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Twitterは長らく、創業者のジャック・ドーシーとその後任の新CEOパラグ・アグラワルのもと、純粋なミッション志向の社員が集う企業と見なされてきた。しかし、買収によって間もなくこのプラットフォームを所有することになるイーロン・マスクはこの型にはまらないため、すでに退職を考えている社員もいる。
現在は別の会社を率いるTwitterの元幹部は、Twitterの社員から求人の問い合わせがひっきりなしに来ると話す。
「エクソダス(集団退職)が起きるという認識は正しい」とその人物は語る。Twitterのミッションを引き継ぐ能力があるからこそ新CEOに選ばれたと社内で見られているアグラワルの今後の待遇については、元幹部はマスクが彼を引き留めることは「おそらくない」と見ている。
最大の懸念はマスクの無理解
この元幹部は次のようにも指摘する。マスクがTwitterを所有することになった際に社員や幹部が懸念しているのは、マスクの衝動的なリーダーシップスタイルと、彼の物議を醸す物言い、後先考えない脊椎反射的な行動で会社を動かそうとすることだ。
また、コンテンツ・モデレーションの背後にある「ニュアンスと複雑さ」に対してマスクが無理解であることも気がかりだ、と先の元幹部は話す。Twitterがアプリの収益性向上とユーザー基盤の拡大のために、プラットフォーム上でのハラスメント、ヘイトスピーチ、有害コンテンツなどを制限するべく長年かけて取り組んできたことも、マスクは理解していない。
「マスクが経営を引き継ぐのはよくない展開ですね」と元幹部は語る。「彼は事柄の重要性を理解していませんし、社員も彼が理解していないことを懸念しています」
Insiderの取材に応じた3人の現役社員によると、社員たちの間では積極的に転職活動をしていることや他社の面接を受けることについて、比較的オープンに語られているという。ある社員は次のように話す。
「新しい人もどんどん入ってきていますし、会社はまだまだ成長し続けています。それでも、辞める人は辞めてしまうんでしょうね。自分が辞める可能性について、ネットでは誇張して実生活では控えめに話している人が多いみたいですけど」
この社員は、もしマスクを何とかかわすことができれば自分はおそらく会社に留まると思う、と言う。退職したい理由はひとえにマスクの存在なのだ。プラットフォーム上のコンテンツ・モデレーションに関するマスクの発言、彼がTwitterを望む理由、気まぐれなワーカホリックとしての彼の評判である。
「全部イーロン(・マスク)のせいですよ。彼を認めない人たちは一斉に退職するでしょうね」
Twitter社員の間では、イーロン・マスクのリーダーシップスタイルに対する不信感も根強いという(写真はサンフランシスコのTwitter本社)。
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人材紹介会社スタントン・チェース(Stanton Chase)の北米テクノロジー部門責任者グレッグ・セルカー(Greg Selker)は、ここ数週間多忙を極めている。以前はコンタクトしても相手にされなかったTwitter社員(上級幹部社員数名を含む)が、セルカーに連絡してくるのだ。別の技術系人材紹介会社でも、マスクの買収攻勢以来Twitter社員からの問い合わせが増えているという。
「Twitterには優れたカルチャーがあるので、社員もこの職場環境を気に入っていました。それが社員の維持にうまく機能していたんです。しかし、社員たちが退職を考えていることは間違いないですね」とセルカーは言う。
またセルカーは、プラットフォームの運営方法に影響を与えかねない“マスク後の変化”や、その「長期的な関連性」に対する懸念の声も挙がっていると指摘する。
社員が動くかどうかはストックオプション次第
とはいえ、マスクがオーナーになった初日に社員の大量退職が起こる可能性は低そうだ。Twitter社員の大多数は、総報酬の一部がストックオプションの権利確定までの対象勤務期間に依存しているため、退職の判断はストックオプションの扱いや行使条件に左右されることになる。
エスクワイア・デジタル(Esquire Digital)のチーフ・リーガルアナリスト、アロン・ソロモン(Aron Solomon)は、「道徳的、ビジネス的に妥当な懸念を抱いている社員たちからは退職者が出るでしょうね。オプションの権利が確定した後だとは思いますが」
テック企業では一般的に、ストックオプションの権利が確定するまでの対象勤務期間は4年となっている。Twitterも同様で、毎年25%、毎月8%強の譲渡制限付き株式ユニットの権利が確定する。
マスクはTwitterの非公開化を提案しており、上場廃止となれば株式を公開市場で売買することはできなくなるが、社員は今のところ、付与された株式がどうなるのかについてほとんど知らされていない。
ニューヨーク・タイムズ紙は、Twitterの顧問弁護士であるショーン・エジェット(Sean Edgett)が社員に語った内容として、買収候補者は社員持分をそのまま維持するか、現金支給など同等の報酬を提供するよう求められる可能性が高いと報じている。
前出のソロモンは、Twitterが非公開になっても株式を公開市場で発行できなくなるというだけで、株式を保有し続けたり、社員に追加発行することもできると言う。買収のオファーがなされた場合でも社員は株を保有し続けられるが、マスクの買収条件がいかなるものであっても、権利確定条件は変更される可能性がある。
株価が上昇していることを考えると、たとえマスクが嫌いで退職を考えていたとしても、ストックオプションを付与されている社員はできれば株を持ち続け、「マスクの波に乗りたい」と思っているのではないか、とソロモンは見ている。
なおソロモンも、アグラワルがTwitterに残留するというシナリオは考えておらず、「取締役全員がいなくなるでしょうね」と語った。
(編集・常盤亜由子)
[原文:Twitter insiders say an 'exodus' is likely to follow Elon Musk's takeover: 'It's all about Elon']