食用油として世界で大きな需要のあるパーム(アブラヤシ)油。世界最大の生産国インドネシアの禁輸措置の波紋が急速に広がっている。
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4月22日、食用油の主要生産国インドネシアはパーム(アブラヤシ)油の輸出禁止を発表。パーム原油は対象にならないとの報道も一次あったが、28日に全面禁輸が始まった。
国内供給の安定化を通じた価格上昇の抑制、言い換えればフードセキュリティ(食料安全保障)を確保するのが狙いという。
インドネシアは世界最大のパーム油生産国で、世界生産量シェアは59%(2021年、米国農務省海外農務局調べ)、2位(同25%)のマレーシアを大きく引き離す。輸出禁止措置が世界にもたらす影響は甚大だ。
ウクライナに軍事侵攻したロシアは西側諸国の経済制裁を受け輸出減は必至、侵攻を受けたウクライナについても小麦生産量が最大半減するとの予測が出るなど、食料の供給や価格の先行きには深刻な懸念が寄せられている。
この厳しい現状に世界の投資家たちが注目しないはずもなく、金融市場も同様の苦しみを味わう日が間もなくやって来ると警鐘を鳴らす向きもある。
例えば、スイス金融大手UBSの高度投資戦略・調査部門チーフ・インベストメント・オフィス(CIO)は顧客向けレポートで以下のように指摘する。
「ロシアは世界最大の小麦輸出国であり、同時に世界最大級の肥料生産国でもあります。同国の(経済制裁による生産や輸出の)低迷は農産物の価格を押し上げ、なかにはすでに記録的な水準に達しているものもあります。
ウクライナについては、2022年の主要作物の生産量が前年比40%減、価格の高止まりは2023年に入っても続き、農産物輸入国は供給元の多様化を迫られると予想されます。
また、ロシアからの肥料供給が大幅に制限されることから、農家は種子の生産・処理関連技術や機械化による作物収量の最大化や(エネルギーや水など)資源投入量の削減を実現するソリューションに重点を置くようになると予想されます」
また、英投資運用会社プレミア・ミトン・インベスターズのマクロテーマ型マルチアセット部門ファンドマネージャー、アンソニー・レイナーの見方は次のようなものだ。
「補助金を受けたトウモロコシを原料とするバイオエタノール生産の拡大、気象パターンの不安定化、飼料用穀物の需要増を伴う食肉生産の増加など、現在の食料価格上昇には長期的なダイナミクスも作用しています。加えて、農産物の生産と輸送に欠かせないエネルギーコストも食料価格と深いかかわりがあります。
ここ最近のインフレの影響は足もとで広範囲に影響を及ぼしており、最近のスリランカでの動きはまさにその典型例です」
スリランカでは、多くを輸入に頼る食料品やエネルギーの価格が高騰。輸入代金の支払いに充てる外貨準備高の不足(=ロイターによれば、過去2年間でおよそ7割減り、2022年3月の残高は19億3000万ドル)も相まって、ここ数十年で最悪の経済危機に陥っている。
通貨のスリランカルピーは年初来、対ドルで3割以上下落し、国内総生産(GDP)比の債務比率が急拡大して経済危機の深刻化につながっている。
「新型コロナ感染拡大によるロックダウン(都市封鎖)が重要な収入源である観光に深刻な影響を及ぼし、それだけで経済は十分弱体化。さらに、ロシアのウクライナ侵攻前から続く高インフレに輸入の減少が拍車をかけ、3月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比20%近い水準に達しています。通貨暴落と外貨準備高の激減という実態も踏まえて、中央銀行は4月8日に政策金利を2倍(7%ポイント)引き上げています」
最も重要なのはもちろん、こうした食料や燃料をめぐる構造変化が家計にもたらす悪影響だが、投資家にとってもこの日々刻々と変わる状況は深刻な影響を及ぼす。
UBSチーフ・インベストメント・オフィス(前出)はこう分析する。
「将来予想される混乱や供給途絶への懸念が、収量改善や食品廃棄物の発生抑制、サプライチェーンの効率化などを含めた、消費地により近い農作物の生産体制構築への投資を促すことになるでしょう。
当社が運用テーマのひとつとする『食料革命』は、食料生産のネガティブな影響を低減しフードセキュリティ(=食料の安全保障)を高めるテクノロジーをバリューチェーンに投入することに主眼を置いており、上記のような(収量改善などの)投資はその重要な構成要素と考えています」
こうした状況を踏まえ、投資家にとって選択肢として考えられるのは、コモディティ(商品)の値動きに連動するトラッカーの購入だ。
「記録的なインフレレジームのもとで、コモディティは全般的に良好なパフォーマンスを示してきました。ロシア・ウクライナ戦争で生じるさらなる供給混乱のリスクを考えると、コモディティは今後も地政学的ヘッジとして有効に機能すると思われます。
今後6カ月間、コモディティ指数のトータルリターンは全般的に、現在より10%上昇する余地があります。
当社としては投資家の皆さまに対し、アクティブ戦略のコモディティ運用商品を通じたエクスポージャー(=特定のリスクに資産をさらす割合)を取り、コモディティのロングポジション(買建て)を維持するよう推奨しています」
多くのリテール(個人投資家向け)ブローカーが取り扱う「コモディティ上場投資信託(ETC)」は、小麦、トウモロコシ、コーヒー豆など他の農作物へのエクスポージャーを取るためのシンプルで費用対効果の高い手段と言える。
UBSによれば、個別銘柄を通じてこの(「農業革命」のような農作物にまつわる)テーマに投資しようと考えるなら、フードテックおよびアグリテック分野の主要企業が必然的に対象になる。
出発点として、遺伝子組み換えやゲノム編集を駆使する種子関連技術で知られる米モンサントを2018年に買収した独バイエル、農薬・種子を手がける米コルテバ・アグリサイエンス、イスラエルの植物ゲノム編集技術企業エボジーン、カナダの農業ソリューション企業ニュートリエンのフードテック4社が挙げられる。
(翻訳・編集:川村力)