ニューヨーク市スタテン島にある、アマゾンの「LDJ5」仕分けセンターの外で、「アマゾン労働組合(Amazon Labor Union:ALU)」のメンバーが労働者たちに呼びかけている。スタテン島の別の倉庫「JFK8」では、4月1日に労働組合の結成が決まった。同地区にあるこの倉庫でも、労働組合の結成をめぐる投票が行われたが、5月2日からの開票の結果、反対多数で否決された。2022年4月25日撮影。
REUTERS/Brendan McDermid
- 大企業の利益の推移と、そこで働く従業員の賃上げ実態を比較したブルッキングス研究所の新たな報告書が発表された。
- このうち、「勝ち組」企業とされた5社を見ると、その利益の合計額は、2020年1月から2021年10月までの期間で41%上昇した。
- これに対して、これら5社を合わせた賃金の上昇率は、インフレ調整後で5%と、利益に比べて大幅に小さかった。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックにより、大勢の労働者が突然職を失い、世界経済は未知の領域に突入した。
しかし、経済の実態に目を移すと、全員にとって悪い状況だったとは言えないようだ。アマゾン(Amazon)やターゲット(Target)といったアメリカの大企業は、全世界が休止状態に追い込まれた中でも、巨額の利益をあげた。ブルッキングス研究所が発表した新たな報告書では、こうした利益を、労働者の賃金と比較している。
ブルッキングス研究所のフェローで、報告書の共著者の1人でもあるモリー・キンダー(Molly Kinder)は、今回の調査の裏にはこんな問題意識があったと明かす。
「企業はより平等でインクルーシブ(包括的)、なおかつ公正な資本主義へと移行しつつあるだろうか、特に多くの労働者が献身的な働きを見せた、他に類を見ないパンデミックの時期に企業はどのような動きを見せたのだろうか、という疑問があった」
その結果、企業の利益が急増する中でも、労働者に支払われる賃金は、大半のケースで、利益と同じような幅では上昇していないことが判明した。これは、パンデミックに関してよく聞く話のひとつだ。そして、低賃金の労働者が記録に迫る勢いで続々と辞めている現在の状況を、さらに勢いづかせる可能性を持つ調査結果でもある。
ブルッキングス研究所はこの調査で、時給ベースで働く現場労働者が多い22の企業に着目した。そのうち12社は、同研究所が「勝ち組」と呼ぶ企業だ。キンダーによると「パンデミック前よりも、パンデミックに入ってからの方が、業績が良かった企業」を勝ち組と定義したという。
「これらの『勝ち組』企業のうち4分の3は、2020年に史上最高の利益を報告している」と、報告書では指摘している。
パンデミックの中で「勝ち組」となり、なおかつブルッキングス研究所が賃金データを入手できた、アマゾン、ウォルマート(Walmart)、CVS、ターゲット、クローガー(Kroger)の5社を見てみよう。
これら5社の利益の合計額は、インフレ調整後で41%増加した。その一方で、労働者に支払われる実質賃金は、わずか5%しか上昇していなかった。報告書によれば、これはつまり「企業の利益は、労働者賃金の8倍のペースで増えている」ということだ。
キンダーはInsiderの取材に対し、「大退職時代」の到来と、賃金の上昇トレンドにより、時給で働く低賃金労働者は、「現在の経済状況のなかで最も得をした層」と見られているかもしれない、と述べた。だが実際には、「盛んに報じられてはいるものの、低賃金労働者が実際に手にした賃上げは、報道から想像される額には遠く及ばない」とキンダーは指摘する。
「インフレのせいで、賃上げのかなりの部分は目減りしてしまっている。そもそも、賃上げ自体が非常にささやかな額なのだ」
キンダーによれば、調査で話を聞いた労働者たちからは、「報道は、自分たちの実感とはかけ離れている」という声を耳にしたという。食料品やガソリンの代金を支払っていると、自分たちの生活レベルが向上しているとは思えないというのだ。
アマゾンを例にとろう。アマゾンの利益の伸び率は、インフレ調整後で94%に達した。同社の労働者の実質賃金の上昇率がわずか10%だったのと比較すると、実に大きな数字だ。
「最も業績の良い企業でも、賃金の上昇率はささやかなものだ」とキンダーは述べる。
「これまでの2年というスパンで考えてみても、平均上昇率は5%だ。現時点で計算すれば、この数字はさらに小さくなるだろう」
ニューヨーク市のスタテン島にあるアマゾン倉庫で働く従業員たちは2022年4月1日、労働組合結成の是非を問う投票を行った。その結果、結成に賛成が多数を占め、同社初の労働組合が結成されることになった。彼らの要求のひとつは「最低時給30ドル(約3900円)の保証」だ。
また、ターゲットの場合も、インフレ調整後の利益は73%増となっている。これと同じ期間に、実質賃金はわずか3%しか増えなかった。左派のシンクタンク経済政策研究所(Economic Policy Institute:EPI)とシフト・プロジェクト(Shift Project)が新たに立ち上げた賃金トラッカーによると、ターゲット従業員の82%は、時給14ドルから16ドル(約1820円から2080円)で働いている。
ウォルマートに目を移すと、利益の伸び幅はインフレ調整後で6%にとどまった一方で、同じ期間に賃金は9%上昇した。ウォルマートは、ブルッキングス研究所が注目した5社の中で唯一、賃金の上昇率が利益の伸び率を上回っていた。上記の賃金トラッカーによると、ウォルマートでは時給15ドル(約1950円)未満の従業員が、全体の51%に達している。
CVSでは、インフレ調整後の利益の伸び幅は17%増、実質賃金の上昇率は3%だった。EPIとシフトの賃金トラッカーによると、CVSでは時給15ドル未満の従業員が占める割合は全体の32%だった。
CVSの広報担当者は、Insiderに宛てたコメントでこう述べている。
「パンデミックの期間を通じて、当社は、薬剤師をはじめとするエッセンシャルワーカーの従業員に対して、何度かボーナスを支払った実績がある。これは、当社のお客様が暮らすコミュニティを支えるという、彼らの重要な役割を認めた証だ。さらに当社では、企業全体で見た最低時給を、2022年7月までに15ドルに引き上げるという誓約もしている」
クローガーの利益は、インフレ調整後で59%増だった一方、実質賃金の上昇率はわずか1%だった。2022年1月、コロラド州で働くクローガーの従業員8000人以上がストライキを決行し、その一部は時給にして5ドル以上の賃上げを勝ち取った。
Insiderではこれらの企業にコメントを求めたが、CVSを除くアマゾン、ターゲット、ウォルマート、クローガーの4社からは回答がなかった。
これら5社の「勝ち組」企業の従業員は確かに、2020年の年頭と比較して、インフレ率を上回る賃上げを手にしている。それでも、物価上昇が賃上げのかなりの部分を奪っていることもまた事実だ。
キンダーは、調査した企業の大半が賃上げに踏み切ったとしながらも、「インフレによって、こうした賃上げによる実際の購買力の上昇効果が大幅に損なわれたと、労働者は感じている」と断じた。
さらにキンダーは、以下のような重要な点を指摘している。
「これらの企業の多くは、そもそもの賃金のレベルがとても低い。実質4%の賃上げを実施したとしても、元々がかなりの低賃金なため、こうしたところで働く従業員の大半は、上昇後の賃金でも依然として生活費を賄うのに不自由する状態だ」
(翻訳:長谷 睦/ガリレオ、編集:Toshihiko Inoue)