセラピューティクス)を視野に、在宅でのリハビリ支援を行う身体機能改善事業や高齢期の虚弱(フレイル)予防事業、IoTを用いた医療センシング事業などを展開するとしている。
サプリムの資本金は5億円。出資比率はエムスリーが51%、ソニーグループが49%だ。社長には、エムスリーから山根有紀子氏が就任した。
「楽しい治療」でウェルビーイングを
SONYの事業は、多岐にわたる。
撮影:小林優多郎
エムスリーは、2000年にソニーコミュニケーションネットワーク(現・ソニーネットワークコミュニケーションズ)からの出資によって設立された、ソニーが大株主を務める企業だ。
直近では、新型コロナウイルス対策支援をきっかけに、遠隔面会ソリューションの提供やCOVID-19疑い症例の判定支援AIの普及などで協業が進んでいた。
記者会見に参加したエムスリーの片山洋一業務執行役員は、そういった経緯があった中で多くの患者やその家族からの反響を受け、
「われわれの協業も期間限定の取り組みではなく、中長期的に価値をより大きく、そして継続的に提供できるよう新会社を設立しました」
と新会社設立の意図を語った。
人が病院に足を運ぶのは、体調が悪くなった時だ。
一方で、これから先、高齢化社会が加速していく中で、病気にならないようにしっかり健康を維持する(病気を予防する)ことや、病気になったとしてもうまく付き合いながら生きていく「ウェルビーイング」の考え方が重要だとされている。
今回設立した新会社・サプリムの強みは、エムスリーが抱えるプラットフォームや医療の知見と、ソニーのデジタル技術やエンタメビジネスなど、多様な事業で培ってきたクリエイティビティにある。
エムスリーの片山執行役員とソニーグループの御供俊元執行役専務は、今回の新会社設立で目指すものについて、それぞれ次のように語った。
「『健康で楽しく暮らす人を一人でも多く増やすこと』これを目指し、患者さんが前向きに、楽しく治療に向き合える医療を実現していきたいと思っています」(エムスリー・片山役員)
「今回設立する新会社ではこうした両者の強みを活かしウェルビーイングを実現する総合的なデジタルヘルスケアソリューションの実現を期待しています。」(ソニーグループ・御供専務)
長くつらいと思われがちな治療の中に、「楽しさ」がある意味は大きい。記者会見では、その一環としてソニーが持つIP(映画や音楽などのコンテンツ)の活用についても、これから前向きに検討していきたいとの見方が示された。
数兆円の市場の一角を担えるか
4月26日から提供を開始したアプリ「リハカツ」。場所にしばられずにリハビリをすることができる。
撮影:三ツ村崇志
記者会見では、サプリムが提供する第一弾サービスであるアプリケーション、在宅リハビリサービス「リハカツ」(4月26日に iOS/Android向け配信が開始)も発表された。
日本国内では、要介護認定者数が年々増加傾向にあり、そのうち脳卒中などの影響で継続的なリハビリが必要となった方の数は290万人とも推定されている。
リハカツでは、ソニーが長年研究開発を続けてきた姿勢推定技術AIを活用。画像認識によって、自宅にいながら正しい運動ができているかを確認できる。
姿勢推定を判定するAIには、2014年より脳梗塞リハビリセンターを展開しているワイズがデータ・知見の提供で協力した。
ソニーが開発してきた画像認識AIの技術などを活用している。
記者会見の画面をキャプチャ
アプリでは、身体の動きの正しさを評価したり、患者に合ったトレーニング方法を提案したりするとともに、理学療法士とコミュニケーションを取りながらのリモートレッスンも実現するなど、一人では続けにくいリハビリを支援する。
現在、アプリは期間限定で無料提供している。今後、有料版の提供も検討しているが、料金形態はまだ公表されていない。
新会社サプリムの山根有紀子代表。
記者会見の画面をキャプチャ
現時点で、リハカツは保険適用外のサービスとして提供していくとしている。ただし、リハカツ含めて、サプリムでは今後さまざまなデジタル治療のソリューションを開発する予定だ。
山根代表は、「長期的には保険償還(保険適用)して臨床現場で使っていただけるようなものを提供することも視野に入れて活動を進めております」と、将来的には保険を利用して患者負担を軽くしたプログラムの開発も視野に入れていると語った。
会見では今後開発するプログラムの具体例として、心拍などのデータを計測し、医療従事者と共有することで健康管理や運動支援を実施することや、糖尿病などのや疼痛管理、睡眠時無呼吸といった他の疾患への対応を検討していく方針が示されている。また、「リハカツ」については、近日中に実証実験を実施するとしている。
Apple Watchなどを始め、海外ではウェアラブルデバイスなどのテクノロジーを医療・ヘルスケアに活用する取り組みが増えており、DTxの市場も、世界で数兆円規模に成長するとも言われている。
「われわれとしても、その一角が担えるような事業を展開していきたいと考えております」(山根代表)
(文・三ツ村崇志)