「すごろく飲み動画」に波紋。酒類業界団体も問題視、専門医も警鐘鳴らす「飲酒のゲーム化」

ウェイウェイらんど2!

「すごろく」を使って飲酒するゲーム「ウェイウェイらんど!」はYouTuberの間で人気の動画ネタになっている。同梱の小瓶の酒は「クライナーファイグリング」という名称で単体でも販売されている。

撮影:小林優多郎

「すごろく」や「コール」などゲーム感覚で飲酒する動画が大きな再生回数を稼いでいることに、医師や依存症当事者・家族の支援者らが危機感を募らせている。

4月6日、この懸念について問題提起し、該当するYouTuberの所属事務所にも見解を問い合わせた。ところが所属事務所、YouTuberともに4月27日時点で返答はない。

アルコール依存の治療に携わってきた医師は「心身に対するアルコールの害は、違法薬物以上に深刻」と指摘。飲み慣れない若者が動画を面白半分に真似ると、急性アルコール中毒だけでなく性加害や暴力なども招きかねないと、懸念を露わにする。

医師の指摘、そして酒類の業界団体も問題視する現状を取材した。

すごろく飲酒動画が合計で2000万回再生

ウェイウェイらんど2!

「宅飲みを盛り上げるすごろくパーティーゲーム」と公式で説明されている「ウェイウェイらんど2!」。

撮影:小林優多郎

「これは心配ですね」

アルコールや薬物依存の治療に長年携わってきた国立精神・神経医療研究センター薬物依存研究部長の松本俊彦医師は、あるYouTubeの動画を1本見るなり声を上げた。

「若者に人気のYouTuberが、ゲームの中で面白おかしく飲む様子を見せるのは、依存症の臨床に関わる身として、非常に由々しき事態です」

洋酒輸入業者「シトラム」が販売する12本入りリキュールパック「ウェイウェイらんど2!」には「すごろく」が同梱されている。

57個あるマスのうち多くは「おっはモーニング、朝の覚醒酒で乾杯」「炙りカルビと言えなかったら飲む」など、飲酒を指示したり、飲酒ゲームを促す内容だ。

人気YouTuber「Fischer’s(フィッシャーズ)」の動画では、メンバーたちがこうしたすごろくのマスに止まるたびに、爆笑しながらリキュールの小瓶を空けていく。

12本全部空けてもゴールにたどり着かず、追加で飲んだ缶ビールなどが林立するシーンもある。

2020年11月に公開された動画は、2022年4月時点で800万回以上の再生回数を記録している。第2弾「ウェイウェイらんど!2」の動画も公開されており、再生回数は200万回を超える。

動画:Fischer's-フィッシャーズ-

同種の「すごろく飲み」動画は他のYouTuberも多数公開しており、再生回数の多い上位5本の動画だけでも、合計の再生回数は2000万回を超える。

リキュールボトルは20ミリリットルの小瓶とはいえ、中身のアルコールは度数15度から20度と、一般的な日本酒を上回る。

さまざまなフレーバーを付けて飲みやすくしている上に「次はこの味を試したい」というモチベーションにつながる点も危険だと、松本医師は指摘する。

「強い酒を一気にあおる『ビンジ(過度な)・スタイル』は、食事と一緒にお酒を楽しむのと違い、ただ酔うため、ハイになるための飲み方。まさにお酒をドラッグとして使っています」

また、松本医師は以下のようにも語る。

「リキュールパックは動画が格好の広告となって商品もヒットし、若者のアルコール離れが進む酒販業界にとって『希望の光』だったのかもしれません。しかし本来は、業界やメディアといった『大人たち』こそ、自分たちの商品や動画が、若者にどんな結果を招きうるか考えるべきです

大手YouTuber事務所UUUMは回答せず

UUUM-1

2019年撮影

撮影:伊藤有

編集部では「すごろく飲み」動画を公開しているYouTuberが複数所属するマネジメント会社UUUMに、動画掲載の経緯や今後の対応の有無などを問い合わせた。

UUUM広報はBusiness Insider Japanからの問い合わせを認識してはいるものの、4月27日時点で回答は得られていない。

また既報のとおり、YouTubeとTikTokはアルコールに関する動画について、自社で設けたガイドラインに抵触する場合、削除などの対応を取っていると回答している。

「飲酒のゲーム化」命の危険もある

国立精神・神経医療研究センター薬物依存研究部長の松本俊彦医師

国立精神・神経医療研究センターで薬物依存研究部長を務める、松本俊彦医師。

画像:オンライン取材よりキャプチャ

動画ではYouTuberたちが楽しげにゲームに興じているが、現実にはお酒に弱い人や体質的に飲めない人、強い酒が嫌いな人もいる。

しかし仲間たちからの圧力である「ピアプレッシャー」が、飲みたくない人たちの声を封じてしまう恐れがあると、松本医師は説明する。すごろくに限らず、飲み会での「山手線ゲーム」や一気飲みの「コール」なども同様だ。

「大抵の若者は、飲み会でゲームが始まったら、場を白けさせまいと嫌でも参加してしまうでしょう。特に新入生や新入社員は、コミュニティに迎え入れてもらおうと必死で、大抵の理不尽な仕打ちを受け入れてしまいがちです」

アルコールや他の依存症問題の予防に取り組む「ASK」の今成知美代表は、すごろく飲みの動画を最初に見た時「YouTuberの姿が、後輩に過度の飲酒を強いて、死に至らしめた大学生たちに重なった」と語る。

「被害者の遺族を30年間支援してきましたが、元気で玄関を出た我が子が遺体で帰ってきた……という遺族たちの驚きと悲しみ、無念は計り知れません。それを知るだけに、動画で飲酒をゲーム化する若者たちを見て、あまりの無謀さに唖然としました」

ASKへの相談の中には「大学生の娘がサークルの飲み会に参加する時、先輩に保険証を持ってくるよう指示された」という内容もあった。

「救急搬送されるかも、と本人たちも認識するほどの無軌道な飲み方が、常態化していたのです」(今成さん)

また、飲み会後に急性アルコール中毒で死亡した若者の中には、遺体に無数のいたずら書きがあったり、裸の写真をSNSに投稿されたりした人もいたという。

「周囲の仲間は多くの場合自分たちも酔っていて、酔いつぶれた人の命が危険にさらされていることに全く気付かず、ふざけてこうした行為に及んでいます。集まると暴走しがちな20代前半の若者が、お酒の事故に巻き込まれるリスクはいたる所に潜んでいます」

酒類の業界団体「短時間での大量飲酒につながる恐れ感じた」

ウェイウェイらんど2!

「1分間で好きなだけ飲む」など、大量の飲酒を促すコマもある。

撮影:小林優多郎

2013年に成立した「アルコール健康障害対策基本法」は、酒を扱う事業者に対して、アルコールによる健康被害の防止に努める義務を定めている。

酒の製造販売に関わる複数の業界団体が集まった「酒類業中央団体連絡協議会(酒中連)」も、広告やパッケージなどに関して「過度な飲酒につながる表現」を使用しないなどの自主基準を設けている。

子どもを失った遺族らでつくる「イッキ飲み防止連絡協議会」は3月、酒中連に対して、要望書を提出した。

事態を放置すればシトラムがさらなる商品展開をしたり、他社が類似品を売り出したりする恐れがあるとして、すべての酒造・酒販業者に基準を順守させるよう求めている。

酒中連は取材に対して、「(すごろく飲みの)動画を見たが、短時間での大量飲酒につながる恐れがあると感じた」という。

ただ、リキュールパック販売元のシトラムは酒中連には加盟しておらず、自主基準の遵守義務はない。

シトラムへ働きかけたかという質問については「個社への対応については言及を控える」とした一方で「一般論」として「非加盟社に対しても法律の内容を伝え、改善の検討をお願いする」と説明した。

さらに加盟社に対しては、類似品を発売するなど追随行為を防ぐための注意喚起をしたという。

アルコールは薬物より依存性強い

飲み会

暖かくなり、気持ちも緩みやすい季節だからこそ、過度な飲酒は禁物だ。

Shutterstock/501room

松本医師は「忘れてはいけないのは、アルコールは薬物など他の依存物質に比べて、依存性も強く健康への被害もダントツに大きいという事実です」と強調する。

松本医師の患者も「内臓にダメージを受けて血液検査の結果がめちゃめちゃな人の大半は、薬物ではなくアルコールの依存症者」だという。

アルコールによって肝機能が侵されると体内の解毒作用が低下し、造血能力や免疫力も低下する。膵臓から分泌されるインスリンの量が減って糖尿病を発症したり、急性膵炎、慢性膵炎になったりすることもある。

さらに心筋の働きが弱まって心臓が肥大する「アルコール性心筋症」や、脳の萎縮も引き起こすという。

依存症に陥る人は、「若い時に無茶な飲み方をしていることが多い」とも、松本医師はいう。

20代のうちから仲間との飲み会で、限界を超えるような飲酒を繰り返していると、年齢を重ねて1人で飲むようになった時も、大量飲酒の状態からスタートしがちだからだ。

「コロナ禍の自粛ムードは和らいだものの、今もまだ居酒屋など外の店では、大勢で騒ぎづらい雰囲気が残っています。若者が仲間と家ですごろく飲みをしてハイになり、急性アルコール中毒や将来の依存症リスクを高める恐れは十分にあります」

さらにアルコールは他の依存物質に比べて、周囲への暴力やDV、児童虐待、性暴力などの加害を引き起こしやすいという。すごろくには「相手の背中にひっつく」「においをかがれる」などセクハラを助長しかねない指示もある

実際、前出のFischer'sとは別のYouTuberによる動画の中には、20歳になったばかりの女性YouTuberが、男性数人とすごろく飲みをする内容も見られた。

「動画をプライベートでまねる人が出てきたら、暴力や性被害のリスクが高まり非常に危険。臨床現場では、性暴力を受けた女性がトラウマを抱え、酒に逃げて依存に陥り受診する痛ましいケースも多々あるのです」

と、松本医師は語気を強めた。

(文・有馬知子、編集・西山里緒


有馬知子:早稲田大学第一文学部卒業。1998年、一般社団法人共同通信社に入社。広島支局、経済部、特別報道室、生活報道部を経て2017年、フリーランスに。ひきこもり、児童虐待、性犯罪被害、働き方改革、SDGsなどを幅広く取材している。

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